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二章
172.ガーデンパーティー
しおりを挟む「シル、それ着ていくの?」
シルはチェーンメイルを着て、首にはミーナが編んでくれたマフラーを巻いている。その白いマフラーにはポポが編み込んである。チェーンメイルに絡まらない?
なんでガーデンパーティーを冬にやるんだろう……
僕もラルフ様に言われてもこもこに毛皮を着込み、グルグルにマフラーを巻かれた。チェーンメイルも恥ずかしいと思っていたけど、この着膨れした感じもちょっと恥ずかしい。
リズが御者を務める馬車に乗ってラルフ様とシルと共に向かう。今日はリーブも参加者だから、リズが御者をしてくれている。リーブはグラートと馬で先に向かった。
「ですよね……」
馬車を降りて案内された会場は、お城の庭園ではあるんだけど、温風を循環している温室だった。温かいところでしか育てられない草木が植えてあるのだとか。
「やあ、マティ、久しぶりだね。シルヴィオくんだっけ? 初めまして、王子様だよ」
さっそくエドワード王子に見つかった。その挨拶なんなんだろう。
ラルフ様は警戒してシルを抱き上げてエドワード王子から距離をとった。
「それ酷くな~い?」
僕はまだこの男を許してはいない。
「シルヴィオです。よろしくおねがいします」
うちの子偉い! 警戒する僕とラルフ様よりシルの方が大人な対応だった。
「偉いね~」
「エドワード、俺たちに構うな」
「ラルフは相変わらず釣れないね~」
そんなことを言いながら軽く手を振ってエドワード王子は去っていった。
エドワード王子の奥様にも挨拶をと思ったんだけど、とても近づけそうにない。
人だかりの中からチラッとしかその姿を確認できなかったけど、三歳くらいの女の子を膝に乗せた奥様は貴族令嬢という感じで、とても華やかで綺麗な方だった。
会場には子どももたくさんいる。もう学園に通っているような年齢の子もいるし、シルと同じくらいの子もいる。
「ママ、遊んできていい?」
「いいよ。たくさん友だちができるといいね」
「うん!」
ラルフ様が腕を解くと、シルは飛び降りて勢いよく子どもたちのところに走っていった。
第二騎士団だから当然だけど、イーヴォ隊長とリヴェラーニ夫夫の他に、ケリー、ハキム、マイクの旦那さんもいて、初めてみんなの旦那さんにも挨拶をさせてもらった。
「うちの夫がシュテルター隊長のお宅にお邪魔しているとか、ご迷惑をおかけしていませんか?」
「いえ、そんなことありませんよ」
こちらこそ今後ともよろしく、のような当たり障りのない会話と、やけに皆さん腰が低いのはラルフ様が怖いからだろうか? ラルフ様は今も僕の斜め後ろに立って腕を組んで見守ってくれている。
ラルフ様の部下はルーベン以外が参加している。ルーベンがいないのは、やっぱり私兵を育てるのに忙しいから、こんなところで遊んでいられないんだろうか?
ちなみにリーブはいつもの執事服だから給仕の人と間違えられて時々働いている姿を見る。もしかしてリーブってその服しか持ってないの? ハリオ、買ってあげてよ。
あれ、あの人もポポが刺繍されたスカーフを首に巻いている。騎士の旦那さんからのプレゼントだろうか? ポポが騎士団のマスコットキャラクターみたいになっているけど、それいいの?
キャーと甲高い悲鳴が聞こえて会場が騒然となった。
まさか敵? なわけないよね? お気にりの洋服にジュースでもこぼしたんだろうか?
僕は呑気に考えていたんだけど、ラルフ様に手を取られて騒ぎの中心に連れて行かれた。なんで? あんまり目立ちたくないんだけど……
「その子なんなの? うちの子を叩いたのよ?」
「あら、そちらの子が叩かれるようなことをしたのではなくって?」
子どもそっちのけで喧嘩するお母さん二人。その横では叩いた子たちなのか黄色い服の女の子と白い服の女の子が泣いている。お子さん泣いてるけどいいの? それで僕はなぜここに連れてこられたのか……
「ママ……」
シルが走ってきて僕の足にギュッっと抱きついてきた。チェーンメイルの鎖で締め付けられて地味に痛い……まさかうちの子も誰かに叩かれたの?
どこのどいつがうちの子に手をあげたんだ?
ついつい疑いの目で周りを見てしまった。
ラルフ様は冷静にシルを抱き上げてヨシヨシしている。ごめんね、僕は重いチェーンメイルを着込んだシルをそんなに簡単に抱き上げられないんだ……
「シル、何があったか話せる?」
怖い思いをしたのかもしれないと思い、優しい声を意識して問いかけてみた。
シルが赤い服の子と話をしていたら、横から白い服の子が割り込んで、更に黄色い服の子が来てシルを連れて行こうとしたから、白い服の子と黄色い服の子が喧嘩したそうだ。叩いたのはどっちも一回ずつらしい。
シル、モテモテだね。シルは叩かれたわけではなかった。でも目の前で幼いとはいえ女の修羅場を見て怖かったんだろう。よく考えてみても、あの二人のお母さんの娘たちはどっちもどっちだ。横取りしようとした二人は、うちの子には近づかないでもらいたい。
「ラルフ様、あの言い争っているお母さん二人の旦那さんはご存知ですか?」
「あの後ろでオロオロしている二人だ」
「なるほど。僕はどっちも悪いと思いますけどね。親も親ですし子も子です」
「そうだな。ふっ」
ラルフ様にふっと笑われた。なんで? 面白いところなんてなかったと思うけど……
「息子の嫁を見定めているみたいだ」
「あ……」
なんか恥ずかしい。周りからはそんな風に見えてたの?
でももし親戚になるなら、あんな人たちは嫌だ。
「シル、あの喧嘩してる二人以外にお友だちはできた?」
「うん! できたよ! こんどパンをみせてあげるの!」
「そっか、お友だちできてよかったね」
家族ぐるみのお友だちとかいいな。相手は誰なんだろう?
春になったら一緒に庭でお肉を焼いたり、ピクニックをしたり、楽しみだな。僕もその子の親と仲良くなれるだろうか?
きっかけは子ども些細な喧嘩だったけど、親が出てきて収拾がつかなくなったせいで、ガーデンパーティーは早めに終わることになった。
「本日は第二騎士団の皆様、お集まりいただきありがとうございました。わたくしとしましては、一部の場を弁えない方々のおかげで、大変楽しかったですわ。まだこんなに日が高いうちに片付けができますから、使用人たちも助かるでしょうね。ふふふ」
主催者である団長夫人の挨拶はものすごく怖かった。あんなに優しい笑顔なのに、一瞬ででみんなを凍り付かせるとは、さすがエドワード王子の奥様だ。
これであのお母さんたちの旦那さんの出世は遠のいたんだろう。暴走する奥さんさえ止められないってことは人をまとめるなんてできないよね。もしかしたら今後のガーデンパーティーには呼ばれないかもしれない。
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