僕の過保護な旦那様

cyan

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二章

93.部屋の片付けと手紙

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「シル、ここは僕が前に使ってた部屋だよ」
「ママのへや!」
 シルが喜びそうなものは何かあるかと、引き出しなどを開けてみたけど面白いものはなかった。
 衣類はサイズや形を直して誰かが着てもいいけど、貴族って感じの服は僕にはもう必要ない。王都の家にラルフ様が作ってくれた正装があるからそれで十分だ。
 宝飾品も使わないし、欲しければあげてもいいし売ってもいい。

「シル、この中にある綺麗な石ほしい?」
「これ! みどりのきれい!」
 シルが選んだのは、エメラルドが真ん中に嵌め込まれたブローチだった。石の周りを取り囲むように金の細かい蔓をモチーフにした細工があって、普段使いはできないようなちょっと派手なものだ。
 部屋に飾るとか、石が大きめだからお金に困ったら売るってこともできそうだ。シルが気に入ったのならシルにあげよう。

「じゃあこれはシルにあげるね」
「いいの? ありがとう! ママ、つけて!」
「どこに着けるの?」
「ここ」
 シルはチェーンメイルの胸元を指差した。チェーンメイルには上手く着けられないと思う。動いてるうちに鎖が針の部分に絡んで曲がってしまいそうだ。
「布にしか着けられないから、紐を通して首からかけておく?」
「そうする!」
  僕は机から革紐を出して、ブローチをに通してシルの首からかけてあげた。
 チェーンメイルにこの緑と金の派手なブローチがアンバランスでちょっと面白い。いいのかな?
 シルは嬉しそうに鏡の前に立って眺めているからいいってことにしておこう。

「チェーンメイルはまだ脱がないの?」
「しらないとこはきけん」
 着てたからって危ないわけじゃないから好きなようにさせてあげよう。
 僕は部屋の中で、要るものと要らないものを分けていたんだけど、シルはすぐに飽きてしまって、クリスのところに行くと言って駆けていった。そしてシルと入れ替わりにリーブが訪れた。

「マティアス様、荷物の整理お手伝いしましょうか?」
「うん、リーブありがとう。リズはまだ厩舎にいるの?」
「いえ、私兵の方たちに呼ばれて訓練場に行くと言っていました」
 野盗のアジトを一人で潰すくらいの実力者だもんね、みんな戦い方を教えてほしいと思うよね。

「リーブは行かなくていいの?」
「ええ、私のお仕事は私兵に戦いを教えることではございません。道中の御者と、マティアス様をお手伝いするためにここにおります」
 リーブは仕事熱心みたいだ。

 服や学校の教科書、本なども処分することにした。
 そして本棚に少しだけ埃を被って置かれていた宝石箱を手に取る。机の引き出しから鍵を取り出して箱を開けてみた。
 これは宝石箱だけど、中には宝飾品は入っていない。ここに入っているのはラルフ様からもらった手紙だ。
 年月が経過して紙が寄れてしまったり、色褪せてしまっているものもあるけど、婚約してから会えない間も僕とラルフ様を繋いでくれていた手紙。
 後でシルに読んであげよう。僕とラルフ様が何年も手紙をやりとりしていたなんてシルは驚くかな?

「こちらのペンはとても凝ったデザインですね」
 リーブが感心したように机の上に置かれたペンを眺めていた。そのペンは祖父が僕にくれたもので、軸の部分が色々な木材を寄せ集めたモザイク柄になっているんだ。ずっと気に入って使っていたのに、すっかりその存在を忘れていた。
「そのペンは祖父が、僕が学校に入る時にくれたものです」
「素晴らしいご趣味をお持ちのお祖父様ですね。これは持ち帰りますか?」
「うん。思い出の品だから王都に持っていくよ」

 その後も色々と部屋を片付けていくと、チェストの一番下の引き出しが引っかかって開かなかった。
「何か入ってるみたいだけどダメみたい……」
「見せてもらえますか? これは、何かがここに……ふんっ、開きました」
 執事ってそんなこともできるの? 板をコンコンと叩いていって、横から板を外して引き出しを開けてくれた。
 
 中から出てきたのは、僕が小さい頃に宝物を入れていた箱だった。
 宝石箱ではなくただの木箱なんだけど、開けてみると石や木彫りの馬、ガサガサになってるけど羽も入っていた。
 そして、蝉の抜け殻も入っていた……よく崩れずに綺麗なまま保っていたものだ。
 僕も子どもの頃はシルと同じで蝉の抜け殻を拾って大切にしていたらしい。このツルツルした石も……
 シルは僕が小さい頃のことなんて知らないはずなのに、同じようなものを集めているってところが面白い。

 夜はすぐに寝てしまったので、翌日にシルと一緒にラルフ様からの手紙を読んだ。
「せんぶラルがくれたの?」
「そうだよ。ラルフ様は戦場にお仕事をしに行っていたから、ずっと会えなかったんだけど、こうして手紙でお話ししてたんだよ」
「ぼくもママにてがみかく! ラルにもかく!」
「うん、楽しみにしてるね」

 一生懸命シルが書いていたからチラッと見ようとしたんだけど、「まだみちゃだめ」と怒られた。
 僕はシルの手紙の完成を待ちながら、リーブと一緒に部屋の整理を続けた。
 部屋のものは全部処分してもらってもいいと思ってたんだけど、ラルフ様からの手紙を見つけられたから、里帰りしてよかった。

 
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