僕の過保護な旦那様

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二章

123.呼び出し

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「やあ、マティ。なんか父上が話を聞きたいんだって。明日の朝、迎えを寄越すからよろしくね」
 いつものようにエドワード王子は前触れなく花屋に来て、僕は突然の登城を命じられた。

 僕には心当たりがない。いや、全く無いわけじゃない。迷宮の隠し扉の発見のことだろうか? きっとそうだよね?
 まさかハリオがプレートアーマー買おうとしたことじゃないよね?
 不安だな……

「リーブ、明日の朝、登城することになった。迎えが来るから馬車の用意はいらないんだけど、正装が必要になった」
「畏まりました。ご用意しておきます」
 僕が陛下に話すようなことなんて何もないんだけど。

 寒いから庭にも出られないし、一人でアロマキャンドルでも焚いてソファで寛いでいよう。そう思って窓から庭をチラッと見ると、タルクがロッドとバルドに見守られながら塀を登っていた。
 こんなに寒いのに、手が悴んでしまわないんだろうか?
 シルもパンの手綱を引いて庭を散歩している。こうして寒いと言って部屋に篭ると、運動不足になってしまう。僕も散歩でもしようかな。
 外は想像した通りとても寒かったけど、白い息を吐きながらの散歩も悪くない。頑張るタルクを見て、パンとシルを見て、僕は少し癒された。


「マティアス様をお連れしました」
「入ってもらえ」
 緊張しながらいつも通される陛下の執務室に足を踏み入れると、陛下と宰相、エドワード王子もいた。

「呼び出してすまないね、どうぞかけてくれ」
 すまないと思うなら呼び出さないでほしいんだけど、そんなことは言えない。
 黙ってソファに腰掛けると、メイドが人数分の紅茶を用意して部屋を後にした。お茶が出てくるってことは長い話になるってことだろうか。

「また功績を立てたな」
 陛下に唐突にそんなことを言われた。
「なんのことでしょう?」
「迷宮で未発見の扉を発見したと報告が上がっている」
 迷宮の話か。僕はホッとした。謀反を疑われたりするのは心臓に悪いけど、迷宮の話なら何も怖がることはない。

 僕は陛下に質問されるまま、どうやって見つけたのかとか、見つけた時の詳細を話したり、迷宮の中の話をしたり、迷宮のある街ラビリントの話をしたりした。

「迷宮を楽しむことができたみたいでよかったよ」
「はい。研究者しか入れない場所の立ち入りまで許可していただき、ありがとうございました」
「ところで二人は社交界に出てこないな。シュテルター隊長やマティアスと話をしたいものは多い、年に一度くらいは出てみないか?」
 え? そういう話? もしかしてそれで呼び出された?
 夜会や茶会には出ていない。僕たちは本家ではないし、ほとんど平民みたいなものだ。ラルフ様も出たくないって言うし、僕も出たくはない。しかし陛下に出ろと言われたら断ることはできない。

「夫はラビリントに赴任中です。私一人で出るのは難しいです」
 ちょっと苦しい言い訳を伝えてみる。これで今年は諦めてくれるといいんだけど……

「マティ、大丈夫だよ。年末年始だけラルフを呼び戻せばいいんだ。俺は団長だからその権限がある」
 せっかく断ろうと思っていたのに、エドワード王子が余計なことを言った。こいつは本当に……ラルフ様が夜会に出てきたら面白いとかいう理由だけでこんな勝手な発言をする。
 心の中でこっそりため息をつき、権力者には逆らえないと覚悟を決めた。

「分かりました。ラルフ様と共に年始の夜会に参加します」
「おお、それはよかった。迷宮のことでも話題になっているからね、そう言ってくれて助かるよ」
 助かるって、僕に答えを委ねたような言い方だけど、僕に断る選択肢なんてなかった。

 迷宮は前置きで、夜会への参加が本命か。じゃあもうそろそろお暇しよう。そう思って、紅茶の残りを飲み干すと、陛下は少し深刻な顔をした。
「ところで、シュテルター隊長のところのハリオだが、おかしな行動をとっているとか。何か知っているか?」
 ん? もしかして、本命はこれか? 僕に火の粉が飛んでくるのは勘弁だ。

「ハリオは恋煩いですね。好きな人のために度を越して尽くしています。好きな人の店の売り上げに貢献するために商品を大量に買ったり、先日はその人が襲われかけたのでうちに滞在させてチェーンメイルを着せています。プレートアーマーを買いたいと言っているという話も聞いていますが、私は上司の夫というだけの立場ですので止められません。団長であるエドワード殿下なら止められるのではないでしょうか」
 さっきのお返しだ。僕は知らない。エドワード王子がなんとかすればいいんだ。

「ふむ、そうだな。謀反などの企てでないことが分かったんだ。シュテルター隊長が不在なのだから、エドワード、お前がなんとかするように」
「はい……」
 エドワード王子は頭を抱えた。
 僕だってハリオを説得するなんて無理だよ。だってハリオが僕の言うことを聞くとは思えないし。
 僕が説得できるのは、ラルフ様と、ちゃんと人の話を聞いて受け入れてくれる人だけだ。「ルカくんを追い出しますよ」って言えば聞くかもしれないけど、それって違うと思うんだ。
 うちにプレートアーマーの持ち込み禁止を言い渡すことは可能だけど、それくらいで諦めるかは分からない。
 ルカくんのために堅牢な家を用意して、そこに運び込むだけかもしれない。
 僕はルカくんの頑張りに期待することにする。エドワード王子には全然期待してない。せいぜい頑張ってくれたまえ。

 
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