【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

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56.あの木(メレディス視点)

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「旦那様、少しはお休みください。お食事もきちんとお召しあがりください」
「大丈夫だ。レスターが作ってくれた回復の魔法陣がある」
「いけません。しっかり休まれないと倒れてしまいます」
「分かった。もう今日は休む」


 =====
 レスターの母親の墓に来てみたが、こちらにも来ていないようだ。
 これでオルロー王国のレスターと関わりがありそうな場所は全て回った。
 これほど見つけられないと自分が無能に思える。必ず見つけてみせる。
 影
 =====

 =====
 ドラータ国内で貴族派や好色家の貴族を当たってみたが、レスター様を攫った者はいないようだ。
 引き続き他の貴族も調べてみる。
 諜報部
 =====

 =====
 魔導都市メルバに来てみたが、こちらには入国していないようだ。
 帝国に入ることはないだろうから、迂回して神聖国にも行ってみる。
 ジェフ、ベック
 =====

 影からもジェフとベックからも、陛下が貸してくれた密偵からも、手掛かり無しの報告ばかりが上がってくる。
 私も王都で怪しい動きがないか常に監視していたし、闇市や奴隷市などにも身分を隠して足を運んでみたりしたが、手掛かり一つ見つからなかった。

 結婚式までには戻ってくるのではないかと淡い期待を持っていたが、そんな期待は軽く打ち砕かれた。


 前日まで待ってみたが、どこからも有力な情報はない。唯一得られた情報は、ベリッシモ家の墓に手向けられた花がレスターかもしれないというステファノからの報告だけだ。
 きっとそれも他人だったんだろう。


 結婚を取りやめる気はないが、結婚式は各所に中止の連絡をした。

 なぜだ? 何か私に至らないところがあるのであれば、何でも直したのに。
 レスターが望むのであればこの地位だって惜しくはない。
 それでも宰相の仕事を続けていたのは、秘書官の仕事が楽しいと言ってくれたレスターが戻ってくる場所を守りたかったからだ。
 格好いいと凄いと言ってくれたレスターの期待に応えたかったからだ。


 結婚式当日、レスターの部屋には結婚式で着るはずだった衣装がトルソーにかけられていた。
 その横にはレスターが「お揃いは初めてで嬉しい」と言ってくれたお揃いのバングルも置かれている。


 私がいけなかったのか? 思い返すと全てがいけなかったのかと思えてくる。
 レスターが全力で逃げるのなら、私はこの手を放してやるべきなのかもしれない。
 それでもいい。レスターが幸せになれるのなら、それでもいいから、一目だけでいい。元気な姿を見せてほしい。



 私はまた孤高の宰相に戻った。
 レスターと一緒にいることで、丸くなっただの、血が通った人間に戻っただの言われていたが、また近付き難い孤高の宰相に戻った。
 レスター以外に笑いかけてどうなるというんだ。それでレスターが私の元に戻ってきてくれるのならば、どれだけでも笑ってやるが、そんなわけはない。

 遠巻きに私の顔色を窺ってくる奴らにも腹を立てて、誰かに当たり散らすことはなかったが、感情を押し殺すようになった。

「メレディス、お前……」
「なんですか?陛下。要件は簡潔にお願いしますね。私も暇ではないのです」
「あ、あぁ……、その様子だと、まだ見つかってはいないんだな」
「何のことです?」
「いや、何でもない。お前、少し休んだ方がいいのではないか?」
「そうですか。お休みをいただけるというのであれば、この仕事は全て陛下にお任せしてよろしいのですね?」
「ふぅ、今はそれも仕方なかろう。王太子にも手伝わせるから、お前は少し休め」
「分かりました」


 周りの空気までピリピリとひりつかせていたのは分かっていたが、もう自分ではどうしようもなかった。
 結婚式までに戻ってこなかったことで、本当にもうレスターは帰らないのだと分かってしまった。



 レスター、もう会えないのか?


 私はボーッとしながら、フラフラと屋敷を出て、夜の街を歩いた。
 どこを歩いているのかも分からなくなったが、目の前にはレスターに助けてもらった時のあの木が立っていた。

 私はその木に近づいたが、覚束ない足取りだったためによろけて木にドンッとぶつかり、そして力無くしゃがみ込んだ。
 レスターと出会った日を思い出す。

 腹を刺されて、もうダメだと思った時にレスターが現れて、天の使いかと思ったんだったか。
 魔力切れになるまで治癒をかけてくれて、屋敷で目覚めると、自分よりも先に私の心配をしてくれた。綺麗な深いエメラルドの瞳に吸い込まれそうになって、私はあの時からもう好きだったのかもしれないな。



「……レスターどこだ。レスターがいないと生きていけない……どうか神様、レスターを返してください」

 そう呟いた私の目からは、涙が溢れていた。

 どうせあの時に死ぬはずだった命だ。今更惜しくない。
 レスターがいないなら、もうこんな命など……
 何日も眠っていなかった。食事も最後に食べたのはいつだったか、食べたかどうかも覚えていない。



 眠いな……

 ん? 天使か? とうとう私を迎えに来たのか?


「メレディス様?」
「レスター、愛しているよ。夢でもいい。会いたかった……」


 いいよ。私を連れていけ。いいんだ。私はレスターに出会えて幸せな時間をもらった。
 その幸せのまま連れて行ってくれ。

 私はレスターの幻を抱きしめて意識を手放した。

 
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