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二章
195.不審な影
しおりを挟む今日はラルフ様が夜勤だから、夜は一人で寝る。冬に一人で寝るのは寒い……
ラルフ様はいつも僕の冷えた手や足を温めてくれる。そのラルフ様がいないから、寒くて寂しくて、僕は朝早くに目が覚めてしまった。
朝の庭は溶けかけた雪と、葉っぱやなんかについた霜が太陽の光でキラキラしている。
早く起きて庭を眺めるのもたまにはいい。
今日は晴れているし風も無い。温かい上着を羽織って庭をゆっくりと歩いてみる。
ん?
厩舎にある人影はどう見てもリズではない。男だ。誰?
ラルフ様並みに大きい体はリーブではないし、チェルソはさっきキッチンにいた。バルドでもない。ハリオが朝から厩舎を掃除してるわけないし誰? まさか馬泥棒?
僕は危険かもしれないと思い、地面の雪を少し手に取って雪玉をつくった。
こっちに背を向けている男は、馬泥棒というより厩舎の掃除や馬の世話をしているように見える。
でもうちの使用人でも、ラルフ様の部下の皆さんでもない。
僕は片手に取った雪玉をその男に向かって投げた。この距離だと当たっても威力はないけど、僕でも逃げられる距離だと思う。
えいっ!
投げた雪玉は大したスピードも出ず、しかし男の頭にベシャッと当たった。
「うわっ、冷たっ!」
驚いたように振り向いた男は、なんとイーヴォ隊長だった。
人の家の厩舎で何してんの?
掃除だとしても、なぜそんなことをしているのかが分からない。酔ってる? それともお隣さんだから家を間違えた? そんなわけないよね?
「イーヴォ隊長、おはようございます」
色々聞きたいことはあったけど、僕は雪玉を投げたことには触れず、とりあえず挨拶から入った。
「マティアスさん、おはようございます」
とても爽やかに白い歯を見せて笑顔を向けられた。
いやいや……人の家に勝手に入って厩舎を掃除してる人の表情じゃなくない?
イーヴォ隊長も雪玉のことについては何も触れなかった。怒られなくてちょっとホッとした。
「何してるんですか?」
「馬の世話だ」
それは見れば分かる。僕が聞きたいのは、なぜ自分の家ではなくうちの馬の世話をしているかということだ。僕がイーヴォ隊長に近づきながら、疑いの目を向けると、イーヴォ隊長はなぜかちょっと頬を染めながら頬をポリポリ掻いた。
「なぜうちの馬の世話をしてるんですか?」
「ああ、妻がちょっとな……」
リズが体調を崩したから代わりに来たのだとか。そんなことイーヴォ隊長がしなくてもいいのに。
「え? リズ大丈夫なの?」
リズが体調を崩すなんて、大変なことが起きたかもしれないとあたふたしていると、イーヴォ隊長が頬をポリポリ掻きながら、「子ができた」と呟いた。
ああ、そういうことか。リズが大きな病気でないと分かって僕はホッと胸を撫で下ろした。
「リズには無理せずゆっくり休んでいいと伝えてください。それと、リズの代わりにイーヴォ隊長がうちの馬の世話なんてしなくていいんですよ。うちの使用人たちでなんとかしますから」
リズが体調が悪いのに馬の世話に行くと言ったんだろうか? だから、それなら自分が……とうちに来た?
とにかくイーヴォ隊長にうちの馬の世話をさせるわけにはいかない。リーブに言ってなんとかしてもらおう。僕だって手伝えることがあるかもしれないし。
そう思ったけど、僕の力では馬の世話はちょっと無理だった……
僕は朝食の準備を手伝って、リーブとバルドに馬の世話を任せることになった。
だよね……僕は馬に乗ることさえできないし。
パンの小屋をシルがバルド特製の小さい農機具で掃除しているのを見ると、僕はシルよりも力がないのではないかと不安になる。
リズの体調が良くなっても、妊婦に馬の世話なんてさせるわけにはいかないから、リズには子どもが産まれるまで馬の世話はしないように言った。
リズが抜けた穴はどうしようかと思っていたら、うちに滞在しているラルフ様の部下の皆さんが、馬の世話を交代ですると言ってくれた。滞在させてもらっているから役に立ちたいのだとか。ありがとうございます。
それにしてもリズとイーヴォ隊長の子どもか。想像しただけで強そうだ。
もしかして、いずれシルのライバルになったりするのかな? そんなことを考えたら、ワクワクしてきた。
馬の世話禁止を言い渡した翌日、リズは当たり前のようにうちにいて、洗濯物を干していた。
「え!? リズなんでいるの? 体調は大丈夫なの?」
僕はてっきり子どもが産まれるまでリズは仕事を休むと思っていたから、仕事をしていることに驚いた。
「ええ、問題ありません。厩舎はちょっと匂いが辛かったんですが、他の仕事は問題なくできます」
「リズがそう言うならいいけど、絶対に無理はしないでね」
うちで何かあったら大変だ。僕は妊娠したことないし、することもないから分からないけど、大変なんだよね?
使用人のみんなにも、リズには無理させないように注意してもらうことにした。
シルがリズに新作と思われるポポ一族をあげているのを見た。もしかして、ポポは本当に妖精で小さな幸せを運んでくるのかな?
僕も持ち歩こうかな?
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