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二章
114.報告書
しおりを挟む「シル、ラルフ様から手紙が届いたよ」
「みる!」
膝の上に飛び乗ってきたシルを受け止めて、封筒を開封した。手紙は2枚入っている。
『マティアス、シル、手紙ありがとう。ちゃんと受け取って部屋に飾っている。マティアスとシルに会えない日々は寂しい。こちらの生活にも少し慣れたから、雪が降る前に二人を招待する。また詳細は連絡する
ラルフ』
手紙、部屋に飾ってるんだ。シルが送った手紙は似顔絵が描いてあったから飾りたくなったのかもしれない。
やっと招待してくれるのか。たぶん赴任してから今まで、僕たちが行っても大丈夫かの安全性を調べていたんだと思う。ラルフ様はそういう人だ。
迷宮、楽しみだな。
もう一枚の手紙に詳細が書いてあるんだろうか? そう思って次の手紙を見てみると、それは報告書だった。
ん? 報告書? それは騎士団に送るものじゃないの?
うちに送られてきたんだから僕が見てもいい内容なんだよね? 騎士団に僕が持って行くとしても、内容見たら問題になるようなものを送ってくるってことはないよね?
少し不安になりながら、読んでみる。
=====
【報告書】
カンテラと防毒マスクの有用性について
報告内容:
・迷宮層C区画五地点において有毒ガスの流出を確認。一時通行制限の上、防毒マスクにて対応。
その後、防毒マスクを発注の上、騎士や研究者に配布。
・迷宮層G区画十一地点においてランプの燃料切れを確認。簡易カンテラにて対応。翌日燃料の補充を行い燃料切れ切れ解消。
その後、簡易カンテラを発注の上、各班に配布。
他にマティアスが持たせてくれたものも役に立つと確信している。
マティアスにはいつも救われる。深く感謝している。心から愛している。
以上
ラルフ・シュテルター
=====
何これ。途中までは騎士団に送るものかとも思ったけど、最後に書かれている文章を見ると騎士団に提出するものとは思えない。これって僕への報告書なの? だとしてもなぜ?
僕が用意した防毒マスクとカンテラが役に立ったってことは分かったし、役に立てたのは嬉しいけど、何の意味があって報告書なんて送ってきたのかが全然分からない。
「ママ、それなにがかいてあるの?」
「僕が用意した防毒マスクとカンテラが迷宮で役に立ったって書いてあるんだよ」
「ママすごい!」
うん……うん?
本当にこれはなんだろう?
まさかこれを騎士団に提出しないよね? って思いながら、念の為ラルフ様に手紙で問い合わせてみたら、「騎士団への報告書は別途あげている。それはマティアスへの報告だ」と返事が来た。
だよね。本当にますます分からない。
何だったのかと不思議に思っていたら、次の週にまたラルフ様から報告書が届いた。
今度は宝箱を開錠するための工具が、奥の部屋の開錠に役立ったとの報告だった。
宝箱じゃないのは残念だけど、扉の開錠に役立ったのならよかったんじゃないかな。
それでなんでこんなものを送ってくるんだろう?
その謎はまだ明かされないままだ。
「やあ、マティ」
花屋で花束を作っていると、久々にあまり聞きたくない声が聞こえて、僕は小さくため息をついた。
「また抜け出してきたんですか? 今日は騎士の格好なんですね」
エドワード王子は騎士の格好をしていて、後ろには二人の騎士が護衛なのか付き添いなのか分からないけど立っている。
「今日はちゃんと仕事だよ。この報告書なんだけど、たぶんマティに送るのと騎士団に送るのを間違えたんじゃないかと思うんだ」
そう言われて差し出された紙を受け取ると、報告内容は同じなんだけど、その下の補足のところに、「マティアスは本当にすごい。俺の自慢の夫だ。大好きだ」と書かれていた。
うん、これは騎士団に送る内容じゃないね。
間違えたということは、ラルフ様が僕にも報告書を送っていることを知っているということで……
「殿下、ラルフ様が僕に報告書を送るようになったのは殿下の差し金ですか?」
「嫌だなあ、差し金なんて。ちょっとアドバイスしただけだよ。説明不足でマティを悲しませたって落ち込んでたからさ、口で上手く伝えられないなら報告書を提出すればいいんじゃない? ってね」
意味の分からないことをしていると思ったら、やっぱりこいつの仕業だったのか。
絶対この男はラルフ様がこんなことをするのを楽しんでいる。
「またラルフ様で遊ぶつもりなら、妃殿下にお伝えしなければなりませんね」
「ごめん、ごめん、でも別に今回は迷惑かけたわけじゃないでしょ~?」
「そうですか。それならすぐにでも妃殿下にお手紙を書きましょう」
「ちょっと待って待って、今回は本当にいい話もあるから」
エドワード王子は焦った様子でもう一枚折り畳まれた紙を僕に差し出した。
「お詫びっていうかさ、なんか色々迷惑かけたし、ラルフを危険に晒したこともあったからさ、迷宮の一般公開されてるところだけじゃなくて研究員しか入れないところにも入れる許可証」
僕に差し出された紙の内容を説明してくれた。ラルフ様はきっと、僕が迷宮に行きたがっているって話をエドワード王子にしていたんだろう。
「ありがとうございます。それで解錠の工具の報告書はうちにあるものを騎士団に提出した方がよろしいですか?」
「できればお願い。アマデオかロッドに預けてくれればいいよ」
それなら、今回だってわざわざ僕の仕事の邪魔をしに来なくても、アマデオかロッドを通じて伝えてくれればよかったのに。
ラルフ様が報告書をなぜ送ってくるようになったのかが解明されたから、今回だけは許してあげることにしよう。
「ではそう対応させていただきます。お忙しいところお手数をおかけいたしました」
そう僕が伝えると、エドワード王子は部下の騎士を連れて今日はなにも買わずに去っていった。
お仕事中だからだろうか。
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