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10.彼の事情(メレディス視点)
しおりを挟む私は彼が心配でその日は仕事を休んだ。別にいいだろう。ここ何年も休みなどあって無いようなものだった。1日くらい何とでもなる。
彼の側についていると、昼前になってやっと目を覚ました。
状況が掴めず、辺りをキョロキョロと見渡していたが、私が昨日助けてもらったと言うと、少し思案した後でようやく昨日の出来事を思い出しようだった。
こちらを向いて目が合うと、彼は本当に美しくて思わず息を呑んだ。
白く透き通るような肌をしているし、髪は少しウェーブがかかった綺麗なハニーゴールド、昨日は目を閉じていたから見えなかった瞳はエメラルドのような綺麗な深い緑だった。
意識を失う直前に天の使いなのかと思ったが、天使だと言われても納得してしまうほどに綺麗な子だった。
「怪我は大丈夫ですか?」
自分も魔力切れで倒れるまで魔法を使って辛いだろうに、彼は私の心配をしてくれた。
なんて優しい子なんだろう?
彼を安心させるためにも、もう大丈夫だと言ってくるりと回ってみせた。
子供みたいだったか?
少しはしゃいでしまっている自分に驚いた。
「そっか。よかったです」
ふわりと笑いかけてくれたその笑顔もとても可憐で、私は少年相手にドキドキしてしまった。
そして彼は、治癒があまり得意ではないと言った。魔力切れになって恥ずかしいと。
得意ではない?得意ではないのに深くまでナイフで貫かれたあの傷をあそこまで治したのか?
しかも、魔力切れになるまで治癒をかけ続けるなど、普通はできないだろう。
そしてゼストが言っていたように服が明らかに切り裂かれており、この子は私が守ってやらなければならないと思った。
「君の名前を聞いてもいいだろうか?」
「レスター、です」
レスター綺麗な名前だ。
そして、その服はどうしたのかを尋ねてみると、彼は自分の服に視線を落とし、慌てて顕になった胸を服を寄せて隠すと、俯いてしまった。
顔色を悪くしてその握りしめた手が小刻みに震えているところを見ると、彼がとても恐ろしい目に遭ったということだけは分かった。
不安そうに視線を床に漂わせ小さく震える彼に、危害を加える者はいないなら安心するように言ったが、小さく頷いたものの、手の震えは治らないようだった。
とりあえず彼の服を着替えさせてあげなければと、使用人を呼んで着替えさせると、やはり彼は貴族の子息なのだということが分かった。
人に服を着せてもらうことに慣れている。
使用人になら、肌を晒しても怯える素振りはなかった。
貴族なんだろうと尋ねてみると、彼はもう貴族ではないと言った。
もう貴族ではない?縁を切られたとかそういうことなんだろうか?分からないが貴族の子息でないのなら、家に返さず私が保護してもいいのではないかと思い、側に置けることにホッとした。
ソファーに座らせてお茶と軽食を用意し、隣に座って彼の震える手をそっと包んだ。
彼は少し気を許してくれたのか、私をチラッと見て、手に少し力を入れてポツポツと話し始めた。
この国に留学していたこと、留学中に父と兄が悪事により処刑され、母も病で亡くなったと。家も無くなり、領地の先祖の墓も屋敷も荒らされ、婚約者にも捨てられたと。
そして何かあれば頼れと言われて、この国に戻って学園長を訪ねたら、家に連れ込まれて襲われそうになって逃げたと。
しかし話を聞いていて不思議に思った。彼は学園長が彼に何をしようとしたのかを分かっていない様子だった。
閨事という言葉にも首を傾げ、学園長は自分を殺そうとしたのかもしれないと言った。
美しい彼を犯そうとしたのは明らかだったが、それを今彼に言うのは酷だと思った。
襲われそうになったり男娼に間違われて買われそうになったことも、彼にとっては身代金目的の誘拐か人違いに思えたらしい。
本当に今までよく無事でいてくれた。
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「身を売るって、体の一部を切り取って売って、買った人はそれを食べたりするのかと思ったら、怖いと思いました」
と言った。
そうか。知らないとこのようなことになるのか。確かに人肉を食うような奴に声をかけられたのだと思ったら怖いよな。
彼には時を見てきちんと教えてやらなければいけない。そうでなければ、彼の身に危険が及ぶことは火を見るより明らかだと思った。
信じたものに裏切られているのだから、昨日今日知り合ったばかりの私のことを信じることなど到底無理だろう。
私は、命を救ってくれたお礼だと押し付けるように理由をつけて、彼を屋敷に置くことにした。
父親と兄は悪い奴だったのかは知らないが、家を失ったのも裏切られたのも、決して彼のせいではない。
今は無理でも、そのうち私に心を開いてくれると嬉しい。
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