ワイルドウエスト・ドラゴンテイル ~拳銃遣いと龍少女~

空戸乃間

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第一話 拳銃遣いと龍少女

選択肢《ワースト・オブ・トゥ・オプション》Part.2

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「お前、ダチの魔女は死んだって言ってなかったか?」
「彼女がです? まさか、殺したって死にませんよ」

 最高のジョークを聞いたかのように、アイリスは笑っていた。

「宿で聞いた時は、『もう会えない』みたいな口ぶりだったろ」

 二日前にアイリスがこの話をした時は、間違いなく落ち込んでいて、深い後悔と別離の悲しみに満ちていた。彼女が孤独に苛まれていたから、レイヴンもある種同情めいた物を憶えていたのだ。
 だのに、彼女はぷりぷり頬を膨らませていた。
 どうやら呪われるに至った経緯について不満があるらしく、彼女は早口で捲し立て始める。

「そうそう、そうなんです! レイヴン聞いてくださいよ、酷いと思いませんか⁉ 確かにあの子が腹を立てるのも分からなくはないのですが、それにしたって友達に呪いをかけて、北の森から遙か彼方の荒野に放り出すなんて、鬼畜の所行です! 鬼です、悪魔です! いくらわたしに、多少の非があるとはいえですよ? 謝っている相手に対して、あまりに惨いと思いませんか⁉」
「……んで?」
「んで? ってレイヴンも冷たいですね」

 同意を求めるのはいい、同情を誘うのもだ。ただし、アイリスは物事を第三者に判断させる上で大切な部分をまだ話していなかった。レイヴンとて見ず知らぬ魔女と、アイリスなら、アイリスの肩を持ってやりたいところだが、魔女とは深い知識を持つ者で、感情のままに行動したりはしない。つまりだ、魔女がそこまでブチ切れたからには相応の理由がある。

 なのでレイヴンが「何をやらかした?」と尋ねるが、アイリスは滑りのいい舌をなくしたのか、途端に口ごもり始める。
 唇を尖らせたバツの悪さは、悪戯を見つかった子供に似ていた。

 ならばもう一度訊くだけだ。

なにをやらかした・・・・・・・・?」

 後ろに座っているレイヴンに抱えられているアイリスに逃げ場などあろう筈もなく、じっりとした視線を首筋に受けて、彼女は観念したようだった。

「……そのぉ~、こわしちゃったんです」
「壊した? 何を?」
「…………家を」
「家⁉」

 宝石やら魔力の篭った宝やら、そういう類いを想像していたレイヴンは、スケールが違いに頓狂な声を上げてしまった。しかもである。

「家って、人間のとは違うだろ。どんな家なんだ」
「……大樹たいじゅです、樹をくり抜いたお家なんですけど」

 聞きたいような、聞きたくないような。しかし、レイヴンは尋ねた。

「そんなもんどうやって壊した」
「爆発させちゃって、ですね……、その、粉々に……」

 すごく申し訳なさそうである。だが、反省していてもどちらに非があるかとなれば、答えは明白だった。

「そりゃお前が悪い」
「待ってください! ち、ちがうんですよレイヴン、わざとじゃないんです!」
「やられた側にしたら、故意も事故も関係ねえよ! 魔女に同情するとは思ってなかった、家吹っ飛ばされたら誰だってキレるってんだよ、そんなの」
「あの子が魔法を教えてくれるって言うから、使ってみたんです。ニガテだからやめようって止めたんですけど、聞いてくれなくて。そしたら案の上暴発しちゃってですね」

 アイリスは必死に弁解するがいい訳がましい。魔力の扱いに関してそこまでの自覚があったのなら、強制されたとはいえ責はアイリスの方にある。

「それで呪いかけられて、南部に飛ばされたのか。自業自得じゃねえかよ」
「うう……そう言われるとツラいです。あの子も、すんごい怒ってました」
「当たり前だ、一瞬で住処無くしてんだぞ」
「いえ、家については魔法で直せるのでよかったんですけど、彼女が収集していた貴重な魔具が壊れてしまって、代わりに研究用の魔具を見つけてこいと――」
「――南部送りか」
「はい……」

 意気消沈。レイヴンはただ正論を語っただけだったが、彼女は完膚なきまでにたたきのめされたらしく、アイリスはすっかり黙ってしまった。
 とはいえである、反省だけなら猿でも出来るのだ。大事なのはそこから学び、前進すること。人間の教訓が龍に当てはまるとは珍妙な事態だが、しょぼくれてるなとレイヴンは言う。

「それならやることは決まってるじゃねえかアイリス。魔具を集めて、持っていけばいい。そんでもっかい謝れ」
「簡単に言います。魔具なんてそうそう見つかるものじゃなんですよ」
「仲直りしたくないのか、その魔女と」
「それは……! したい、ですけど……」
「うじうじしてんなよ、ダチなんだろ? 長く付き合った仲は大事にしろ、別れてツラいと思う相手は特にな、会えなくなってから後悔しても遅いぞ」

 それは失うつらさが身に染みているレイヴンだからこその助言だった。命とは恐ろしく脆く儚い、容易く砕ける硝子細工。生きてまた会えるのならば、仲直りが出来る分だけ御の字だ。彼の会いたい仲間はもういないのだから。

 と、まだ話し足りなそうなアイリスだったが、続きはお預けになってしまう。牧場が近づいてきていた。
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