僕の過保護な旦那様

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二章

173.シルのお友だち

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「ごきげんよう」
「ほ、本日はお日柄もよく……」
「ふふふ、嫌ですわ、そんな堅苦しい挨拶」
 目の前で微笑むのは団長夫人、エドワード王子の奥様だ。そして後ろには護衛騎士とメイドに抱っこされた男の子。

「それで、今日はうちにどのようなご用でしょうか……」
「うちの子がね、小さな馬を見せてもらう約束をしたそうなのよ。それで連れて行ってほしいと駄々を捏ねてね。シュテルター隊長に聞いたら今日はマティアス様がご在宅だと伺ったので来てしまいました」
 フットワークが軽い方だ。
 小さい馬を見せてもらうってパンのことだよね? ってことはまさかシルの友だちってあの子? エドワード王子の子なの?

「あ! エルマー! こっちだよ!」
 シルが手を振りながらこっちに走ってくる。いつの間にかリーブがシルを呼びにいってくれていたようだ。
 リーブ、もしかしてシルの友だちがエドワード王子の子どもって知ってたの? 知らなかったのってまさか僕だけ? やめてよ、こんなの心臓に悪いよ。教えてよ。それとも気付かない僕がいけないの?

 シルは彼の手を取ってパンのところに案内している。
 それよりさ、僕はまだ混乱してるんだけど……エドワード王子の子どもって女の子じゃないの? 男の子なの? エルマーって名前は男の子っぽいけど、ガーデンパーティーでは髪に可愛いリボンを結んで、赤いワンピース着た女の子を連れてなかった? 他人の子が奥様の膝の上にいるなんてことないと思うんだけど……
 僕はわけが分からなくなって、シルとエルマーの後ろ姿をボーッと眺めていた。

「──様、マティアス様」
 リーブに名前を呼ばれてやっと我に返った。
「あ、ごめん。何?」
「お客様を応接室に案内いたしました。マティアス様もどうぞ」
「あ、うん、ありがとう」
 危なかった。奥様を放置していた。リーブが案内してくれていなければ、こんな寒空の下で奥様を待たせることになったかもしれない。リーブが優秀で助かります。

「ふふ、マティアス様とは一度お話ししたかったんです」
「それは光栄なことですが、なぜですか?」
「夫から話をよく聞いておりますの」
 きっとエドワード王子は僕たちのことを面白おかしく言っているんだろう。

「それに、私たちが結婚に至ったのはお二人のおかげだと伺っておりますわ」
 そうなの? 僕たちが王族の婚姻に関わるなんて無いと思うんだけど……
 そう考えて僕は思い至ってしまった。あれだ。エドワード王子が媚薬のキャンドルを箱いっぱいに送ってきた日、ラルフ様が怒って王宮に押し入って中庭でそれを燃やしたんだった。
 それで王太子妃が懐妊されて、エドワード王子は結婚が決まったと聞いた気がする。
 なるほど……

「そうでしたか」
「だからあなた方夫夫には感謝しておりますの。それと同時に夫がかなりご迷惑をかけたそうで、申し訳なく思っております」
「いえセリーヌ様、頭をお上げください」
 王族に名を連ねる方に頭を下げさせるなど畏れ多い。
 それに彼女がエドワード王子を城に閉じ込めてくれたから、かなり平和な時を過ごせている。

「ふふ、そんなに慌てなくても。これからは仲良くしてくださると嬉しいわ」
「はい。こちらそこ、よろしくお願いします」
 ねえ、僕だけで対応するの辛いんだけど……
 リーブ、ニコニコしながらそんな後ろに控えてないで、騎士の伴侶という同じ立場として同席してよ……

 それと僕はまだ分かってないんだけど、エドワード王子の子どもは男の子でいいんだよね?
 そこは尋ねていいのか分からず、聞けないまま時はすぎていった。

 エルマーくんはパンとシルと楽しそうに遊ぶと満足して帰っていった。
 もしかして、これからも度々遊びに来たりするんだろうか? 家族ぐるみのお友だちはほしかったけど、エドワード王子とその家族とか遠慮したいんだけど……
 気軽に庭でお肉を焼いたりできないし、森へピクニックなんてとても行けない。

「ラルフ様……エルマーくんは男の子ですか?」
「は? どう考えても男の子だろ。どうした?」
 今日はそう見えた。でも気になったんだ。
「いえ、ガーデンパーティーでは女の子の格好をしていた気がして」
 もしかして僕の見間違い?

「男の子だと分かると女の子に群がられるからな。正妻は無理でも何番目かには食い込めると考える親もいるだろう。女の子だと思わせておけば、よほど覚悟がない限り王子の娘を嫁に迎えようと思わないだろ?」
「王族ってそんなことまで気にして行動しなければならないのか。大変なんだな……」
 これから家族ぐるみでの交流が始まってしまうんだろうか?

「マティアス、エドワードにはうちの門を潜らせない」
 ラルフ様は僕の心の中を読めるの?
 もしかして、夫夫は長年連れ添うと以心伝心で言わなくても気持ちが通じ合うって本当なのかな?

 だとしたら、キスしてほしいって見つめてみたらキスしてもらえるんだろうか?
 僕はジッとラルフ様を見つめた。
「マティアス、すまない」
「え?」
 キスしたくないってこと? なんかショックだ。なんで? もしかしてまた風邪でも引いたんだろうか?
 健康そうに見えるんだけど。僕はじっくりラルフ様の姿を観察してしまった。

「ママを少し借りたことを怒っているんだろう?」
「ママ? 何の話ですか?」
 ラルフ様が僕の部屋を見た時にポポママが目に入ったからこっそり持ち出したそうだ。ポケットに入れているだけで、僕がそばにいるみたいで安心して今日は訓練が捗ったとまで言われた。

 全く以心伝心なんてなかったけど、僕はポポママをラルフ様に返してあげた。ピエール二号は失敗作だから、そのうち暖炉の薪になってみんなを温めてくれます。

「ラルフ様、キスして?」
「いいぞ」
 やっぱり言いたいことは言わないと伝わらないんだ。

 
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