119 / 258
二章
118.迷宮探索
しおりを挟む今日は朝から迷宮の見学だ。
メンバーはラルフ様とシル、リーブとリズと僕の五人だ。リーブとリズが強いから、ラルフ様もこのメンバーで行くことにしたんだろう。
「ラルフ様、なぜそれを持ってきたんですか?」
ラルフ様の手にはポポママが握られている。本当になんで?
腰には剣を差してるからそれで十分だよね?
「これはなかなかいい。コンパクトで邪魔にならず、武器ではないというところがいい」
「じゃあぼくはポポをもってる」
ラルフ様がそんなことするからシルが真似したじゃないか。
「ママはポポのかぞくもたないの?」
「僕は両手が空いていた方がいいから、持たないで行くよ」
ごめんねシル、僕にはその勇気はちょっと無い。
ちゃんと僕が用意した防毒マスク、開錠の工具、ツルハシとハンマー、カンテラも持ってる。それと、エドワード王子にもらった研究者しか入れない場所への立ち入り許可証も持った。
防毒マスクは子ども用がなかったから、メアリーに大人用を小さく作り直してもらった。
工具やランタンはラルフ様が持ってるから僕たちは持っていない。
そして、今回ラルフ様の要望で持ってきたものがある。それは『マティアス特製虫除けオイル』だ!
迷宮の中は真冬でもあまり寒くならないらしく、こんなに寒い時期になっても虫がいるのだとか。それで僕が身を削って作った虫除けオイルの出番がきた。
堂々と鞄からオイルを取り出す。
痛っ……
反らせるように胸を張ったら腰にきた……
慣れないことはするものじゃない。
ゆっくり腰をさすって、みんなの手の甲にオイルをチョンチョンとつけていった。
迷宮へは歩いて向かう。馬車は腰に響くから、徒歩の方が楽だ。
だけど無理させたからってラルフ様が僕のこと抱っこしていくのはちょっとどうかと思う……
お尻の下に硬いものが当たってるんだ……
その感触がなんとも言えなくて、すごく困る。
その硬い感触はラルフ様がこんなところで欲望を滾らせているわけじゃなく、ポポママの感触だ。持っていくにしてもせめて鞄に入れておいてもらえませんか?
それか僕は自力で歩くので下ろしてください。
羞恥に耐えながら迷宮の入り口まで向かうと、やっと下ろしてもらえた。入り口自体は研究者も騎士も一般人も同じところだ。
「シュテルター隊長、お疲れ様です!」
「今日も変わりはないか?」
「はい! 昨日も本日も異常は見つかっておりません!」
入り口のところに立っている騎士が元気よく答えてくれた。
「たいちょー、いじょーなしです!」
「シルヴィオ隊員、ご苦労!」
シルもラルフ様に報告している。なんの報告か分からないけど、言いたかったんだろう。うちの子は騎士ごっこが大好きだ。周りの騎士もみんな温かい目で見ている。
「ラル、ぼくチェーンメイルきたい」
「そうだな、何があるか分からない。宿まで取りに戻るか。マティアスの分のも必要だな」
嘘でしょ? 迷宮を目の前にしてお預けとか悲しすぎる。宿に戻ったところでチェーンメイルなんて持ってきてないし。まさか僕は迷宮を前にして、中に入ることなく帰ることになるんだろうか……
そんな……
「旦那様、そういうこともあろうかと持ってきております」
嘘……リーブが優秀すぎて怖い。なんか大きなリュックを背負っていると思ったら、チェーンメイルなんか入れてきたのか……
「ですが、シルヴィオ様の木剣はもってきておりません」
うん、あれは見せかけだけの飾りだからね。仕方ないよ。
「リーブ、ぼくポポがいるからだいじょうぶ」
シルの手にはポポという友だちであり癒しの存在であり、そして武器としての能力も発揮する優秀なチンアナゴがいた。
腰痛いのに……
そう思いながら、迷宮に入るためだと覚悟を決めてチェーンメイルを着ることにした。旅の恥はかき捨てだ。
ねえ、チェーンメイル着るってことは、土でできた人形が襲ってきたりするんじゃないの?
どうしよう、すごくワクワクしてきた!
巨大な門を抜けて迷宮へと足を進める。街に舞う砂のように光が当たると黄金にも見える黄土色の柱がずらりと並んでいた。
その柱の向こうには王城にも引けを取らないほどの大きな建物。その右半分は崩れてしまっているけど、数百年前の建築物とは思えないくらい綺麗に形が残っている部分も多い。
「すごい! おおきい!」
シルが喜んでいる。だよね、迷宮ってワクワクするよね!
「大きいね。こんなに大きな柱、どうやって作ったんだろう」
ここが迷宮。僕はその事実に圧倒されていた。
この辺りも砂埃が酷いから、足速に抜けて建物に入ることになった。
大きな建物は巨人が住んでいたのかと思うくらい天井も高く、入り口も僕を縦に三人重ねても通れるくらい大きい。
室内に入っても黄土色一色で、扉や窓が無いのは不思議だった。取り外したのか、長い年月をかけて劣化して崩れてしまったのかもしれない。
今いる場所は一般人が見学できる場所だから、地面は砂でザラザラしているけど、壁や柱が崩れたりしているところはない。
天井は一部補強されているから、安全が確保された場所なのだとよく分かる。
「マティアス、こっちだ。勝手に動くと迷子になるぞ」
僕は感動しすぎて周りを見ていなかった。話も聞いてなくて、みんなから逸れかけてラルフ様に注意され、走ってみんなの元へ戻った。
「ごめんなさい」
僕は団体行動が苦手なのかもしれない。
すぐに興味惹かれる場所へフラフラと引き寄せられてしまう。
王都ならいいけど、勝手の分からない迷宮なんかで迷子になったら大変だ。注意しておこう。
369
お気に入りに追加
1,360
あなたにおすすめの小説

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
没落名士の長男ノアゼットは日々困窮していく家族を支えるべく上級学校への進学を断念して仕送りのために王都で働き出す。しかし賢くても後見の無いノアゼットが仕送り出来るほど稼げはしなかった。
そんな時に声を掛けてきた高級娼家のマダムの引き抜きで、男娼のノアとして働き出したノアゼット。研究肌のノアはたちまち人気の男娼に躍り出る。懇意にしてくれる太客がついて仕送りは十分過ぎるほどだ。
そんな中、母親の再婚で仕送りの要らなくなったノアは、一念発起して自分の人生を始めようと決意する。順風満帆に滑り出した自分の生活に満ち足りていた頃、ノアは再婚相手の元に居る家族の元に二度目の帰省をする事になった。
そこで巻き起こる自分の過去との引き合わせに動揺するノア。ノアと太客の男との秘密の関係がまた動き出すのか?
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる