162 / 258
二章
160.結婚するって
しおりを挟むコンコン
朝食のために食堂に向かおうとラルフ様と一緒に着替えていると、ドアがノックされた。
ラルフ様が許可を出すと入ってきたのはリーブとグラートだった。
グラート戻ってきてくれたんだ。それでグラートはなぜリーブの影に隠れるようにしているの?
やっぱりリーブの弟子になったんじゃないかと思った。
「旦那様、結婚の許可を頂けませんか?」
「結婚!?」
僕は思わず大声を出してしまった。だって、リーブに恋人がいたなんて全然知らなかった。ニコラとアマデオとか、バルドとロッドなら分かるけど、まさかリーブが結婚するなんて驚きだ。
「結婚するのは構わないが仕事はどうする?」
ラルフ様はリーブに恋人がいることを知っていたのか、冷静に答えた。
「仕事は今まで通り行います」
「それなら問題ない。住まいはうちでいいか?」
「ええ、その方がありがたいです」
そっか、結婚するということは奥さんか旦那さんと暮らすことになって、うちを出ていくということも考えられた。うちにいてくれるということは、お相手もうちに住むことになる。相手はどんな人だろう? ニコラやルカくんみたいに仲良くなれる人だといいな。
それよりさ、リーブの結婚で完全にその存在を忘れそうになってたんだけど、謹慎中に逃げたグラートが帰ってきたんだから、もうそろそろその存在に触れてあげようよ。
「グラート、無事戻ってきてくれてよかったよ」
「ご心配をおかけしました」
グラートはいつも飄々としていたのに、リーブの影に隠れながら申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
「グラート、逃げる前に俺に相談しろ。心配するな、全部調べはついている」
調べはついている? なんのこと? 僕だけ分からないんだけど。ラルフ様はグラートが帰ってくることが分かってたの? 僕はずっとやきもきしてたよ。僕はラルフ様をジッと見つめた。
だけど答えてくれたのはリーブだった。
今回のグラートの謹慎は、第三騎士団の隊長の娘さんにグラートが手を出したのが発端だと思っていたけど、そうではなかった。
娘さんがグラートを欲しがった。それでグラートは娘さんの罠に嵌って部屋に二人きりで閉じ込められたそうだ。そして結婚を迫られた。彼女はまだ十歳、グラートは手を出すことはなかったんだけど、結婚を断ると彼女は父親である隊長にグラートに手を出されたのだと訴えた。
それで怒った隊長は「グラートを殺す!」と恐ろしい形相でグラートを探し回った。
そこで副団長が隊長を止めている間に反省室にグラートを匿った。
「え? じゃあなんでラルフ様は反省にならないってうちに来るのを断ったんですか?」
「当たり前だ。そんな子どもの遊びに引っかかるなど怠慢だ」
なるほど、そういう意味だったのか……
なんでリーブがそんな騎士団の内部のことに詳しいのか分からないけど、有能すぎるってことでいいよね?
「じゃあなんで反省室から逃げ出したの?」
「隊長が娘可愛さにグラートと娘を無理やり婚約させようとしたと聞いた。それで逃げたんだろ。違うか?」
ラルフ様は腕を組んだままグラートを呆れた顔で見ている。
「はい。そうです……」
なんだ、そうだったのか。それなら僕が悩んだ日々はなんだったのか。いいんだけどさ、グラートが心の病気を抱えてるってこともなく、無事帰ってきてくれたし、解決しそうだってことは分かった。
解決するんだよね? まさかその娘さんにグラートを差し出したりしないよね?
その後、グラートはうちに滞在している。
寮で野放しにしておくより、うちで預かっていた方がトラブルにならないってことかもしれない。
頼りになるリーブもいるし、グラートもリーブの言うことはちゃんと聞いている。
その後、フェリーチェ様から報告があった。エドワード王子を通して王家から例の隊長に圧力がかかったそうだ。元々権力を笠に着た横柄な人だったらしく、他の隊員からも色々な訴えがあったそうで、隊長の座を退いて家族共々遠方に飛ばされたのだとか。
さすがフェリーチェ様は元諜報担当だけあって情報が早い。
「シュテルター隊長の分隊にちょっかい出すなんて命知らずだよね。いい気味だよ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。なんでグラートはあんな子どもの罠にわざと嵌ったんだろうね?」
「わざと?」
そうかも、反省室という名の牢から簡単に抜け出せるくらいですもんね。子どもの罠に引っかかるなんて僕もおかしいと思っていました。
これで解決したからグラートは寮に戻るのかと思っていたのに、グラートは寮を引き払ってうちに引っ越してきた。なんでだろう? 本格的にリーブに弟子入りするとか? だとしてもリーブはもうすぐ結婚するんだから新婚さんの邪魔をしてはいけないと思うんだ。
そうだ、リーブの結婚式とお披露目会にはフェリーチェ様も呼んであげよう。リーブの相手ってどんな人なんだろう? 楽しみだな。
寒くなる前にってことで、リーブの結婚式は早めに行われることになった。リーブも相手も貴族ではないから婚約を大々的に広めることもなく、教会も赤い屋根の教会で行うことになった。
「うちで結婚式なんて、久しぶりです」
神父さんはニコニコしながら、いつもと違う白に金色の刺繍が入った結婚式用の衣装を着ている。
それで結婚相手はどこにいるんだろう? 僕はまだ紹介してもらっていない。
キョロキョロと辺りを確認していると、ラルフ様に心配された。
「マティアス、どうした? 何か問題でもあるのか? 敵か?」
「いえ、主役の二人はどこにいるのかと思って。まだ僕はリーブの結婚相手を紹介してもらっていませんし」
「ん? マティアスはおかしなこと言う」
え? 何もおかしなことなんて言ってないけど。どういうこと?
「ママ、リーブもグラートもあっちのへやできがえてたよ」
シルが僕を見上げながら教えてくれた。ん? リーブは分かるけど、グラートは今日もリーブの側にいるのか。邪魔じゃない?
みんなが席につくと、後ろの扉が開いてリーブとグラートが現れた。
それでリーブの相手はどこにいるんだろう?
「ラルフ様、リーブの結婚相手は遅れているんですか?」
「マティアス、何を言っている? グラートは隣にいるだろ?」
「──!!」
僕は叫びそうになって慌てて口を手で塞いだ。リーブの結婚相手ってグラートなの!?
だって、グラートって女好きじゃないの? どうなってるの? 僕の頭の中は混乱した。
よく見てみるとリーブとグラートは腕を組んでいるし、二人とも真っ白な衣装だ。銀色のタイはお揃いで、なぜかポポが刺繍されている。
そういえば結婚したいと言いにきた時もリーブの隣にはグラートがいたし、グラートは寮を引き払ってうちに引っ越してきた。
グラートは満遍の笑みだし、リーブもいつもより口角が上がっている気がする。
「グラートもバカだよね。この前のわざと罠に嵌ったのって、リーブさんに嫉妬してほしかったらしいよ」
教会での式が終わってうちでガーデンパーティーを開いていると、フェリーチェ様がこっそり教えてくれた。
後で知ったんだけど、途中でクロッシー夫妻とエドワード王子もうちに来たらしい。だけどメイドたちとフェリーチェ様が用意した騎士たちに追い返されたそうだ。
今日はリーブたちが主役だから、リーブが仕事をしなくていいように手配してくれたらしい。ありがとうございます。
381
お気に入りに追加
1,360
あなたにおすすめの小説
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
没落名士の長男ノアゼットは日々困窮していく家族を支えるべく上級学校への進学を断念して仕送りのために王都で働き出す。しかし賢くても後見の無いノアゼットが仕送り出来るほど稼げはしなかった。
そんな時に声を掛けてきた高級娼家のマダムの引き抜きで、男娼のノアとして働き出したノアゼット。研究肌のノアはたちまち人気の男娼に躍り出る。懇意にしてくれる太客がついて仕送りは十分過ぎるほどだ。
そんな中、母親の再婚で仕送りの要らなくなったノアは、一念発起して自分の人生を始めようと決意する。順風満帆に滑り出した自分の生活に満ち足りていた頃、ノアは再婚相手の元に居る家族の元に二度目の帰省をする事になった。
そこで巻き起こる自分の過去との引き合わせに動揺するノア。ノアと太客の男との秘密の関係がまた動き出すのか?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる