87 / 258
二章
86.ロッドとニコラ
しおりを挟む「ロッド、ちょっと話があるんだけど」
僕はロッドを呼び出した。ラルフ様にあらぬ疑いをかけられないよう今回は事前に話をしたんだ。
ラルフ様に、シルが手引きしてシュテルター伯爵邸にニコラがいると話したところ、「そうか」ととても薄い反応が返ってきた。無事でよかったとか、安心したとか、そういう言葉はないんだろうか? 「聞いてないぞ」と怒ったりしなかったのはよかったけど、なんだかモヤモヤする。もしかして知ってたの?
それはいいんだけど、ニコラの話を聞いてみることにすると言うと「ロッドでも連れていけ」と言ったんだ。
実は僕はロッドを連れていこうと思っていたから、ラルフ様が先に提案してくれたことに少し驚いて、そして僕と同じ考えだったことが嬉しかった。
ロッドは少し溜め息をついて、でもアマデオには明かさないってことで同行を了承してくれた。
今回もまたシルをフィルのところに連れていくという名目でリーブに馬車を出してもらった。
「アマデオはまだニコラにゆるしてもらえないの?」
シルの中でも二人がずっと離れて過ごしていることが気になっているらしい。
「うん、そうだね。だからこれからニコラに話を聞きにいくんだよ」
今日もシルは小さな騎士様だ。フィルが練習用に欲しいと言ったから、ちゃんと振り回せる木剣をラルフ様が調達してきてくれて、今日はそれをフィルに届けに行く。シルが背負っている木剣は軽くてシルが背負うためのもので、戦ったりはできない飾りの剣だ。
シュテルター邸に着くと、また先日の執事が迎えてくれて、シルはフィルの剣を抱えてフィルのところへ向かった。
僕とロッドはニコラが使っている客間へと通してもらった。今日は伯爵は友人宅を訪れているらしく不在だったんだ。
「ニコラ、久しぶり。元気そうだな」
「今日はロッドさんも一緒なんですね」
「ラルフ様がロッドも連れて行けって言ってくれて、僕の意見だけじゃなくロッドの意見も参考になるかなって思ったんだ。もちろんアマデオには言ってないよ」
ニコラは僕の最後の言葉にホッとしていた。やっぱりまだアマデオのところに帰りたくないのか……
「俺は恋愛の達人じゃないけど、アマデオの立場もニコラの立場も分かってやれると思う。でも、俺が言ったことが正解かは分からない。最終判断はニコラがすればいい」
「うん。ありがとう」
「それでニコラはアマデオの何がそんなに嫌だったんだ?」
ロッドは色々とオープンにしているだけあっていきなり突っ込んだこと聞くね。
ニコラは最初はちょっと話しづらそうにしていたけど、あまりにロッドがオープンに色々語るから、もういいやって開き直って話してくれた。
アマデオはニコラが話をしようとすると有耶無耶にしてベタベタと甘やかしてベッドに連れ込むから、なし崩し的にそれを受け入れてしまうニコラに責任がないとは言わないけど、話ができないってことが大元の理由だった。
ニコラは職場の人との親睦会にさえ参加させてもらえないのだとか。
残業も許してもらえず、定時に迎えに来てニコラが出てこないと無理やり押し入ってニコラを回収していく。なんなら働かせすぎだとニコラの上司に文句まで言うらしい。
前に一度、僕とタルクとニコラの三人で服を買いに行ったのもアマデオは気に入らなかったらしく、抱きながらぐちぐちと文句を言われたらしい。そんなことになってたなんて全然知らなくてごめん。
抱きながら文句はよくないと思う。抱く時は愛してほしいと思うものだよね。
「僕とシルとニコラとうちの使用人でどこかに行くのはいいの? タルクがダメってこと?」
「タルクさんは爽やかで貴族で恋人もいないからダメだと言われました」
えー、そんな理由? それってただの嫉妬じゃない?
「アマデオの奴、本当にバカだな。自分に自信が無いって言ってるようなものじゃないか」
「ロッドさんはバルドさんがタルクさんと歩いていても平気ですか?」
「別に。手を繋いだり腕を絡めていたら話は別だが、バルドは俺のことが好きだからな。バルドだって同じだろ。俺なんか職場はほぼ男だ。嫉妬なんてしていたらキリがない。バルドは俺が他の奴に靡かないって知ってる」
ロッドは堂々と相思相愛だと言って退けた。ロッド、それは惚気っていうんだよ。
でも僕もそうかな。ラルフ様がタルクと一緒にいてもラルフ様がタルクに靡いたりはしないって分かってる。僕がタルクと一緒にいてもラルフ様は……あれ? ラルフ様は嫉妬するかもしれない。この前ルーベンとタルクと訓練してたの嫌がってたし。今はラルフ様同伴で訓練をしている。
でもラルフ様は僕を信じていないわけじゃない。信じていても僕に誰かが言い寄るのは嫌なんだ。
「僕のところは嫉妬されるかもしれません……僕はラルフ様を信じているしラルフ様も僕を信じているけど、誰かが僕に言い寄るのは嫌みたい。それは僕も同じかな」
「マティアスさん……それは隊長との惚気か?」
「え! そんなことないよ。その、ただの例え話です」
まさかロッドに惚気なんて言われると思わなかった。
「じゃあ俺とアマデオは信頼関係が足りないんですかね……」
ニコラが落ち込んでしまった。信頼関係がないってことはないと思うんだ。でも僕はなんて言っていいのか分からなかった。「そんなことないよ」なんて無責任な言葉をかけても意味がない。そんなことで解決なんてしないから。
「違うだろ。二人に足りないのは話し合いだ。アマデオも話を聞かず有耶無耶にする悪い癖があるし、ニコラも逃げているだけだ。こうして距離を置いているからといって解決する問題ではない、話し合いをするしかない」
「でも……」
「それができないからこんなに拗れたんだろ? それは理解している。それなら俺たちが間に入ってやるから思う存分言いたいことを言え。あいつもまさか俺たちがいる前でニコラを押し倒して口を塞いだりはしないだろ。隊長が同席するなら押し倒そうとしても防げるしな」
人前でそんなこと、いくらアマデオでもしないと思う。しないよね?
バルドならちょっと分からない。僕たちに聞こえるようにロッドに変なこと囁いてたし。
「アマデオがちゃんとニコラの気持ちを受け止めないからこうなるんだ。あいつバカだな」
「必死に探してるけど、連れ帰っても同じことを繰り返すならニコラが離れていくって分からないのかな?」
「あいつは分からないからそんなことをするんだろ。分かっていたらこんなに拗れてない」
「そうだよね」
「ニコラが誰かに取られるのが怖いんだろ、話し合いをせず相手の気持ちが分かるなんてことはない。誰も人の気持ちなんて読めるわけないんだ」
「うん。そうだと思う。言わないと分からない。だから言おうとしてるのに聞いてもらえないってすごく辛いと思う」
あんなに奔放なグラートがロッドの後を追って慕っている理由が分かる気がした。
「そうだよね。逃げてるだけじゃ解決しないよね。きっとアマデオは言わないと分からないと思う。二人がついててくれるなら心強いよ。アマデオと話してみる」
ニコラは決心してくれた。しかし会うまでは最新の注意を払わなければならない。アマデオが勝手にニコラを攫ってどこかに隠してしまう可能性があるからだ。
419
お気に入りに追加
1,360
あなたにおすすめの小説
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
没落名士の長男ノアゼットは日々困窮していく家族を支えるべく上級学校への進学を断念して仕送りのために王都で働き出す。しかし賢くても後見の無いノアゼットが仕送り出来るほど稼げはしなかった。
そんな時に声を掛けてきた高級娼家のマダムの引き抜きで、男娼のノアとして働き出したノアゼット。研究肌のノアはたちまち人気の男娼に躍り出る。懇意にしてくれる太客がついて仕送りは十分過ぎるほどだ。
そんな中、母親の再婚で仕送りの要らなくなったノアは、一念発起して自分の人生を始めようと決意する。順風満帆に滑り出した自分の生活に満ち足りていた頃、ノアは再婚相手の元に居る家族の元に二度目の帰省をする事になった。
そこで巻き起こる自分の過去との引き合わせに動揺するノア。ノアと太客の男との秘密の関係がまた動き出すのか?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる