僕の過保護な旦那様

cyan

文字の大きさ
上 下
165 / 189
二章

163.忘れてないよ

しおりを挟む
 
 
 蜜蝋、悪くない。
 パンのクッションはイーヴォ隊長が作ってくれた分と、僕とラルフ様が作った分、それと予備に僕とラルフ様が作ったもの全てに蜜蝋で加工をした。
「パン、きれいなクッションよかったね」
 寒い季節になってもシルは元気だ。パンも元気で一緒に庭で遊んでいる。
 僕とフェリーチェ様とルカくんは、庭が見える部屋でぬくぬくしながら刺繍を進めている。
 なかなか上手くならないけど、練習あるのみだ。

 庭の木も夏には影ができるほど生い茂っていた葉がほとんど散ってしまっている。もうそろそろ貴族が王都に集まる時期だ。そういえば年に一度は夜会に出てくれって陛下に言われたけど、ラルフ様は新年の夜会に出るんだろうか?

「シルヴィオ様にお客様です」
 リーブが呼びにきた。シルにお客様? それは珍しい。リーブが呼びにきたことからラルフ様が許可している人だということが分かるけど誰だろう?
「リーブ、シルにお客様って誰?」
「イーヴォ殿です」
 ああ、なるほどそれでシルにお客様ってことなのか。

 イーヴォ隊長はクッション片手に遊びに来た。持ってきたのは、パンが使っているクッションより小ぶりな、枕くらいのサイズのクッションだ。それもパンにあげるの?
「これはシルくんにプレゼントだ。パンとお揃いだよ」
「おそろい!」
 シルのだった。シルはパンとお揃いが嬉しかったのか、パンに「おそろいだよ」と自慢している。

「イーヴォ隊長、ありがとうございます」
「シルくんとパンは本当に仲がいいんだな」
 シルの一番の友だちはパンかもしれない。

「あれは使えるのか?」
 イーヴォ隊長が櫓を指差して尋ねてきた。もしかして櫓に登りたいんだろうか?
「使えますよ。僕が櫓の上に花を置いています。それで花に水をやりにいくのが日課です。たまに夫や部下の皆さんが登ったりしています」
「あれ、ちゃんと機能してるの? 私も登ってみたい」
 僕の答えに食いついたのはイーヴォ隊長ではなくフェリーチェ様だった。

 それで僕たちは櫓に登ることになったんだ。僕は朝に一度登ったから二度目だ。ルカくんとリーブも一緒だ。

「マティアス様はなんでこんなところに花置いてるの? 庭も日当たりいいと思うけど」
「水やりのために往復して足腰を鍛えてるんです。何かのためだと思わなければサボってしまうので」
「ああ、なるほど」
 フェリーチェ様はふむふむと納得してくれたんだけど、後ろでクスクスとイーヴォ隊長が笑っている。僕はこれでも真剣なんですよ。騎士の皆さんのような屈強な体の人には分からないと思う。

「なかなかいい眺めだ」
 僕がちょっとムッとしてしまったからか、急に真面目な顔になってイーヴォ隊長はそんなことを言った。

「そうですね。夕日を見たり、ここに泊まって子どもたちと星を見たり、朝には朝日を見たりしています」
「え~楽しそう! 私もここから星を見てみたい!」
 やっぱり食いついたのはフェリーチェ様だった。泊まるとなると僕だけでは判断できない。

「ラルフ様が帰ってきたら聞いてみます」
「うん、お願い」
「フェリーチェは退役しても現役時代と変わらないな」
 イーヴォ隊長とフェリーチェ様は仲良しだったのかもしれない。親しげに話している。
「そう? 刺繍するようになったよ? それに諜報活動はしてない」
「どうだか。まだ騎士団の中で権威を持っているだろ。訓練にも参加しているし」
「暇だからね~」

 ルカくんはずっと大人しく街の景色を眺めている。もしかして、故郷が恋しいんだろうか? 故郷といっても隣街だけど、ハリオに頼んで連れていってもらえばいいのに。

「楽しそうですね」
 ルカくんが小さい声で呟いた。なんだかその声が寂しそうで放っておけなかった。
「ルカくんもハリオと一緒にここで星を見てみる? キャンドルを並べたらロマンティックだし、いい雰囲気になるかもしれないよ」
 そしてその流れで……
 どうかな?

「あ、リーブもグラートと一緒にここで星見る?」
 新婚さんのリーブを忘れてはいけない。リーブに尋ねてみると、「星なら二人でよく見ております」なんて笑顔で返ってきた。
 リーブとグラートは夜にデートしていたのかもしれない。でもいつ?
 リーブが夜にいなかったことなんてあったっけ? 夕食の時にはいつもいたと思うけど夕食が終わった後かもしれない。

「イーヴォ隊長も星を見たいですか?」
「いや、遠慮しておく。一人で星を見るのは寂しすぎるだろ」
 そっか、イーヴォ隊長は独身なのか。
 櫓から下りるとイーヴォ隊長はシルとパンと遊んで、ミーナと刺繍の話をして帰っていった。

 副団長とラルフ様が帰ってくると、櫓をリヴェラーニ夫夫が借りたいと言っていると話をしてみた。

「いいが、壊すなよ?」
「壊さないって。かなり頑丈そうだったし、壊れることないでしょ?」
 そうかな? フェリーチェ様はそう言ったけど、副団長は前に門を壊したよね? あの勢いで暴れられたら櫓は破壊される可能性もあると思う。
 そうなったらフェリーチェ様が止めてくださいね。

「チェーほしみるの?」
「うん、櫓借りるね」
「いいよ」
 シルも快く了承してくれた。

「ママ、ぼくもほしみたい」
「そうだね。久しぶりに櫓の上で寝る?」
「ねるー!」
 リヴェラーニ夫夫の邪魔はしない。僕たちは僕たちで別の日に櫓にお泊まりすることになった。
 ちゃんとルカくんたちの許可ももらった。
 ルカくん上手くいくといいね。

 
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形宰相x不遇な異能持ち王子】ヒースダイン国の王子カシュアは、触れた人の痛みを感じられるが、自分の痛みは感じられない不思議な体質のせいで、幼いころから周囲に忌み嫌われてきた。それは側室として嫁いだウェストリン国でも変わらず虐げられる日々。しかしある日クーデターが起こり、結婚相手の国王が排除され、新国王の弟殿下・第二王子バージルと再婚すると状況が一変する……不幸な生い立ちの王子が、再婚によって少しずつ己を取り戻し、幸せになる話です

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...