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二章
167.彼の所在
しおりを挟むルカくんがいなくなって、ハリオはずっと荒れていたけど、僕と話した日から酒の量は減った。
だけど無茶して探しているみたいで、いつみてもげっそりとやつれて疲れた顔をしている。
ラルフ様がお休みの日に突然イーヴォ隊長が訪ねてきた。
「どうしたんですか?」
「いや、シュテルター隊長に相談だ」
休みの日にわざわざ来なくても、明日ラルフ様が出勤してからではダメだったのかな? 緊急とか?
「相談? 休みの日に何の相談だ?」
ラルフ様は団長であるエドワード王子にも丁寧な言葉を使わなかったけど、イーヴォ隊長にも使わないんだ……
休みの日に押しかけられたせいか、ラルフ様は胸の前で腕を組んで、少し不機嫌にイーヴォ隊長に尋ねた。
「ハリオだ。あいつ休ませた方がいいんじゃないか?」
「あいつに休暇など与えたら今より無茶をする。仕事は体を休ませるためにも必要だ」
分からなくはない。ハリオに休暇を与えたら、一人でどこに行ってしまうか分からない。一日の休みなら、帰ってこられる範囲にしかいかない。行方不明にならないためにも仕事を休ませないのは僕も賛成だ。
「なるほど。しかし解決に向かう目処はあるのか?」
「ない」
「そうか」
二人の会話は淡々としていた。ラルフ様もだけどイーヴォ隊長も口数が多いタイプではなさそうだから、こんなものなのかもしれない。
イーヴォ隊長、もしかして相談を口実にシルとパンに会いにきたんじゃないの?
視線がチラチラとシルとパンに向いている。
イーヴォ隊長も癒されたかったんだろうか?
ラルフ様との話が終わってシルとパンと遊ぶと、イーヴォ隊長は穏やかな顔になって帰っていった。ストレスたまってたのかな?
フェリーチェ様と僕は刺繍の練習を再開したんだけど、ルカくんがいないとやっぱり寂しい。
ルカくんがいなくなっても変わらずうちに来てくれて、シルやパンとも遊んでくれるし、刺繍も教えてくれる。でもやっぱり寂しそうだ。
副団長も相変わらず仕事帰りにフェリーチェ様を迎えにくる。何も変わらない日々。ルカくんがいないことが当たり前の日常になってしまうことが寂しい。
「ちょっと副団長、いいですか?」
珍しくグラートが副団長に話しかけた。
「何だ?」
「ル──」
「グラート来なさい」
る? グラートが副団長に向かって口を開くと、なぜかリーブがそれを遮ってグラートは連れて行かれた。
何だろう?
気になった僕は、こっそり二人の跡をつけた。
「今は手出し無用!」
「はい」
「勝手に誰かに話すようなら家から追い出してしばらく別居生活ですからね」
「誰にも言いません」
何の話? 何か知られたくないことでもあるんだろうか?
「リーブ様、キスしてほしい。だめ?」
「甘えたな子猫ちゃんですね。でもちゃんと言えてあなたは偉いですよ」
「うん。大好きです」
思わぬところでリーブとグラートのイチャイチャシーンに遭遇してしまった。勝手に見てはいけないと、僕はすぐにその場を立ち去ることにした。
やっぱり二人はラブラブなんだ。
僕が戻ると、ラルフ様が小さくため息をついて僕を見た。勝手に二人を追いかけたことを咎められる?
「マティアス、後で話がある」
「はい」
危ないことはするなとか、人のことに首を突っ込みすぎるなとか、そんなことを言われるんだろうか?
ちょっと気になってしまっただけです。ごめんなさい。
ラルフ様に呼ばれて行くと、ラルフ様はソファに座って僕を膝の上に乗せて抱きしめた。甘えたくなったんだろうか?
「マティアス、ルカくんは大丈夫だ」
ラルフ様は僕の耳に顔を寄せて小声でそう言った。
「え?」
「グラートが気づいたから俺も気づいた。彼はリヴェラーニ家にいる」
「え──」
「シー」
僕はラルフ様に口元を押さえられた。
どういうこと? だって、フェリーチェ様も副団長もいつもと変わらない感じだったし、そんな話僕は聞いてない。
「ハリオには言うな」
「うん」
さっきのリーブのおかしな行動は、グラートがあの場でルカくんがリヴェラーニ邸にいるんじゃないかって聞こうとしたのを遮ったってこと?
誰かに言ったら家から追い出すって言ってた。僕も誰にも言いません。
こうやってコソコソ話したのも、周りに悟られないためなのかな?
なるほど、だからフェリーチェ様はルカくんを探さないって言ったのか。でも無事ならよかった。戻るにしても別れるにしても、ルカくんのことが心配だったからホッとした。
大丈夫なら会いたい。
フェリーチェ様に家に行っていいか聞いてみよう。
「マティアス、こんなに近くにいるのに心がここにない」
ラルフ様が拗ねたように僕の首元に顔を埋めた。
「え? そんなことないよ」
「俺以外のことを考えていただろ」
ラルフ様は僕の耳たぶをハムッとして、首筋にチュッチュッとキスしている。
擽ったいよ。
「ふふふっ、擽ったいです」
「俺のこと好きか?」
「好きですよ」
「それならいい」
ハリオとルカくんのことで色々考えていたから、ラルフ様のことを蔑ろにしていたわけじゃないけど、寂しい思いをさせていたのかもしれない。僕を独り占めしていいのはラルフ様だけなんだから、心配しなくていいのに。
「ラルフ様、大好きです」
ラルフ様の頬に触れて僕からキスすると、一瞬にして僕はベッドの上だった。
そしてラルフ様はしまったという顔をして、脱がしかけた僕のシャツのボタンをとめている。
「いいよ。ラルフ様に愛されたいです」
「いいのか? マティアス、愛してる」
「うん、僕も愛してます」
すぐに僕の服は取り払われて、ラルフ様の温かい胸に抱き締められた。
温かくて気持ちいい。裸で抱き合うことはこんなに幸せなのに、ハリオは……
おっといけない。ちゃんとラルフ様のことだけ考えよう。
「ラルフ様、僕とキスするの好きですか?」
「好きだ」
「抱き合うのも?」
「当たり前だ」
「僕もです」
ラルフ様は何を思ったのか、僕にそっと触れた。たまにそれするの何なの?
忘れた頃にラルフ様は力加減を忘れてしまったように、僕にそっと触れて、気持ちいいんだけど物足りなくて、散々焦らされて僕が我慢できなくなってしまう。
「やだ、そんなことしないで。いつもみたいにもっときて」
「いいのか? まだ夕食の前だぞ?」
「いいからきて」
僕の体を気遣ってくれようとしたのかな?
いいよ。歩けなくなったらラルフ様が抱っこしてくれるんでしょ?
僕はいつもでもラルフ様に愛されたい。求めたいし求められたい。
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