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二章
162.嫉妬と手紙
しおりを挟む「グラート!」
廊下でグラートを見かけたから声をかけてみた。
リーブの夫なんだからこの家にいるのは当たり前なんだけど、まだ少し慣れない僕がいる。
リーブとグラートが夫夫ねえ……
グラートにリーブは嫉妬したのか聞いてみたくなった。教えてくれるかな?
「グラートはリーブに嫉妬してほしくて色々したんでしょ? リーブって嫉妬することあるの?」
「無い。全く無い。何してもダメだった」
やっぱりそうなのか。想像通りだった。
グラートも嫉妬するのか聞いてみる。
今までもこれからも何もないけど、ちょっとリーブの近くにいたくらいで、嫉妬されて刃を向けられたら困る。
「嫉妬? しませんよ。リーブ様ほどの人は周りが放っておきませんから嫉妬なんてしたらキリがありません。それに俺はリーブ様に唯一選ばれた夫ですから!」
鼻高々にグラートはそう言った。
確かな気持ちが欲しかったし、気持ちを確認したかったけど、夫夫になったから嫉妬されなくても平気だそうだ。
夫に選ばれたことが誇りなのだと、本当に嬉しそうに話してくれた。
「そういえばグラートって彼女いたことあったよね?」
「ああ、そんな話をしたこともありましたね。いませんよ。隊長やマティアス様にそのようなことを仄めかしておけばリーブ様に伝わって嫉妬してくれるかと思ったんです。
だからマティアス様に彼女のことを聞かれたときは焦りました。咄嗟に別れたと話しましたが、あの時は空気を悪くしてすみませんでした」
そこまでするの? ということはあの彼女がいるらしいってラルフ様から聞いた頃にはもう付き合っていたのか……
もしかして知らなかったのは僕だけ?
「ちょっと突っ込んだこと聞いていい?」
僕にはどうしても気になることがある。気になるというか、腑に落ちない。
「なんですか?」
「女好きってのは?」
「ありませんね。落とすのは面白いですが、それだけです」
落とすのは面白い……なるほど、そうやって遊んでいたから『女好き』なんて言われるようになって、騎士団でも度々揉め事に発展していたのか……呆れた。それは本当に謹慎して反省するべき。
「最低だね」
「もうしません」
後日、リーブが嫉妬してくれたとグラートが嬉しそうに報告してくれた。
え? いつ? リーブって嫉妬なんてするの?
「マティアスさんと嫉妬の話をした日ですよ。『いけない子猫ちゃんですね。人との距離感を間違えないで下さい』って。
俺、人の中に入って情報収集するの得意だからちょっとの変化でも分かったんですよ!
愛しくて嬉しくて煽りまくったら、いっぱい愛してくれました!」
「そ、そう。よかったね」
ここ二日くらい、睨まれてるような鋭い視線を感じてたんだ。もしかしてリーブ?
嫉妬するのは意外にもグラートじゃなくてリーブの方なの?
僕は走った。
「リーブ! 僕はラルフ様一筋だから! グラートにちょっかいだすとかあり得ないからね!」
息が上がってハァハァしながらリーブに伝えた。だってリーブに睨まれるとか怖いし。野盗をほとんど一人で斬滅しちゃうんだよ? 僕なんて一瞬であの世に送られる。
「分かっておりますよ」
一見穏やかに見えるいつもの笑みでそう答えてくれたけど……本当? 少しだけその笑みが怖いと思うのは僕だけ?
ラルフ様もだけど「分かってる」とか「分かった」って、なんて信用ならない言葉なんだろう?
「嬉しい! リーブ様、大好きです!」
グラートがリーブにガバッと抱きついたら、リーブの少し怖い完璧な笑みがデレっとなってびっくりした。
リーブってば思ってた以上にグラートのこと大好きなんだね。なんかリーブもちゃんと人間らしいところがあって嬉しいよ。
リーブがグラートに気を取られていると、ヒラリと一通の手紙が落ちた。
なんだろう? ラルフ様宛? それとも僕宛?
僕が落ちた手紙を拾って裏を見ると、僕宛だった。差出人はクロッシー夫人だ。
僕宛だからわざわざ持ってきてくれたのか。
「いけません!」
僕が袖の内側につけているナイフで封を開けると、リーブが珍しく焦った声をあげた。
「え?」
そう言われても、僕宛だよね?
リーブが困った顔をして、手紙の扱いはラルフ様の指示で特殊だから返してもらいたいとサッと奪われてしまった。
今日はリーブの意外な顔を色々と見てしまった。いつも完璧な執事だけど、たまには人間らしいリーブもいい。
グラートはリーブに唯一選ばれたって言ってたけど、リーブの心を動かせるのもきっとグラートだけだよ。
その日の夜、ラルフ様が帰宅するとリーブとラルフ様から説明を受けた。
クロッシー夫人が大人しいと思ってたら、手紙は来てるんだけど、ラルフ様とリーブが止めていた。僕の目に触れる前に処分してたんだ。
「マティアスの目に悪い」
目に悪い手紙ってなんなの?
僕は結局、手紙の中身は確認させてもらえなかった。
「僕に届いた手紙ですよね?」
「受け取る必要のないものだ」
僕が何を言ってもダメだった。そんな風に隠されるとますます気になるんだけど……
フェリーチェ様のところにも同じような手紙が届いてたりするのかな?
僕はフェリーチェ様に聞いてみることにした。フェリーチェ様なら中にどんなことが書かれているのか知っているかもしれないと思ったんだ。
「うちはクロッシーから届いた手紙は問答無用で旦那が燃やしてる。私も旦那も中は見てないから何が書いてあるか知らない。碌なこと書いてないだろうし、見る必要はないよね。気に入らないなら関わらなければいいだけのこと。わざわざ手紙を寄越すなんて、あの人よっぽど暇なんだろうね」
そんなもんなの?
クロッシー夫人も散々な言われようだ。フェリーチェ様がそう言うなら、僕ももう気にするのはよそう。
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