56 / 62
56.あの木(メレディス視点)
しおりを挟む「旦那様、少しはお休みください。お食事もきちんとお召しあがりください」
「大丈夫だ。レスターが作ってくれた回復の魔法陣がある」
「いけません。しっかり休まれないと倒れてしまいます」
「分かった。もう今日は休む」
=====
レスターの母親の墓に来てみたが、こちらにも来ていないようだ。
これでオルロー王国のレスターと関わりがありそうな場所は全て回った。
これほど見つけられないと自分が無能に思える。必ず見つけてみせる。
影
=====
=====
ドラータ国内で貴族派や好色家の貴族を当たってみたが、レスター様を攫った者はいないようだ。
引き続き他の貴族も調べてみる。
諜報部
=====
=====
魔導都市メルバに来てみたが、こちらには入国していないようだ。
帝国に入ることはないだろうから、迂回して神聖国にも行ってみる。
ジェフ、ベック
=====
影からもジェフとベックからも、陛下が貸してくれた密偵からも、手掛かり無しの報告ばかりが上がってくる。
私も王都で怪しい動きがないか常に監視していたし、闇市や奴隷市などにも身分を隠して足を運んでみたりしたが、手掛かり一つ見つからなかった。
結婚式までには戻ってくるのではないかと淡い期待を持っていたが、そんな期待は軽く打ち砕かれた。
前日まで待ってみたが、どこからも有力な情報はない。唯一得られた情報は、ベリッシモ家の墓に手向けられた花がレスターかもしれないというステファノからの報告だけだ。
きっとそれも他人だったんだろう。
結婚を取りやめる気はないが、結婚式は各所に中止の連絡をした。
なぜだ? 何か私に至らないところがあるのであれば、何でも直したのに。
レスターが望むのであればこの地位だって惜しくはない。
それでも宰相の仕事を続けていたのは、秘書官の仕事が楽しいと言ってくれたレスターが戻ってくる場所を守りたかったからだ。
格好いいと凄いと言ってくれたレスターの期待に応えたかったからだ。
結婚式当日、レスターの部屋には結婚式で着るはずだった衣装がトルソーにかけられていた。
その横にはレスターが「お揃いは初めてで嬉しい」と言ってくれたお揃いのバングルも置かれている。
私がいけなかったのか? 思い返すと全てがいけなかったのかと思えてくる。
レスターが全力で逃げるのなら、私はこの手を放してやるべきなのかもしれない。
それでもいい。レスターが幸せになれるのなら、それでもいいから、一目だけでいい。元気な姿を見せてほしい。
私はまた孤高の宰相に戻った。
レスターと一緒にいることで、丸くなっただの、血が通った人間に戻っただの言われていたが、また近付き難い孤高の宰相に戻った。
レスター以外に笑いかけてどうなるというんだ。それでレスターが私の元に戻ってきてくれるのならば、どれだけでも笑ってやるが、そんなわけはない。
遠巻きに私の顔色を窺ってくる奴らにも腹を立てて、誰かに当たり散らすことはなかったが、感情を押し殺すようになった。
「メレディス、お前……」
「なんですか?陛下。要件は簡潔にお願いしますね。私も暇ではないのです」
「あ、あぁ……、その様子だと、まだ見つかってはいないんだな」
「何のことです?」
「いや、何でもない。お前、少し休んだ方がいいのではないか?」
「そうですか。お休みをいただけるというのであれば、この仕事は全て陛下にお任せしてよろしいのですね?」
「ふぅ、今はそれも仕方なかろう。王太子にも手伝わせるから、お前は少し休め」
「分かりました」
周りの空気までピリピリとひりつかせていたのは分かっていたが、もう自分ではどうしようもなかった。
結婚式までに戻ってこなかったことで、本当にもうレスターは帰らないのだと分かってしまった。
レスター、もう会えないのか?
私はボーッとしながら、フラフラと屋敷を出て、夜の街を歩いた。
どこを歩いているのかも分からなくなったが、目の前にはレスターに助けてもらった時のあの木が立っていた。
私はその木に近づいたが、覚束ない足取りだったためによろけて木にドンッとぶつかり、そして力無くしゃがみ込んだ。
レスターと出会った日を思い出す。
腹を刺されて、もうダメだと思った時にレスターが現れて、天の使いかと思ったんだったか。
魔力切れになるまで治癒をかけてくれて、屋敷で目覚めると、自分よりも先に私の心配をしてくれた。綺麗な深いエメラルドの瞳に吸い込まれそうになって、私はあの時からもう好きだったのかもしれないな。
「……レスターどこだ。レスターがいないと生きていけない……どうか神様、レスターを返してください」
そう呟いた私の目からは、涙が溢れていた。
どうせあの時に死ぬはずだった命だ。今更惜しくない。
レスターがいないなら、もうこんな命など……
何日も眠っていなかった。食事も最後に食べたのはいつだったか、食べたかどうかも覚えていない。
眠いな……
ん? 天使か? とうとう私を迎えに来たのか?
「メレディス様?」
「レスター、愛しているよ。夢でもいい。会いたかった……」
いいよ。私を連れていけ。いいんだ。私はレスターに出会えて幸せな時間をもらった。
その幸せのまま連れて行ってくれ。
私はレスターの幻を抱きしめて意識を手放した。
82
お気に入りに追加
1,792
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】最初で最後の恋をしましょう
関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。
そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。
恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。
交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。
《ワンコ系王子×幸薄美人》

聖女の力を搾取される偽物の侯爵令息は本物でした。隠された王子と僕は幸せになります!もうお父様なんて知りません!
竜鳴躍
BL
密かに匿われていた王子×偽物として迫害され『聖女』の力を搾取されてきた侯爵令息。
侯爵令息リリー=ホワイトは、真っ白な髪と白い肌、赤い目の美しい天使のような少年で、類まれなる癒しの力を持っている。温和な父と厳しくも優しい女侯爵の母、そして母が養子にと引き取ってきた凛々しい少年、チャーリーと4人で幸せに暮らしていた。
母が亡くなるまでは。
母が亡くなると、父は二人を血の繋がらない子として閉じ込め、使用人のように扱い始めた。
すぐに父の愛人が後妻となり娘を連れて現れ、我が物顔に侯爵家で暮らし始め、リリーの力を娘の力と偽って娘は王子の婚約者に登り詰める。
実は隣国の王子だったチャーリーを助けるために侯爵家に忍び込んでいた騎士に助けられ、二人は家から逃げて隣国へ…。
2人の幸せの始まりであり、侯爵家にいた者たちの破滅の始まりだった。
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

天使の声と魔女の呪い
狼蝶
BL
長年王家を支えてきたホワイトローズ公爵家の三男、リリー=ホワイトローズは社交界で“氷のプリンセス”と呼ばれており、悪役令息的存在とされていた。それは誰が相手でも口を開かず冷たい視線を向けるだけで、側にはいつも二人の兄が護るように寄り添っていることから付けられた名だった。
ある日、ホワイトローズ家とライバル関係にあるブロッサム家の令嬢、フラウリーゼ=ブロッサムに心寄せる青年、アランがリリーに対し苛立ちながら学園内を歩いていると、偶然リリーが喋る場に遭遇してしまう。
『も、もぉやら・・・・・・』
『っ!!?』
果たして、リリーが隠していた彼の秘密とは――!?

政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話
藍
BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。
ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる