僕の過保護な旦那様

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二章

138.お茶会

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 数時間前の僕、よく考えてみて。普段着と書かれているからって革鎧やチェーンメイルを着てお茶会に参加する人なんているわけないんだ。
 当たり前だけど、お茶会の会場に到着すると誰もチェーンメイルなんて着てなかった。

「チェルソ、チェーンメイルは馬車に置いてきてもいいかな?」
「馬車ならもう帰りましたよ」
 そんな……
 まだ夏でなくてよかった。チラッと見えてしまうけど、上にジャケットを羽織っているからあからさまにチェーンメイルが見えているわけじゃない。
 もしかしたら誰も気づかないかもしれない。きっと大丈夫。そう思うことにした。

 人数が多いからか席は定められておらず、いくつかのテーブルと椅子が並べられていて、ドリンクやお菓子、軽食などは自分で取りに行ったり、従者のような人が取りに行ったりしている。
 子どももそれほど多くはないが連れてきている人がいる。子どもが遊ぶ用に部屋が別途用意されていて、そこには乳母も何人かいるそうだ。そっちに行けば子どもが集まっているのかもしれない。

 騎士の伴侶のお茶会なんて初めてきたから、どうしていいのか分からずチェルソと共に途方に暮れていると、クロッシー夫人が僕に気づいて歩いてきた。
「マティアス様、ようこそお越しくださいました」
「クロッシー夫人、本日はお招きいただきありがとうございます」
「ふふふ、ラルフくんは相変わらずなのね。まさかお茶会に武装して参加しろだなんて面白いわ。今日は楽しんでいってね」
 一瞬でバレた……
「はい」
 軽い挨拶をするとクロッシー夫人はすぐに別の参加者のところへ行ってしまった。

「今日は騎士は参加していないはずだよね?」
「ええ、そう聞いています」
「でも男女問わず騎士って感じの強そうな人も結構いるんだね」
「結婚して引退された方たちかもしれませんね」
 そっか、そういうこともあるのか。職場恋愛ってやつか。

「あの、シュテルター隊長の旦那様ですか?」
 急に僕は横から来た女性に話しかけられた。見たことない人だけど、相手は僕のことを知っているらしい。
「はい、そうです」
「やはり騎士の伴侶たるもの、自衛できない者は常に備えておくことが大事なんですね。参考になります」
 それって、僕が弱いからチェーンメイルを常に着用していると思われてる?
「えっと、今回は知らない場所でしかも大勢人が集まるということで、僕の夫の過保護が発動しただけです。常にこんな格好をしているわけではないんですよ」
 誤解は早めに解いておかなければならない。そしてとても恥ずかしい。やっぱりバレバレだったんだ……

「あら、そうでしたか。でも、参考になりますわ。安全だと確証できない場所へ行く際には武装も必要だと」
 違うんだけどな……
 いや、違うとも言いきれないか。
「危険な場所に行く時には、必要になることもあります」
 僕は無難な答えをしておいた。これでいいのかな?
 彼女は僕の答えに満足すると、時間をとって申し訳ないと謝って去っていった。別に僕は暇だから謝る必要なんてないんだけど。

「僕も誰かに話しかけてみようかな」
「そうですね。いいと思います」
 元騎士って感じじゃない、普通の人がいいな。か弱そうで、僕の気持ちを分かってくれそうな人だとなおいい。そんな風に辺りを見渡していると、とても影が薄くて見過ごしてしまいそうな儚げな美人を発見した。男性だけどとっても綺麗な人だ。
 誰とも話さず、会場の隅で気配を消すように佇んでいる。

「チェルソ、あの人なんていいかも」
「なかなか面白い方に目をつけましたね」
 チェルソはそんなことを言ったけど、彼なら危険人物ってわけでもないんだろう。チェルソが反対しないってことはそういうことだ。

「あの、お暇ならお話ししませんか? 僕はマティアス・シュテルターです」
「え? 私とお話し? シュテルター隊長の旦那さんですか。私はフェリーチェと申します」
 家名はないのかな? 騎士は平民の人もいるから不思議ではない。

「お一人だったので、声をかけてしまいました。実は僕、この会に参加するのが初めてで」
「そうですか。私もまだ結婚したばかりなのでこの会は初めてです」
 よかった。同じような人がいた。

「結婚されたばかりなんですね。おめでとうございます」
「ありがとう」
「結婚したばかりって慣れなくて大変じゃありませんか?」
「うーん、そうですね。だいたい夫の行動パターンは分かってるので大丈夫ですよ。それより仕事を辞めて暇ってことが大変かな」
 結婚してお仕事を辞めてしまったのか。なんで辞めたんだろう? うちのように養子でも迎えて子育てをするつもりなんだろうか? それともどこか遠方から出てきたのかな?

「そうなんですか。以前のお仕事は何を?」
「私、元騎士なんですよ。諜報部をまとめてたんですけどね、危ないから辞めろって。倒れるほど忙しくて休みが欲しいって思っていたのに、いざ時間ができると何をしていいのか分からない」
 元騎士? しかも諜報部をまとめてた? 騎士じゃなさそうな人に声をかけたつもりだったのにおかしいな。人は見た目では判断できない。

「そうなんですね。諜報部をまとめるなんて凄いです。てっきり一般の人かと」
「私は戦うことはあまりありませんからね。気配を消すことと、他人になり切ることは得意なんです。でも貴方には見つかってしまいました。ふふふ」
 もしかして気配を消してた? だから影が薄く見えたんだろうか?

「マティアス様が連れている方、相当な腕なのでは?」
「え? 彼はうちのシェフですよ」
「ふふふ、シェフなんて面白い」
 面白いのかな? 僕にはフェリーチェ様が面白いって言った理由がよく分からなかった。

 その後はなんとフェリーチェ様の旦那様も過保護なのだという話で盛り上がった。意外なところに同志はいた。フェリーチェ様は戦いを専門としていないから、旦那様から見ると弱いと判断される。それで過剰に守りを固められるのでよく喧嘩をするのだとか。
「ぜひまたお話ししましょう。暇なら遊びに来てください」
 そんな感じでフェリーチェ様と仲良くなった。

 二人で話していると、会場の中心が騒がしくなった。
「なんでしょうね?」
 どうやら元騎士や腕に自信のある人たちが模擬戦を始めたようだ。
 騎士の人って、引退してもたまに戦いたくなるんだろうか? そして戦いの心得のない人が随分端まで避けた。そんなに離れるの?
 目の前で戦われたら怖いよね、と思った瞬間に木剣が飛んできた。
 チェルソが難なく受け止めてくれたけど、危なかった……
 ねえ、実はチェルソって強い? そんな気はしてたけど、フェリーチェ様が相当な腕って言うくらいだし、飛んできた剣をそんな当たり前のようにキャッチするのも普通じゃないと思う。

「シュテルター隊長の旦那さんに当たるところだったぞ。危ないからもうやめろ!」
 フェリーチェ様が言うと、みんな一斉に僕のところに走ってきて頭を下げた。

「「「申し訳ありませんでした」」」

「いえ、当たってないので大丈夫です」
 それに恥ずかしながらチェーンメイル着てるから木剣が僕を貫くことはない。

 そのまま僕とフェリーチェ様は元騎士の人たちに囲まれてしまった。
 僕がラルフ様の夫だと気づいていない人がほとんどだった。みんな僕はシルを連れていると思い込んでいたらしい。
「噂のシルくん連れてきていないの?」
「噂ですか? うちの子が?」
「可愛い子がいつも騎士団の見学に来ていて、癒されるって聞いて楽しみにしてたんだ」
 うちの子が噂になってる。

 僕は今回初めて参加したけど、時々騎士とその家族も含めてお茶会や飲み会が開催されているそうだ。ラルフ様が一緒ならいいかと思って機会があればと言っておいた。
 戸惑うことも多かったけど、色んな人と顔見知りになれたのはよかった。

 
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