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二章
142.みんなで森へ
しおりを挟む「ママ、パンにのっておでかけしたい」
「うん? どこに行きたいの?」
「もり!」
森か。僕一人では連れて行けない。これはラルフ様に要相談だ。
「森か~、私も行こうかな」
シルと庭で話していると後ろから急に声が聞こえて、振り向いてみるとフェリーチェ様がいた。また来たんですね。
最近ようやくラルフ様の許可が下りて花屋の仕事を再開したんだけど、フェリーチェ様は僕が仕事で家にいなくても来ているらしい。
この前は仕事から帰ってみると、フェリーチェ様とルカくんが庭でお茶をしていた。意外な組み合わせだと思ったけど、二人は意外と話が合うようだ。
「うちに来るならいいですが、王都から出て森に行くとなると旦那様の許可をとった方がいいんじゃないですか? 僕は戦闘能力がないので一人でシルを連れて行くことはできませんし、森に行く日はラルフ様に相談します」
「相談か……正直面倒だな。あいつついてきそうだし」
フェリーチェ様は少し困ったような様子だった。僕が勝手に王都の外へ出したと言われても困るから、是非とも旦那様に許可をとってもらいたい。
「いいんじゃないですか? みんなで一緒に森に行くのも楽しいですよ」
「そっか。みんなでってのは楽しそうだね。森でウサギか猪か鹿でも狩って焼いて食べる?」
騎士の人ってみんなこんなワイルドな思考なんだろうか? 僕としてはサンドイッチでも持って出掛けて、お茶を飲みながらのんびりしようと思ってたんだけど、狩りをしたいなら反対はしない。
「ラルフ様の部下の皆さんは狩りをするかもしれませんが、僕はサンドイッチをシェフに作ってもらって持っていきます」
「それもいいね。そっか、野営しないなら作ったものを持って行くのもありなんだね。じゃあルカくんに美味しい焼き菓子でも頼もうかな。なんか悩んでるみたいだったし」
ルカくんはフェリーチェ様に相談してたのか。フェリーチェ様がどう答えたのかちょっと気になる。
当日、森に行くメンバーとして集まったのは、僕とシルとラルフ様、フェリーチェ様とリヴェラーニ副団長、ハリオとルカくん、リーブとリズ。ルーベンとタルクも、ちょうど森に行こうと思っていたとかで一緒に行くことになった。
みんなそれぞれ馬に乗っているけど、僕だけラルフ様と相乗りだ。ハリオはパンの手綱を引いて自力で走る係だ。
「フェリーチェ、俺と相乗りするか?」
「しないし。お前と乗ったら狭いし馬が可哀想だ」
僕がラルフ様と相乗りしているのを見て副団長は羨ましいと思ったのか、フェリーチェ様に相乗りを提案していた。残念ながら振られていたけど。
ルカくんも馬に乗れるなんて知らなかった。ルカくんが乗ってる馬はハリオの馬だ。
二列に並んでゆっくりと歩いていく。
パンは大きな馬に囲まれて最初は耳がペタンとしていたけど、シルを乗せたらキリッとした。
きっとパンはシルを乗せることが自分の使命だと思っているんだ。そういえばこの前、パンの小屋にポポファミリーの新作が増えていた。きっとシルがパンにあげたんだ。
木を組んだだけの殺風景な小屋に色が増えて、今では少し可愛い感じになっている。
木彫りの置物であるはずのチンアナゴが武器でない武器? になったりしていたけど、パンの小屋では置物として本来の使い方で落ち着いている。
「みんなで森に行くのもいいな」
フェリーチェ様が今日はとてもご機嫌だ。そしてそんなフェリーチェ様をニコニコと見つめる強面の副団長がちょっと可愛い。二人はお似合いだ。
「ラルフ様、フェリーチェ様と副団長はお似合いの夫夫ですね」
「俺とマティアスの方が似合っている」
そこ対抗心燃やすところじゃないと思うよ。
それでもラルフ様が僕たちがお似合いだと思ってくれていることが嬉しかった。
僕たちはのんびりと楽しく馬に乗っていたんだけど、ルーベンとタルクにとっては退屈だったみたいで、「鍛錬があるので先に行きます」と言って二人だけ先に駆けていってしまった。あの二人もブレないな。
王都を出て森に入り、森の中を駆けて少し開けた場所で馬から降りた。
大きな荷物を背負っていたハリオが、椅子やら敷物やら色々とセッティングしてくれて、リーブとリズはお湯を沸かしてお茶を淹れてくれた。
「野営でも訓練でも仕事でもなく森に入ったのなんて初めて」
フェリーチェ様は両手を上に上げて伸びをすると、森の空気を大きく吸ってそう言った。
「こんな休みの過ごし方もいいな。フェリーチェ、またこよう」
副団長も森でのんびりと過ごす休日を気に入ったようだ。森は木々が適度に陽射しを遮ってくれるから、涼しくていい。
「うん。そうだね」
「いいのか? 俺と二人きりでもいいか?」
「いいよ。ほら、そんな顔するな。私たちは夫夫だ。手を出してみろ」
恐る恐るといった感じで出した副団長の手をフェリーチェ様は指を絡めてギュッと握った。
見ているこっちまで幸せになる。副団長よかったね。
そして二人に対抗するようにラルフ様も僕の手をギュッと握ってきた。
チラッと横を見ると、ルカくんがジッとリヴェラーニ夫夫を見ていた。きっと羨ましいんだろう。
せっかく勇気を出して告白したのに信じてもらえなかったルカくんは、もう一度勇気を出せるんだろうか?
「ハリオ、手、握ってもいいぞ」
手を繋ぎたいとは言えなかったか。でもルカくん勇気出したんだね。
「それではお言葉に甘えて。それにしてもルカくん急にどうしました? 寒いですか? 膝掛けを出しましょうか?」
「……ハリオは本当に酷い」
「あ、ごめん。ルカくん、俺の手は硬くて不快だったか?」
ハリオはルカくんと繋いだ手を放してしまった。なんで気付かないのかな?
「ルカくん、ちょっと話そう。ハリオはついてくんなよ」
俯いてしまったルカくんを連れ出したのは、リヴェラーニ夫夫だった。正確にはフェリーチェ様なんだけど、副団長がフェリーチェ様の手を放さなかった。
今回ルカくんを誘ったのもフェリーチェ様だから、責任を感じたのかもしれない。
というか面倒見がいいのかな?
シルはパンとリズと一緒にてんとう虫を手に乗せて遊んでいる。こっちはこっちで見ているだけでほっこりする。
鞄からポポを取り出してその上に乗せたりしているけど、それも可愛いの一部に含めていいだろう。
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