僕の過保護な旦那様

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二章

99.馬

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 やっぱり加減は必要だった。
 酷い腰痛の僕はラルフ様に抱えられて庭に出て、ベンチでのんびりとお茶を飲んでいる。近くではシルがニコラとアマデオに遊んでもらっている。
 二人はすっかり仲良しに戻ったみたいだ。

 高い塀に囲まれているこの場所は、ラルフ様が作った僕たちの安全が約束されている場所。
 実家を囲む木の柵と比べるととても安全に思える。子どもを安全に遊ばせることができるのは何より大事なんだと思った。
 僕はもしかしたら、子どもの頃にかなり親に心配をかけていたのかもしれない。勝手に抜け出して一人で川に行ったり牧場に行ったり、山にも行った気がする。

「ラルフ様、ありがとうございます」
「なんのことだ?」
「安全な家にしてくれて」
「当然だ。マティアスは危なっかしいからな」
 え? 僕のせい? シルを安全に育てるためじゃなくて、僕が危なっかしいからこんな厚くて高い塀を建てたの?
 僕はそんなに危なっかしくないと思うんだけど……

 衝撃的な内容を聞いてしまったけど、こうして家族みんなでのんびりと過ごせることがとても幸せだ。
 帰りに領地で色んなチーズを買ってきたから、チェルソがさっそくチーズが入ったケーキを作ってくれた。
「ラルフ様も食べてみてください。美味しいですよ」
 ラルフ様に一口大にしたケーキをフォークで差し出すと、パクッと食べてくれた。
「美味しい」
「でしょう?」

 僕はラルフ様に乗馬を練習したいと相談した。ラルフ様もそれには賛成してくれて、リズに教えてもらうことも了承してくれた。
 初めは馬に慣れるところからだ。馬の世話を手伝って、敷き藁を交換したりブラッシングしたり結構体力がいる。

「ぼくもうまのせわしたい」
 僕が馬の世話を始めたら、シルもやりたいと言って馬の世話に加わった。
 敷き藁を集めるのにはフォークを大きくしたような農機具を使う。大人用のものをシルが持てるわけもなく、バルドにシル用の小さいフォークを作ってもらって、それで一生懸命に草を集めている。
 ブラッシングはちょっと無理かな。

 そんな感じで馬の世話をしつつ、馬に慣れていくと、いよいよ馬に鞍をつけて乗ってみることになった。
 シルはリズに一緒に乗せてもらって楽しそうだ。
 踏み台を用意してもらい、よいしょっと乗るとあまりの高さに怖くなった。勝手に走り出したりしないよう、リズがしっかり手綱を持って引いてくれているから、僕は今日はただ乗っているだけ。
 ゆっくり歩いて回って、それだけで慣れない動きに疲れてしまった。お尻にも腰にも足にもくる……
 何度かそんなことを繰り返していると、シルが一人で乗りたいと言い出した。

「シル、鎧に足が届かないと危ないから、もう少し大きくなってからにしよ?」
「ママだけずるい」
 そう言われても、危ないことはさせられないし……
「あしたならいい? そのつぎは? どれくらいおおきくなればいいの?」
 毎日そんな質問をされて、リズと一緒にどうしたものかと考えあぐねていると、ラルフ様が小さい馬を買ってきた。シルと身長がそう変わらないくらい小さいのに、これで大人なんだとか。顔を上げても僕より小さい。
 こんな小さな馬がいるなんて知らなかった。

「シル、この馬は小さい種類なんだ。だからシルが大きくなったら乗れない。その時はペットとして大切に育てるんだぞ」
「うん。ラル、ありがとう!」
 鞍もちゃんと特注で作ってくれていたようで、背中にはシル用の小さい鞍が取り付けられている。でもシルは背中には乗らず、小さい馬の首にギュッと抱きついた。
「かわいい!」
 こんな小さい馬なら僕も乗れそうな気がするけど、大人の僕が乗ったら馬が可哀想だ。

「ぼくはシルヴィオ。うまさんはなまえあるの?」
「その馬はまだ名前がない。シルが名前をつけるといい」
 ラルフ様に言われて、シルはしばらく考えてか「パン!」と大きな声で言った。
「パン?」
「パンのいろだから」
 パンの色……確かに薄茶色でパンの色だけど、シルが決めたんだからいいか。
 パンは大人しい馬で、僕たち大人が近づくと逃げようとするのに、シルが近づくと寄っていく。パンもシルのことが好きみたいだ。

 数日するとシルはパンに乗って庭を駆け回るようになった。僕はまだリズに手綱を引いてもらってゆっくり歩くことしかできないのに……
 しかも平らで土が慣らしてある小さな馬場ではなく草木が植えてある庭を駆け回っている。
 器用に荒らさないように駆け回っているところがすごい。それと僕には気になることがある。

「ラルフ様、パンって特殊な馬ですか? うちの庭って罠が仕掛けられていますよね?」
「そうだな」
 パンはそれを避けながら駆けているのか、それともあの罠は馬は引っかからないのか?
「それでマティアスは馬の練習はもういいのか?」
 う、痛いところを突かれた。相乗りさせてもらった時は大丈夫だったんだけど、一人で乗るのは難しい。もう続けるのは難しいかなって思ってたんだ。

「僕は……諦めます。どうしても乗る必要がある時はリズに相乗りさせてもらいます」
「なぜ俺でなくリズなんだ?」
「馬で逃げることになる時は、きっとラルフ様は戦っている時ですから」
「大丈夫だ。俺はマティアス一人くらい守りながら戦える」
「シルを一人にする気ですか?」
 ラルフ様は一人でも大丈夫だけど、シルは一人にできない。
「む……シル、早く成長してくれ」
「シルはゆっくり大人になればいいんです。子どもの時間は貴重ですからね」
「そうか。そうだな」
 半分納得したような、そうでないような複雑な顔をしながらラルフ様は頷いた。

 その場になったら、ラルフ様一人に戦わせて僕だけ逃げるなんてきっとできないと思うけど……
 あ、でも乗馬ができれば援軍を呼びに行けるのか、それならもう少し頑張ってみようかな。

 しかしそんな決意も虚しく数日後、僕は落馬しそうになってラルフ様から乗馬を禁止された。

 

⚫︎作者体調不良により明日の更新はお休みいたしますm(__)m
 
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