僕の過保護な旦那様

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二章

91.里帰り

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 昼間はかなり暖かくなり、社交シーズンも終わりに差し掛かった頃、父上から僕の部屋をそろそろ片付けようと思うと手紙が届いた。
 ラルフ様から戦争が終わったと手紙が届いて、慌ただしく準備を整えすぐに王都に来たから実家の僕の部屋はろくに片付けていないままだった。
 全部処分していいのなら処分するし、何か必要な物があれば送ると書かれていたけど、一度くらいシルを連れて遊びに行ってもいいと思った。

「ラルフ様、僕は父上がフックス領に帰るタイミングで、一度シルを連れて里帰りしようと思います」
「俺も行こう」
「お仕事は大丈夫なんですか? そんなに長く休めるんですか?」
「む……」
 僕は社交シーズンが終われば手が空くし、モニカさんができればもう少し勤務時間を増やしたいって言っていたからいいんだけど、ラルフ様は責任ある立場の人だから、そんなに長く休みを取ることは難しいんじゃないかな。
 王都にいれば何かあってもすぐ駆けつけられるけど、僕の実家は馬車で三、四日かかる。

「エドワードに言ってみる。滞在するのは無理でも必ず迎えに行く」
 そっか、行きは父上やフックスの私兵がいるけど、王都に帰ってくる時は僕とシルしかいないのか。馬車の御者は必要だからリーブか誰かを連れて行くことにはなるけど、迎えに来てくれるのはありがたい。
「お願いします」

 結局ラルフ様は半月も不在にされるのは困ると、残念ながら一緒に行く許可は下りなかった。だけど迎えに行くという日数分は無理やりもぎ取ってきたと誇らしげに言った。
 まさかまたエドワード王子に剣を向けたんじゃないですよね? あんな奴でも一応王族なんですから危険なことはしないでくださいね。
 部屋の片付けがあるから現地の滞在予定は五日だ。

「シル、僕が生まれ育ったところでクリスが住んでいるところに遊びに行くよ」
「おでかけ!」
「うん、お出掛けだよ」
 シルは自分の鞄におやつとハンカチと、チンアナゴの置物を入れていた。去年の夏に庭で拾った蝉の抜け殻も入れようとしていたから、それは潰れて粉々になっちゃうからと説明して諦めてもらった。

 今回、僕たちの里帰りに付き添ってくれるのはリーブとリズだ。
 リズが一緒に付いていくことになったのは、リズは御者ができるという理由だった。バルドとチェルソもできるけど、チェルソにはラルフ様の食事を作ってもらわなきゃいけないし、ロッドが雪崩の救助にしばらく行っていたから入れ替わりのようにバルドを連れて行くのは可哀想かなって思ったんだ。
 長距離走るなら交代しないと疲れるから、御者は二人いた方がいい。

「野盗に襲われたら、リーブが交戦している間にリズに御者を交代して逃げるよう言ってある。馬車が囲まれたら、リーブが野盗を足止めしている間に馬車を切り離して馬で逃げろ」
「フックスの私兵もいるから大丈夫だと思います。それと……僕は馬に乗れません」
 戦えない僕がそんなこと言えないけど、リーブを置いて逃げるなんて嫌だ。

「馬に、乗れない……?」
 ラルフ様が唖然とした表情を浮かべていた。
 練習するか? と聞かれたけど、出発までに乗りこなせるようになるとは思えないし、街道から逸れたりしないから大丈夫だと説得してやっと出発できることになった。

「シル……」
 出発の日、シルはチェーンメイルを着て木剣を背負って鞄はリズに持たせて玄関に現れた。
「ラルいないとき、ぼくがママをまもるの」
 とても気合を入れた表情だ。ここで、「自分の身くらいは自分で守れる」と言えない情けなさ……
 引き続き鍛えようと心に誓った
 そしてボーッとしていると、ラルフ様にチェーンメイルを上からスポッと着させられていた。僕もですか?

「こうしてマティアスを送り出すのは初めてだ。気をつけて行ってこい」
 そういうと、ラルフ様はチェーンメイルの上から僕のことをぎゅっと抱きしめた。鎖が脇腹の骨に当たって地味に痛い……
「ラル! ぼくもぎゅーして!」
「いいぞ」
 シルもギュッとしてもらうと、シルは馬車に向かって走って行った。チェーンメイルを着てるのに走れるシルは、僕より体力があるのかもしれない。

 僕とシルとリズが馬車に乗り込み、リーブが御者席に乗った。
 馬車の中はラルフ様が整えてくれたのか、クッションが用意してあって、水も樽で用意されていたり、携帯食や野営道具も積み込まれていた。野営はしない予定だけど……
 うちの馬車は小さいし馬一頭で引くタイプのはずだったのに、いつの間にか二頭で引けるように改良されて二頭の馬に繋がれている。人が四人とこんなにたくさんの荷物があったら、馬一頭に引かせるのは可哀想だよね。

 王都の門のところまで行くと、父上たちが乗った馬車と馬に乗った私兵はすでに到着していた。
 いつも通りにこやかなリーブが代わりに挨拶してくれて、王都の門を抜けて馬車は軽快に走り出した。

「ママ、さみしい?」
「少しね」
 ラルフ様と一緒じゃない時間はいつも寂しい。これから何日も会えないのかと思うと……
「これ貸してあげる」
 シルは青色のチンアナゴを僕に貸してくれた。
「……うん、ありがとう」

 えっと……僕はこのチンアナゴを片手に何を思えばいいんだろう?
 チンアナゴを眺めながらラルフ様を想うのは、ちょっと違うと思うんだ。
 でも、おかげで寂しさは吹っ飛んだよ。ありがとうシル。

 
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