僕の過保護な旦那様

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二章

57.僕の従兄弟

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 憂鬱だ。
「はぁ……」
「マティアス、どうした?」
「従兄弟からお茶会の招待状が届いたんです」
 ことの発端は僕の母の兄の息子であるヴィートからお茶会の招待状が届いたことだ。僕と同い年のヴィートは母の生家であるプロッティ子爵家の後継で、昨年結婚したらしい。
 社交界ではみんなに知られていることだけど、僕は夜会にも茶会にも出ていないから知らなかった。父や母からも、特に何か言われたわけじゃない。僕はそのことを届いた招待状に添えられた手紙で知った。

 貴族からの招待だし、断ることは難しい。
 何が憂鬱かというと、彼は何かと僕に対抗意識を燃やして、なぜか突っかかってくるんだ。
 僕の家は男爵で、しかも僕は三男なんだから、下に見られるのは仕方ない。いいんだけど、わざわざそんなこと言わなくていいよねってことを言ってくるから苦手なんだ。

「行きたくないなら断ればいい」
「そうもいかないんですよ。従兄弟ですし、母上の生家と揉め事などは起こしたくないので」
「そうか」
 ラルフ様は腕を組んで何かを考えているみたいだけど、変なことを言われるだけで、危害を加えられることはないから大丈夫だ。

「ラルフ様、危険はないので大丈夫ですよ」
「分かった」
 またちょっと怪しいラルフ様の「分かった」が出た。本当に危険はないので何もしないでくださいね。


「よう、マティアス。夜会には参加しないと聞いたから茶会にしてやったぞ」
 なぜ彼は、こんなに僕に対して上から目線でやってやったという感じでくるのか。僕が要求したわけでもないのに。
「そうですか。お招きいただき感謝します」
「ふむ」
 なんだか不機嫌な顔で変な返事をされ、その後すぐにサロンに案内された。

「え? 他に招待客はいないのですか?」
 サロンに着くと、僕以外には誰もいなかった。メイドが無言でガラガラとワゴンを押してきて、テーブルの上に焼き菓子と、ティーカップを二つだけ置いて出ていった。
「なんだ? 文句があるのか? 俺だけでは不満ということか?」
「いえ、そんなことはありません」

 ヴィートは一体なぜ僕と一対一で茶会などしようと思ったのかが分からない。

「座ってくれ」
「はい、失礼します」
 香りのいい紅茶を少しだけ喉に流し込むと、僕は疑問を口にした。

「それで何の用事で僕を茶会に呼び出したんですか? 茶会と言っても他に誰もいないじゃないですか」
「別に用はない」
「はい?」
 用がないのに僕を呼んだの? 何がしたいのか分からない。

「俺は昨年結婚したんだ」
「おめでとうございます。社交の場に出ておりませんので、存じ上げずお祝いが遅れてしまい申し訳ありません。よろしければ、こちら奥方様に」
 忘れるところだった。マチルダさんにお祝いのフラワーアレンジメントを作ってもらったんだ。貴族のお屋敷なんて、花はたくさんあるだろうから、小さくて可愛いものにした。
 ウサギのぬいぐるみが花瓶を抱えていて、そこに花を生けてあるんだけど、まるでウサギが花束を抱えているように見えるという、うちの最近人気の商品だ。

「マティアスにしてはセンスがいいな。ありがたくいただくとしよう」
 なんでこの人は一言多いんだろう。素直に受け取ってくれればいいのに。

「うちの嫁は髪が長くて綺麗なんだ」
「そうですか。女性の長い髪は手入れが大変だと聞きます。綺麗に保っているのは素晴らしいですね」

「そうだろう? うちの嫁は目が綺麗なんだ。肌も綺麗だしとても美しいし可愛い」
「そうですか。綺麗な方をお迎えできてよかったですね」
 何これ、自慢したいだけ? まさか自慢するために僕を呼んだの?

「そうだろう? うちの嫁は優しくて、俺のことを一番に考えてくれる」
「そうですか。素敵なお相手が見つかってよかったですね」

 その後も、うちの嫁、うちの嫁と、ずっと嫁自慢をされた。
 やっぱりただ自慢したかっただけじゃないか。それなのに、紹介してはくれないんだな。独占欲か?

「ふん、お前の伴侶は男だから子ができなくて残念だな」
「僕たちには息子がいますよ」
「は? お前女なのか?」
 そんなわけない。何言ってんの? なぜ子がいると言っただけで僕が産んだと思うのかが不思議だ。

「僕は男です。大昔、一緒にお風呂入りましたよね?」
「そうだったな。しかしお前の伴侶は騎士だろ?」
 男なのに産んだのか? と言いたそうな目で僕の体をジロジロ見てくるのはやめてください。

「僕と夫どちらとも、息子と血の繋がりはありません。養子です」
「血のつながりがない者を一族に入れるのか?」
 なんでそんなことを言われなければならないのか。僕たちの息子が養子であってもプロッティ家には関係ないことだ。シルは貴族の家を継ぐわけじゃないんだし。

「それが何か? 別にあなたの家には関係ないですよね?」
「そうだな」
 そして僕たちの会話は終了した。
 元々、結婚したことを自慢されただけだったから、会話という会話をした感じではなかったけど、嫌なことを言われて嬉しいわけがない。

 ティーカップをソーサーに置くカチャリという音と、クッキーを噛み砕くボリボリという音だけが部屋に響いた。
 もう帰ってもいいかな? なんだか居心地が悪くて、僕は紅茶を全て飲み干した。

「そろそろお暇しようと思います」
「分かった」

 僕が席を立つと、ヴィートも席を立った。一応見送りはしてくれるらしい。途中でメイドに何かを話しかけていたが、玄関前ですんなりと送ってくれた。

「マティアス、これはうちの領地のものだ。持っていけ。中身はドライフルーツとワインとアンゴラウサギの毛を紡いだ毛糸だ」
「え? うん。ありがとう」
 なんかお土産を色々くれた。

「その、お前は戦争で武功を立てるような男が相手で大丈夫なのか? 扱いとか……」
「うん? もしかしてそれを心配してくれたの?」
「ちげーよ! 心配なんかしてねえし!」
 でも図星だったんでしょ? 耳が赤いよ。なんだ、ツンデレか。大人になっても相変わらずなんだな。
 思い出した。なんか一言多くて嫌な気持ちになることはあるんだけど、ヴィートはこういう奴だった。言葉は嫌な感じなんだけど、僕のこと嫌ってるわけじゃない。
 昔から別れ際になんか色々くれたり、ちょっと心配してくれたりする。

 屋敷を出る時、可愛いというヴィート自慢の奥さんも一緒に見送ってくれた。
「また来てくださいね。今度はぜひご家族で」
「そうだな。また来いよ」

 素直じゃない彼のことを微笑ましく見つめる自慢の奥さん。
「いい奥さんもらったんだね」
 ヴィートにそう言ったら、「うるさい!」って怒ったけど、さっきまであんなに自慢してたじゃん。

 僕も早くラルフ様に会いたくなっちゃったな。
 リーブが御者としてついてきてくれていたんだけど、馬車のドアを開けるとラルフ様が待ってた。

「え? なんでいるの?」
「何かあったらすぐに助け出すために待っていた」
「たくさんお土産をもらいました。帰ったらみんなでいただきましょう」
「マティアスが穏やかに笑っているということは、何も問題はなかったんだな」
 心配してくれたんですね。ありがとうございます。
 ラルフ様って、ヴィートみたいに外で僕のこと自慢してるってことないですよね? ちょっとそこは聞いてみたい。また変な功績を捏造されていたら困る。

 
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