ワイルドウエスト・ドラゴンテイル ~拳銃遣いと龍少女~

空戸乃間

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第一話 拳銃遣いと龍少女

悪魔の銃を持つ男《ピストレーロ デル ディアブロ》 Part.2

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 卵七個、パン八切れ、牛肉の塩焼き二切れ、豆煮を三皿
 重労働、かつ過酷な環境である西部では、喰える時に詰め込むのが基本とは言え、目を見張らざるおえない。

 風呂ですっかり汚れを洗い流したアイリスは、着替えるよりも先に運ばれてきた朝食に大喜びで飛びついたが、自分よりも大量の食べものが、タオル一枚に包まれた細身のどこに収まっていくのかと、レイヴンは不思議でならなかった。

「これが食事なんですね、もぐもぐ……」
「取りゃしねえから、もう少し落ち着いて喰ったらどうだ」
「止まらないんです、料理とはこんなに幸せな気持ちになるんですね」

 タオルで肌を覆っただけで貪むさぼる姿の浅ましさ。
 当然のように素手で料理をかっこむアイリスは、動物と呼ばれても仕方ないくらい行儀がなっていなかった。そういった習慣の部族で育ってきたのなら無理はないが、さすがに見かねたレイヴンは苦言を呈す。


「アイリス、いったん手を止めろ」
「はい……? どうかしたんです?」

 彼女の口元は、ソースやら肉汁やれでぐちゃぐちゃだったので、ナプキンで綺麗に拭ってやってからレイヴンは食器の使い方を教えてやる。このまま外に出したのでは、確実に彼女は恥を掻く。

「なにもない時は仕方ないが、こういう場所では食器を使うんだ。部族には部族の習慣があるし、アトラスにはアトラスの習慣がある。ナイフとフォーク、スプーンを使って食べるんだ、別に難しくはない」
「……面倒じゃないですか? 食べるのは同じなのに」
「ナイフは切るのに便利だし、スプーンは掬うのに適してる。無理くりかっこむより最終的には効率的だ。あと、こっちの方が見栄えが良いぞ」

 するとアイリスは、自分とレイヴンの汚れ具合を見比べ、それから食器へと目を落とした。

「レイヴンは、わたしに見栄え良くなってほしいんです?」
「上品に見えて不満には思わないだろ。お前の文化を否定はしないし、それに使いかたを覚えておいて損はない」
「なら、頑張ります!」

 奮起するほどでの事でも無いのだが、アイリスはふんすと鼻を鳴らすやスプーンを鷲掴みにして、見よう見まねで豆を掬ってみるが、やはり初めての事らしく中々苦戦していた。皿に残された豆の一粒が彼女の練習相手となるが……。

「む~、手強いです……。豆一粒がこれほど強敵とは……!」
「そのうち慣れるさ、あとは練習だな」

 綺麗に食べきったレイヴンは、身支度を調え始める。
 シャツの上からベストを合わせ、ガンベルトを腰に巻く。右手に革製の手甲を付けて、最後にハットを被れば準備完了。ポンチョは留守番だ。

 アイリスにも準備はあるが、彼女の場合はロングコートを羽織るだけなので、二秒もあれば済んでしまうだろう。乱雑にかけてあったコートを渡してやろうとレイヴンが振り返ると、彼女はもぐもぐと口を動かしていた。

 皿は空だが……

「ズルしたな?」

 アイリスは、てへへと笑ってみせた。
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