僕の過保護な旦那様

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二章

133.今年の雪遊び

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 ピエールのせいでラルフ様に心配をかけてしまった。
「君はとっても綺麗な模様だけど、その名前は誤解を招くね。シルの元へお帰り」
 ピエールをシルに返して、午後は庭でシルとパンが遊んでいるのを見ながら、ラルフ様と一緒にジンジャー入りの紅茶を飲んだ。

 ヴィートからお茶会の誘いが来るかと思っていたけど、全然こない。忘れられているのかもしれない。それならそれでいいや。

「雪が降りそうな天気だな」
「そうですね。今日は一段と寒い気がします。風も吹いていますし」
 暖炉に薪を追加しながら、ラルフ様とそんな話をしていた日、夕方から雪が降りだした。
 雪が降ると音が消えるのは不思議だ。しんしんと静かに降る雪は翌朝、景色を白い世界に変えた。

「ラルフ様、雪が積もっています」
「今日は晴れているんだな」
「雪遊びができますね」
「そうだな、シルが喜びそうだ」

 せっかくだし、赤い屋根の教会に行ってみようかな。シルも大人より、同じくらいの年齢の子と一緒に遊んだ方が楽しいだろう。
 ヴィートにも声をかけてみるか。なんとなく誘わなかったら後で文句を言われそうな気がする。

「リーブ、誰でもいいんだけど、プロッティ子爵家のヴィートに伝言をお願いできる? 今日、孤児院に行くけど一緒に行くか聞いてほしい。もし不在とか用事があるなら、また今度時間がある時にでもって言っておいて」
「畏まりました」
 ミーナがすぐに行ってくれたようで、「準備をしたらすぐに行く」と伝言を預かって帰ってきた。
 ヴィート、意外と暇だったりする?
 道には雪が積もっているけど、ヴィートはどうやってくるんだろう? 距離はそんなに遠くないから歩いてくるのかな? 貴族は近い距離でも馬車を出す。貴族って面倒だよね。

 朝食の席でシルにも伝えた。雪があるからパンの散歩をどうしようか迷っていたらしい。
「今日は晴れてるから、パンの散歩は午後に雪が溶けてからすればいいよ。午前中は赤い屋根の教会に行ってみんなと雪遊びしようか」
「そうする! ゆきあそび!」
 シルに温かい格好をさせて、僕も風邪を引かないようにとラルフ様にたくさん服を着込まされた。

 ヴィートが来るまで待って、みんなで歩いて向かう。雪が積もったせいで馬車を出せずヴィートは従者を連れて歩いてやってきた。また従者は大きな箱を抱えている。
 その中はきっとクッキーやドライフルーツなんだろう。
 ルカくんも行くと言ったので、自動的にハリオも付いてきて、バルドもいるし結構な人数になった。

「ハリオ、明後日からラビリントに赴任だ。期間は春までだから二ヶ月ほどだ」
「え……」
 ラルフ様が唐突に伝えるとハリオは立ち止まって絶望的な表情を浮かべた。もしかして、ラルフ様が王都に戻る代わりに行くことになった?
 ちょっと可哀想だけど、ルカくんから離れて考えてみたらいいと思う。
 ルカくんもハリオと離れて過ごせば、好きだと伝えられるようになるかもしれない。

「ママ、ゆきいっぱいだね」
「そうだね。雪遊び楽しみだね」
「うん!」
 シルは僕とラルフ様が挟んで左右から手を繋いでいる。親子って感じだ。
 最初はラルフ様が抱っこして行こうとしたんだけど、シルは雪の上を歩きたかったらしい。

 ラルフ様、振られちゃいましたね。そんな気持ちでラルフ様を見たら、ラルフ様の向こうにいたヴィートが優しい笑みでシルを眺めているのが見えた。
 ヴィートは意外と子ども好きだ。子どもには余計な一言を言ったりしないんだろうか? 今度会話を聞いてみたい。

「みんなおはよう」
「あ~シルだ!」
「シルきたよ~」
 赤い屋根の教会に行くと、子どもたちは外に出ていて、シルを迎えにきてくれた。
 走り出そうとするシルに「転ばないよう気をつけて」と告げて手を放した。
 連れてきて正解だ。シルは楽しそうにみんなと雪玉を作っている。

「おはようございます、神父様」
「これはこれは、雪が積もっているところようこそお越し下さいました」
 神父さんがにこやかに迎えてくれた。

「ハリオ、屋根の雪下ろしてやれよ。得意だろ?」
 ルカくんが屋根に積もった雪を見てそう言った。この教会はかなり古い建物だ。これから先、王都でどれくらい雪が降るのかは分からないけど、早めに下ろしておいた方がいい。

「任せてください! ルカくんぜひ見ていて下さいね!」
 ハリオはルカくんにいいところを見せたかったのか、屋根の雪を下ろすために走っていった。ハリオは単純だな。

「神父様、これは子どもたちのために持ってきた。適当に分けてあげてくれ」
 ヴィートは従者が持ってきた大きな箱を指差してそう言うと、従者の彼に孤児院の建物に運ぶよう指示していた。
 急のことだったのに、ヴィートは用意してくれたんだ。

「なんだよマティアス、何か言いたげだな。まあいい、今日はこれをお前に渡そうと思っていた」
「僕に?」
 ヴィートが僕に「ほれ」と渡してきたのは封筒だった。中を開けてみると、茶会の招待状だ。
 また律儀にこんな招待状を用意して……
 どうせまた参加者は僕とヴィートだけでしょ? 目の前にいるんだから口頭で誘えばいいのに。面白い男だ。

「うん、参加で」
「分かった。準備しておく」
 もしかして僕が茶会に参加する時って、ちゃんと準備してたの?
 適当なお茶とお菓子を出してるだけかと思ってた。ちゃんと準備してくれているなんて知らなくてごめん。思い起こせば、いつも美味しいお茶やお菓子が用意されていた。それにお土産も色々もらっていた。
 ヴィートは子育ての先輩であるシスターたちにも積極的に話を聞きに行っていた。いいお父さんだ。

 ラルフ様の目の前でヴィートと茶会に参加するとかそんなやり取りをしていたのに、ラルフ様は何も言わなかった。ヴィートはいいんだ?
 セルヴァ伯爵とクロッシー隊長のことはなんであんなに警戒するんだろう? 不思議だ。


 
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