僕の過保護な旦那様

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二章

158.逃走中

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 少し時は遡る。
 先日グラートがまた謹慎中だと報告を受けた翌日、僕はリーブにグラートのことを聞きに行った。

「グラートがまた女性問題で謹慎しているのですが聞いていますか?」
「彼は仕方のない人ですね」
 リーブからはにこやかな笑みを絶やさずにそんな返事が返ってきた。
 知らなかったんだろうか?

「よくリーブの後をくっついているように見えたんだけど、グラートはリーブに弟子入りでもしたんですか?」
「いえ、私は弟子など取れるような立場ではございません」
 そんなことないと思うけど。いつも完璧な執事だし、何より強い。

「グラートは、何か心の問題を抱えているから、過ちを繰り返すのだと思いますか? それとも、謹慎しても反省せず同じことを繰り返してしまう理由が他にあると思いますか? リーブが一番親しいですよね?」
 リーブなら何か知っているのではないかと思ったんだ。
 だけどリーブは顔色一つ変えず、「どうなんでしょうね? 次に会ったら聞いてみます」とだけ言った。

 グラートとリーブは親しいと思っていたけど、それは僕の勘違いなんだろうか?
 弟子でもない、それほど親しくもない、だったらグラートがリーブに付き添う理由はなんなんだろう?
 全く分からない。
 実は同郷とか、遠い親戚とか、そんな関係だったりするんだろうか?

 いずれにせよ、グラートの問題を解決する糸口は見つけられなかった。

 そしてグラートは、例の娘に手を出された隊長と揉めているとかで、謹慎が続いている。手を出したって何をしてしまったんだろう?
 一線を超えてしまったのなら謹慎ではなく結婚という話になりそうな気もするんだけど、斬り殺されず謹慎で済んでいるだけまだマシなんだろうか?

 そのままグラートのことは何もできず、解決策も浮かばないまま時は過ぎた。
 シルがイーヴォ隊長にパンのためのクッションを作ってもらい、庭の木が赤や黄色に色付き始めた頃、フェリーチェ様から知らせを受けた。
「グラートが逃げた」
「え?」

 反省室という名の牢に入ってるんじゃなかった? そこって簡単に出られるんですか?
 ラルフ様の部下ならあり得るんだろうか? 捕虜奪還とかしてしまうくらいなんだから、捕まったとしても自ら脱出できるような技術を持っていてもおかしくはない。
 だけどなぜ?
 逃げたって、どういうこと?

 まさか騎士も辞めてしまうってことないよね? そのまま帰ってこないなんてことないよね?
 こんなことになるなら、反省室に入っている間であっても会いに行って話を聞いてあげればよかった。
 今更だ。この前後悔したばかりなのに……
 僕は何もできなかったことが悔しくて、動かなかった自分が情けなくて、ラルフ様に吐露した。

「マティアスのせいではない。あいつは甘ったれだが、全てを投げ出すような奴ではない。今は待つしかない」
 ラルフ様は「でも」「でも」とウジウジ繰り返す僕のことを膝に乗せてギュッとして、ずっと背中を撫でていてくれた。

「マティアス、俺が逃げたら同じくらい心配してくれるか?」
 ラルフ様、まさかグラートに嫉妬ですか?
「ラルフ様が逃げたら僕は探しに行きます」
 ラルフ様が逃げるなんて普通じゃない。だったら僕は迷わずラルフ様の後を追う。

「マティアス、愛してる」
 僕は一瞬でベッドの上で裸だった。

「俺は逃げたりしないが、もし逃げる必要があればマティアスを連れて一緒に逃げる。マティアスを一人にはしない」
「うん。ずっと一緒にいてください」
 もしラルフ様が僕と逃げることになったら、シルも一緒で、そしたらメアリーもついてきて、リーブもチェルソもミーナもリズもバルドも。バルドが一緒ならロッドも一緒に来るかもしれない。
 ラルフ様の部下もみんなついてきて、ニコラとルカくんもついてくるとしたら、大移動になる。
 暇だからって理由だけでフェリーチェ様までついていくと言い出したら副団長も合流して、そうなったら国の主戦力がごっそりいなくなる。大変なことだ。

「ああっ……」
「マティアス、俺のことを見てくれ」
「見てますよ」
 僕の思考はラルフ様の甘い熱で溶けていった。僕が他所ごとを考えられないくらい攻めてきて、僕の体はラルフ様に知られ尽くしているから、抗うなんてできなかった。

 もう他所ごとなんて考えないよ。
「らる、さま、きて……」
 手を伸ばすとラルフ様は僕の手を掴んでくれた。いつも手を伸ばせば届く距離にいてほしい。

 
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