僕の過保護な旦那様

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二章

58.想いは口にするのか

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「ラルフ様、ヴィートは昨年結婚した奥さんのことを僕に自慢したかったみたいです。可愛いとか、髪が綺麗とか、目が綺麗とか、優しいとか、そんな自慢をたくさんされました」
「そうか」
「でもヴィートは奥さんの前では褒めたりしないんです。こっそり他の人に自慢してるんですよ。面白いですよね。本人を前にすると照れて言えないのかもしれません」
「なぜだ?」
 うーん、それは僕にも分からない。僕はラルフ様が格好いいなって思ったり、好きだなって思ったら言うし。

 あれ? バルドってもしかしてそっちなのかな?
 僕の前ではロッドが可愛いとか言っているけど、それを本人に伝えてなさそうな気がする。明日聞いてみよう。
 アマデオとニコラはお互いに包み隠さず好き好き言い合ってそうだ。勝手なイメージだけど、実は違ったりするのかな?
 気になる。自分のことは分かるけど、他のカップルがどうしているのかって聞いたことなかった。

「マティアス、どうした? 何か困ったことがあったか? それとも敵か?」
 困ったことか敵かの二択って……
 僕が敵ですって言ったら、ラルフ様はすぐに武装して飛び出していきそうだ。そもそも敵の悩みって何ですか? 虫ですか? 埃ですか? 風邪が僕の敵になった日には、やっつけてもらおうかな?

「僕は思ってることを言うことが多いですが、他のカップルはどうなのかなって考えていました」
「マティアスは可愛い。強くて、有能で、俺をいつも助けてくれる」
「そんな風に思ってくれているんですね」
 僕は有能でも強くもないですけど、また何か誤解をしている気がする。
「それと、マティアスは大胆で、危なっかしい」
「そう、かな?」
 僕はやっぱり大胆なんだろうか?

「そんなマティアスを愛している」
「ふふふ、ありがとうございます。僕はラルフ様は強くて頼もしいって思っています」
「そうか」
 たまにおかしくて、たまに僕を誤解してるけど。
「ラルフ様は外で僕のことを話すことがありますか?」
「無い」
 即答? 無いの?

 僕の予想では、外でラルフ様は僕のことをたくさん話していると思ってた。何なら功績を捏造しまくっているんだと思っていた。話してないんだ?

「理由を聞いてもいいですか?」
「マティアスのことは自慢したい。しかしマティアスが素晴らしい人物だとみんなに知れたら、マティアスが狙われる。そんなことはあってはならない」
 なるほど? 狙われたりはしないと思うけど、それって独占欲ですか?

「マティアスの素晴らしさは、俺だけが知っていればいいんだ」
 胸がギュッとなった。たまにラルフ様のことがたまらなく愛しくなる時がある。

「ラルフ様、大好きです」
「マティアス……」
 次の瞬間、僕はラルフ様の下で裸だった。いつもその早業には感心してしまいます。

「僕を愛してください」
「いつでもマティアスを愛してる」

 ラルフ様の瞳にキャンドルの火が映って揺れていて、ゆっくり顔が近付いてくると、僕は目を閉じてラルフ様のキスを受け止めた。

 今日も二人の長い夜が始まる。


「ママ、このみどりのたべていい?」
「いいよ」
 シルはヴィートがくれたドライフルーツが気に入ったみたいだ。キウイのドライフルーツはちょっと酸味が強いんだけど、上に砂糖が散らしてあるから酸っぱいだけじゃなくて美味しい。
「これ、おいしい! ママも食べて! ニコラもロッドも!」

 今日はラルフ様はお仕事で、ニコラとロッドがお休みだから、一緒にドライフルーツを食べながらお茶をしている。
 バルドは霜が下りる前に、寒さに弱い花や野菜にカバーを被せるために庭に出ている。
 それが終わったら、ロッドと一緒にシルの勉強机を組み立ててくれるそうだ。年明けから文字や数字の勉強をすることになっていて、それをシルはとても楽しみにしている。

 シルはキウイやぶどうのドライフルーツをいくつか食べると、今度はお絵かきに夢中だ。いつも色んな絵を描いて僕たちにくれる。剣とか、槍とか、たまに花もある。

 僕は気になっていたことを聞いてみることにした。
「二人は彼氏と一緒の時、想いはどれくらい口にしてるの? このドライフルーツをくれた僕の従兄弟は、本人には恥ずかしくて言えないくせに、僕には奥さんがいかに素晴らしいかって自慢をしてきたんだよね」
「思いですか? こうしてほしいとか、要望は口にするようにしてるかな」
 ニコラは要望を口にする必要があるよね。じゃないとアマデオに完全武装させられそうだもんね。

「俺も言うようにしています。隊長が、憤りも嬉しさも悲しさも口にしなければ誰にも伝わらないって教えてくれたので言うようにしています
 好きとか愛してるとか、言わないと相手を不安にさせますし」
 ロッドの答えはちょっと意外だったけど、ラルフ様がそんな風に部下のみんなに言っていたってことが知れてよかった。

「俺は好きとかは口にできない。なんか恥ずかしいし、アマデオも言わないから、俺だけ言うのは癪というか……」
「ニコラとアマデオは二人の時の空気が甘いし、好きとか愛してるとか言い合ってるのかと思ってた」
「いえいえ、全然言い合ってなんかいませんよ」
 聞いてみないと分からないものだな。

「へぇ、アマデオは言わないのか。あんなに必死にニコラくんのこと囲い込んで守ってるのにな。全然隊長が言ってくれたこと実践してないじゃないか。
 隊長はもちろん言いますよね?」
「うん。そうだね。僕も言うし、ラルフ様も言ってくれる」
 でも再会したての頃はお互い手探りで言えないことが多かったかもしれない。ラルフ様が暴走して家出した頃が懐かしい。

「バルドなんか、俺が恥ずかしがるのを楽しむようにわざと言うんですよ。耳元で煽るように『素直に欲しいって言えるお前は可愛いな』とか言いやがるんです」
「バルドとロッドは色々オープンなんだね」
 というか、オープンすぎる気がする。それ、本人には言えないけどこっそり教えてくれたのかと思ったら、堂々と本人にも言ってるパターンだった。
 やっぱり聞いてみないと本当のところは分からないんだな。
 ニコラはいきなりロッドがそんな話をしたから、耳まで真っ赤になってる。

「二人の間には聞いてみないと分からないことがたくさんあるんだね」
「そうですね。俺もたまには想いを伝えてみようかな。好きとかは恥ずかしくて言えないけど、感謝は伝えたい」
「いいんじゃないか? 感謝されて嫌な気分になる奴なんかいないし、アマデオも喜ぶだろ」
 そうだよね。感謝されて嫌な人はいない……たぶん……
 捏造じゃなければ。

 
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