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二章
156.孤児院への侵略と病の再発
しおりを挟む「こんな裏通りに教会があるんだね」
「馬車で行かない理由がわかりました。歩いて行くというから不思議だったんです」
フェリーチェ様とルカくんが教会を見て感心している。
今日も子どもたちは元気だ。シルを見つけると、みんなが駆け寄ってきて、シルを連れて庭に走っていった。
僕たちも後を追うように孤児院の建物に向い、シスターにクッキーを渡す。
そこで気づいてしまった。そうだった……シルが木彫りのポポ一族を子どもたちに渡さなくても、今日のクッキーは全部ポポだ。
僕が自らポポの侵略に手を貸すことになるとは……ポポ、僕を使うとはすごい手腕だな。
「これポポのクッキーなの!」
シルは自慢げに子どもたちにクッキーを配っている。
「ポポ?」「何それー?」
子どもたちは分からなくて当然だ。ポポはうちでしか通じない名前だから。
「ねえねえ、シルのくびにまいてるやつについてるのとおなじ?」
「そうだよ! かわいい?」
「うん、かわいい!」
「ほんとだ! シルのとおなじだ!」
みんな羨ましそうにシルのスカーフを眺めている。
「みんなもポポの刺繍スカーフ欲しい?」
フェリーチェ様が子どもたちに問いかけた。だけど子どもたちは困った顔をした。
孤児院の子どもたちは欲しいと言えないのかもしれない。
子どもたちは孤児院が裕福でないことを知っているし、服やおもちゃが欲しくても気軽に買えないことを知っている。
「フェリーチェ様、子どもたちは欲しくてもなかなかそう言えないんですよ」
フェリーチェ様は不思議そうな顔をした。きっとフェリーチェ様は裕福な家庭で育ったんだろう。欲しいものは欲しいと言えば買ってもらえる。僕もそうだけど、シルを迎えてこの孤児院と関わって、それで僕はやっと知ることができた。
「そういうものか。うーん、騎士たちに作らせたらいいと思ったんだけど。どうせあいつら暇してるだろうし」
そうなの? そんなに暇してはいないと思うけど……
フェリーチェ様はその後、子どもたちに好きな色を聞いて回っていた。きっと子どもたちのためにハンカチかスカーフを作ってあげるんだろう。欲しいと言えなくてもフェリーチェ様には気持ちが伝わった。
ルカくんも今度一緒にポポクッキーを作ろうと子どもたちと話している。
ポポの侵略は進みそうだ。
家に帰ると副隊長がパンを撫で回していた。
「フェリーチェ、おかえり」
「うん。お前本当にパンのこと好きだな」
「帰ろう。そうだマティアス殿、グラートが謹慎中なんだが、騎士団の反省室からこの屋敷の地下牢に移りたいと言っている」
「え?」
グラート、最近見ないと思ってたら、まさか反省室に入っていたなんて……
また女好きの病気が再発してしまったんだろうか?
それにうちの地下牢に移りたいってのはなぜ? 一度みんなに忘れられて餓死しかけたこともあったのに、うちの地下牢に入りたい理由が分からない。
「夫がいいと言うなら構いませんが、僕の判断では決められません」
「そうか。分かった。シュテルター隊長が帰ってくるまで待つ」
僕はベンチを案内して、メアリーにお茶を淹れてもらった。
シルはキッチンに走って行ってポポクッキーを持って戻ってきた。
「リオ、これたべていいよ。ぼくがつくったの!」
「シルは偉いな。いただこう」
副団長はシルの頭を撫でると、ポポクッキーを一つ摘んで一口で食べた。
それを見届けると、シルはパンのところに走って行ってしまった。
「副団長、グラートはまた女性問題で謹慎中なんでしょうか?」
「そうだ。あいつは懲りもせず見学に来ていた女性に手を出した。それが第三騎士団の隊長の娘だったから隊長が激怒して大変だったんだ」
最近は大人しくしていたから、落ち着いたんだと思ってた。まさか他の団の隊長の娘さんに手を出すなんて。
他の団に迷惑をかけたってことで副団長が出ていくことになったのかもしれない。団長であるエドワード王子は面倒なことは下に丸投げしそうだし。
「夫の部下が迷惑をかけてすみません」
「マティアス様が謝ることないよ。グラートの保護者じゃないんだからさ」
フェリーチェ様はそう言ってくれたけど、グラートはよくうちに来てたし、どうにかして防ぐ手立てはなかったのかと思ってしまうんだ。
後でリーブにも聞いてみよう。つい最近までは大人しかったんだ。もしかしてリーブに破門にされたとか?
弟子入りしたんだと思ってたけど、実際は分からない。破門にされたならうちに来たいとは言わないから違うのかもしれない。弟子入りという考えが違うんだろうか?
弟子入り以外にグラートがリーブに付き添う理由が分からない。うーん……
ラルフ様は帰宅すると副団長から話を聞いて、グラートがうちの地下牢に入るのを断った。
「それでは反省にならない。甘えだ」
グラート、うちに遊びに来たいなら、ちゃんと反省して謹慎が解けたらうちに遊びに来たらいいよ。
精神的な病気なのか、趣味なのか、何度も謹慎になっているのにグラートがそんなことを繰り返す理由も知りたい。
解決できるならしてあげたい。そんなこと僕にできるかは分からないけど。
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