僕の過保護な旦那様

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二章

86.ロッドとニコラ

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「ロッド、ちょっと話があるんだけど」
 僕はロッドを呼び出した。ラルフ様にあらぬ疑いをかけられないよう今回は事前に話をしたんだ。
 ラルフ様に、シルが手引きしてシュテルター伯爵邸にニコラがいると話したところ、「そうか」ととても薄い反応が返ってきた。無事でよかったとか、安心したとか、そういう言葉はないんだろうか? 「聞いてないぞ」と怒ったりしなかったのはよかったけど、なんだかモヤモヤする。もしかして知ってたの?
 それはいいんだけど、ニコラの話を聞いてみることにすると言うと「ロッドでも連れていけ」と言ったんだ。
 実は僕はロッドを連れていこうと思っていたから、ラルフ様が先に提案してくれたことに少し驚いて、そして僕と同じ考えだったことが嬉しかった。
 ロッドは少し溜め息をついて、でもアマデオには明かさないってことで同行を了承してくれた。

 今回もまたシルをフィルのところに連れていくという名目でリーブに馬車を出してもらった。
「アマデオはまだニコラにゆるしてもらえないの?」
 シルの中でも二人がずっと離れて過ごしていることが気になっているらしい。
「うん、そうだね。だからこれからニコラに話を聞きにいくんだよ」
 今日もシルは小さな騎士様だ。フィルが練習用に欲しいと言ったから、ちゃんと振り回せる木剣をラルフ様が調達してきてくれて、今日はそれをフィルに届けに行く。シルが背負っている木剣は軽くてシルが背負うためのもので、戦ったりはできない飾りの剣だ。

 シュテルター邸に着くと、また先日の執事が迎えてくれて、シルはフィルの剣を抱えてフィルのところへ向かった。
 僕とロッドはニコラが使っている客間へと通してもらった。今日は伯爵は友人宅を訪れているらしく不在だったんだ。

「ニコラ、久しぶり。元気そうだな」
「今日はロッドさんも一緒なんですね」
「ラルフ様がロッドも連れて行けって言ってくれて、僕の意見だけじゃなくロッドの意見も参考になるかなって思ったんだ。もちろんアマデオには言ってないよ」
 ニコラは僕の最後の言葉にホッとしていた。やっぱりまだアマデオのところに帰りたくないのか……

「俺は恋愛の達人じゃないけど、アマデオの立場もニコラの立場も分かってやれると思う。でも、俺が言ったことが正解かは分からない。最終判断はニコラがすればいい」
「うん。ありがとう」
「それでニコラはアマデオの何がそんなに嫌だったんだ?」
 ロッドは色々とオープンにしているだけあっていきなり突っ込んだこと聞くね。

 ニコラは最初はちょっと話しづらそうにしていたけど、あまりにロッドがオープンに色々語るから、もういいやって開き直って話してくれた。
 アマデオはニコラが話をしようとすると有耶無耶にしてベタベタと甘やかしてベッドに連れ込むから、なし崩し的にそれを受け入れてしまうニコラに責任がないとは言わないけど、話ができないってことが大元の理由だった。
 ニコラは職場の人との親睦会にさえ参加させてもらえないのだとか。
 残業も許してもらえず、定時に迎えに来てニコラが出てこないと無理やり押し入ってニコラを回収していく。なんなら働かせすぎだとニコラの上司に文句まで言うらしい。

 前に一度、僕とタルクとニコラの三人で服を買いに行ったのもアマデオは気に入らなかったらしく、抱きながらぐちぐちと文句を言われたらしい。そんなことになってたなんて全然知らなくてごめん。
 抱きながら文句はよくないと思う。抱く時は愛してほしいと思うものだよね。

「僕とシルとニコラとうちの使用人でどこかに行くのはいいの? タルクがダメってこと?」
「タルクさんは爽やかで貴族で恋人もいないからダメだと言われました」
 えー、そんな理由? それってただの嫉妬じゃない?
「アマデオの奴、本当にバカだな。自分に自信が無いって言ってるようなものじゃないか」

「ロッドさんはバルドさんがタルクさんと歩いていても平気ですか?」
「別に。手を繋いだり腕を絡めていたら話は別だが、バルドは俺のことが好きだからな。バルドだって同じだろ。俺なんか職場はほぼ男だ。嫉妬なんてしていたらキリがない。バルドは俺が他の奴に靡かないって知ってる」
 ロッドは堂々と相思相愛だと言って退けた。ロッド、それは惚気っていうんだよ。

 でも僕もそうかな。ラルフ様がタルクと一緒にいてもラルフ様がタルクに靡いたりはしないって分かってる。僕がタルクと一緒にいてもラルフ様は……あれ? ラルフ様は嫉妬するかもしれない。この前ルーベンとタルクと訓練してたの嫌がってたし。今はラルフ様同伴で訓練をしている。
 でもラルフ様は僕を信じていないわけじゃない。信じていても僕に誰かが言い寄るのは嫌なんだ。

「僕のところは嫉妬されるかもしれません……僕はラルフ様を信じているしラルフ様も僕を信じているけど、誰かが僕に言い寄るのは嫌みたい。それは僕も同じかな」
「マティアスさん……それは隊長との惚気か?」
「え! そんなことないよ。その、ただの例え話です」
 まさかロッドに惚気なんて言われると思わなかった。

「じゃあ俺とアマデオは信頼関係が足りないんですかね……」
 ニコラが落ち込んでしまった。信頼関係がないってことはないと思うんだ。でも僕はなんて言っていいのか分からなかった。「そんなことないよ」なんて無責任な言葉をかけても意味がない。そんなことで解決なんてしないから。
「違うだろ。二人に足りないのは話し合いだ。アマデオも話を聞かず有耶無耶にする悪い癖があるし、ニコラも逃げているだけだ。こうして距離を置いているからといって解決する問題ではない、話し合いをするしかない」

「でも……」
「それができないからこんなに拗れたんだろ? それは理解している。それなら俺たちが間に入ってやるから思う存分言いたいことを言え。あいつもまさか俺たちがいる前でニコラを押し倒して口を塞いだりはしないだろ。隊長が同席するなら押し倒そうとしても防げるしな」
 人前でそんなこと、いくらアマデオでもしないと思う。しないよね?
 バルドならちょっと分からない。僕たちに聞こえるようにロッドに変なこと囁いてたし。

「アマデオがちゃんとニコラの気持ちを受け止めないからこうなるんだ。あいつバカだな」
「必死に探してるけど、連れ帰っても同じことを繰り返すならニコラが離れていくって分からないのかな?」
「あいつは分からないからそんなことをするんだろ。分かっていたらこんなに拗れてない」
「そうだよね」

「ニコラが誰かに取られるのが怖いんだろ、話し合いをせず相手の気持ちが分かるなんてことはない。誰も人の気持ちなんて読めるわけないんだ」
「うん。そうだと思う。言わないと分からない。だから言おうとしてるのに聞いてもらえないってすごく辛いと思う」
 あんなに奔放なグラートがロッドの後を追って慕っている理由が分かる気がした。

「そうだよね。逃げてるだけじゃ解決しないよね。きっとアマデオは言わないと分からないと思う。二人がついててくれるなら心強いよ。アマデオと話してみる」
 ニコラは決心してくれた。しかし会うまでは最新の注意を払わなければならない。アマデオが勝手にニコラを攫ってどこかに隠してしまう可能性があるからだ。

 
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