僕の過保護な旦那様

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二章

101.図書館

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「シル、図書館行くけど一緒に行く?」
「いく!」
 図書館に行くのは初めてだから、シルは図書館が何なのか分かってないと思うけど、お出かけだと嬉しそうだ。
 鞄にポポを入れていくのはいいけど、チェーンメイルは脱いでいこうか。ジャラジャラ音がしちゃうし。

 勉強を頑張っているから、シルは文字がかなり読めるようになってきた。花屋のお客さんが、本を買うのは高いけど図書館で借りたら色んな本が読めると教えてくれたんだ。
 子ども用の本も色々あるらしい。僕はやっぱり冒険の話がいいな。
 悪者に攫われたお姫様を救出するとか、仲間を集めて世界を旅するとか、宝探しをするとか。

 今日は珍しくお出かけにはチェルソが付き添ってくれている。
 帰りにカフェで美味しいケーキを食べるのもいいな~
 チェルソは美味しいお店を知ってそうだ。

「ママ、ぼくこれがいい」
 シルが持ってきたのは、子ども用の本ではなく馬の絵がたくさん載っている画集のようなものだった。どこからそんな本を見つけてきた?
 そんなにシルは馬が気に入ったのか。
「他にも文字を読む練習用に、文字が書いてある本も借りようか」
「うん」

 僕はもう借りる本を見つけている。迷宮探検の本だ。この前、王家直轄の迷宮があるなんて聞いてしまったから『迷宮』という文字に惹かれて借りずにはいられなかった。
 王家直轄の迷宮の研究結果の本ではなく、完全に創作の物語だ。他にもドラゴンに乗った少年が世界の果てまで旅をする物語も借りることにした。どちらも面白そうだ。

 帰りはチェルソと一緒にゼリーのお店に寄った。
「ママ、きれい。これぜんぶたべれるの?」
「そうだよ。綺麗だね。シルはどれがいい?」
「このまるいの」
 シルが指差したのは葡萄のゼリーだった。緑と紫の実がたくさん入っていて綺麗だ。
 ラルフ様の分や使用人のみんな、ニコラたちの分もちょっと多めに買っていく。
 ゼリーを食べて本を読んで、今日の午後は有意義に過ごせそうだと思った。

「ラル、このまるいのおいしいよ。いっこあげる」
 夕飯の後みんなで寛いでいると、シルがラルフ様に緑の葡萄が乗ったスプーンを差し出した。
 それをラルフ様がパクッと食べて、「この赤いの食べるか?」と苺をシルにあげていた。
 可愛い親子だ。僕はソファに座って本を読みながら、そんな二人を眺めているだけで嬉しくて心が温かくなった。

 今日のキャンドルは森の香り。冒険の物語を読んだら、森の香りを感じたくなったんだ。
「ラルフ様、すごいんです。空飛ぶドラゴンに乗った少年が、世界の色々な場所を巡りながら旅をするんですけど、火山に行ったり雪山に行ったり、海を渡ったり、夢がありますよね」
「そうだな」
「空を飛ぶなんてすごく楽しそうですよね!」
「マティアスが空を飛べたら困る。すぐにどこかへ行ってしまいそうだ」
 そんなことないよ。僕はラルフ様やシルを置いて勝手にどこかに行ったりはしない。

「僕はラルフ様を置いてどこへも行ったりしませんよ」
「そうか。俺もマティアスを置いていなくなったりしない」
 うん、知ってる。ラルフ様はお仕事に行っても必ず僕のところに帰ってきてくれる。信じています。
 ジッと見つめると不意にキスされた。
 もしかして僕が物語のことばかり話すから寂しかったの?

「マティアス、そんなに冒険したいのか?」
「そうですね。冒険は憧れます」
「そうか」
 もしかして、迷宮の見学に連れて行ってくれる気になったとか?
 ワクワクしながらラルフ様の返事を待ったけど、ラルフ様の返事は「ダメだ」だった。
 そんな気はしてたけど残念だ。


「マティアスさん、お土産です」
 ハリオがたくさんのクッキーをくれた。
 お土産? どこかに行っていたんだろうか?
「ありがとう。どこかに遠征にでも行ってたの?」
「いえ、隣り街で買いました」
「あ、もしかしてルカくんのお店?」
「ええ。友だちになったので、会いに行ってきたんです」
 ハリオが嬉しそうに答えてくれた。二人は出会って間もない気がしてるけど、一目惚れなんだよね? ルカくんの顔が好みってこと?
 顔が好みでも性格も好みとは限らないと思うんだけど、その辺ってどうなんだろう?

「ハリオはルカくんのどんなところが好きなの?」
「彼は俺の心の拠り所というか、生きる理由というか、そんな感じで存在が好きです」
「そうなんだ」
 顔! と即答されたらどうしようかと思ったんだけど、まさか生きる理由なんて重い返答がくるとは思わなかった。
 いきなりそんな重すぎる愛で押されたら、ルカくんが引いてしまうんじゃないかと心配だ。

「ママ、このクッキーおいしい」
「そっか、よかったね。ハリオが買ってきてくれたんだよ」
「ハリオはきのうのまえもケーキくれたよ」
「そうなの?」
 それは僕も知らない。まさか毎日のように彼に会いに行ってるの?
 シルに甘いものばかり与えるのはやめてほしい。おやつでお腹が膨れてご飯を食べなくなったらどうするのか。
 ハリオが好きな人に会いにいくのは構わないけど、お土産はそんなに要らないんだ。
 クッキーも半分くらい花屋に持っていこう。


「シル、図書館に本を返しに行くよ」
「もっとみたい」
 シルは馬の絵が載っている本を気に入ってしまった。文字でなく絵が描かれた本は特に高い。気軽に買ってあげると言えないくらい高いから、また今度借りてあげよう。
「その本は街のみんなの本だから、他の人も見たいって思ってるんだよ。色んな本があるから、その本は返して今日は違う本を借りようね」
「そっか。みんなもみたいんだ……」
 シルはちゃんと理解して、本を返す気になってくれた。

「ポポ、ひとりじめはダメなんだって。わかった?」
 シルはポポに独り占めはダメなのだと教えてあげていた。
 もしかしたらシルの夢の中でポポは何かを独り占めしたのかもしれない。そんなことあるかな? 僕はよく分からず首を傾げながら図書館に向かった。

 
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