僕の過保護な旦那様

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二章

54.タルクの成長?

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「僕ももう仕事に復帰しますので、ラルフ様も騎士団の仕事をして下さい」
 側にいたいというラルフ様の要望を却下して、ようやく仕事に復帰したのは先日のこと。

 最近、タルクが疲れている気がする。爽やかな青年だったのに、なんだかその笑顔も力が無いみたい。声もいつもより小さいし、動きが悪いような……
 それって僕がたくさん休んだからだよね?

「タルク、長い間休んでごめんね。負担大きかったよね」
「全然大丈夫です!」
「タルクも休みたい日があったら僕が代わりに出るし、気軽に言ってね。連休とかでもいいよ」

 そんな話をしていたんだけど、木枯らしが吹いて朝晩が冷え込む時期になっても、タルクはまだ疲れているように見えた。
 僕が休んだことがきっかけだったとしても、その後も改善しないってことは、この仕事がきついのかな?
 僕は社交シーズンで貴族が王都の屋敷に来ているから、配達の度に貴族に引き止められる。僕を呼ぶためにちょっとした花を注文したりする貴族もいるくらいだ。僕がいない間の店はかなり忙しいんだろうか?

「タルク、この仕事を続けるの辛かったりする?」
「いえ、この仕事は楽しいですよ。色んな花を知るのも楽しいですし、花束を作るのも楽しい。花は奥が深いですね」
 仕事が辛いわけではないのか……

「もう一人、追加で人を雇うことにするわ」
 マチルダさんの言葉で、また従業員を募集することになった。やっぱりタルクの負担は大きかったらしい。

 新しく来た人は、二十代半ばの可愛らしい女性だった。
「モニカです。よろしくお願いします!」

 彼女は結婚しているんだけど、旦那さんが病気がちであまり働けないそうだ。
 それはそれぞれの家庭の事情だから仕方ないんだけど元同業者だった。
 中規模の商会の中で、生花部門の店で働いていたんだけど、業績不振による生花部門の撤退が決まり、放り出されたらしい。だから即戦力だ。

 タルクの負担が大きかったから、仕事をしながら教育をするのは大変だろうと思ってたんだ。マチルダさんも僕もいるけど、どちらも店を空けることが多いから、経験者が来てくれるのはありがたい。

 そう思ってたんだけど、タルクはずっと疲れを引きずっている気がする。
 社交シーズンで家族が王都に来てるからかとも思ったんだけど、家族と仲が悪いわけではないから違いそうだ。

「タルク、もしかして社交シーズンになって夜会に出るのが辛くて悩んでる?」
「え? 夜会は王家主催のもの以外は参加していません。貴族と結婚する気はありませんし、義務で仕方なくです。家族もそれでいいと言ってくれていますし、面倒ではありますが悩んでないですよ」
 違ったみたいだ。

「でも、ずっと疲れてるよね?」
「そ、そんなこと……」
 なんで言い淀むの? 言い難いことなんだろうか?
「僕に言い難いなら、他の誰かでもいいから相談してね」
「すみません。そんな心配かけてたなんて……悩んだりはしてないです。これからは心配かけないようちゃんと調整します」
「ん? うん」
 調整できることなの? 勤務時間の調整とかをするんだろうか? それなら僕よりマチルダさんの方がいいか。なんか役に立てなくて申し訳ないな……

 僕が疲れを指摘してから、タルクはだいぶ元気になった。
 勤務時間を変えた様子はないけど不思議だ。睡眠時間などの調整だろうか?
 元気になってくれたならそれでいいんだけどね。


「マティアス、すまない」
 遅く帰ってきたラルフ様と一緒にベッドに入ると、急に謝られた。

「なんですか?」
 僕にはラルフ様に謝られるような心当たりはない。なんだ? またこの前、懲りずに加減を忘れたこと?
 僕は分からず首を傾げた。

「ルーベンがやり過ぎたらしい」
「はい? ルーベン? なんの話ですか?」
 本当になんの話? 全く分からない。やり過ぎたって何を?
「マティアスが気にかけていた、タルクとかいうコレッティ男爵令息のことだ」
「まさか……」
 ルーベンがタルクに手を出したの? タルクを疲れさせてるのってルーベンなの? だから調整?

「ルーベンから仕掛けたわけではないらしい。どうしてもと懇願されたのだと聞いている」
「そ、そうなんだ……」
 そんなにタルクはルーベンのことが好きだったなんて全然知らなかった。

「それでルーベンが調子に乗って素人に酷い鍛え方をしたらしい」
「ん? 素人?」
「そうだ。戦いの心得がない素人に一般の騎士と同じような訓練をさせたらしい」
 ん? んん? 訓練? ……僕の心は汚れていたらしい。僕はてっきり二人が恋仲になったのかと……

 でも鍛えるってなんで? いや、鍛えて強くなりたいと思うのは悪いことじゃない。僕が何かを言うような問題でもない。
 疲れた様子はあったけど、タルクは仕事をサボったりはしていないし、責めるべきところなどない。
 でも疑問はある。

「なんだったか? あいつ、エドワードの級友とかいう胡散臭い奴が来た時、憧れのマティアスを守れなかったのが悔しかったそうだ」
「え? 僕を?」
 ああ、フェンスタ王国のランバードとかいう人のことか。ラルフ様は彼に興味もなく、名前すら忘れてしまったらしい。

 それより、タルクが鍛えていた理由が僕ということが衝撃的だった。やっぱり僕のせいか……
 それにしても、僕は誰が見ても守ってあげないといけないような弱い存在に見えるということだろうか? なんかちょっと悲しい。僕も誰かに頼られたいのに。

「彼はそれなりに仕上がってきているらしい」
「そうですか。無理させないようルーベンに言っておいてください」
「分かった」
 ここは本当に分かってくれないと困る。大丈夫だよね?


「タルクが疲れてたのは鍛えてたからなんだね」
 朝から爽やかな笑顔を振り撒くタルクに話しかけた。
「バレてしまいましたか。強くなってマティアスさんを驚かせたかったのですが残念です」
「ルーベンに鍛えてもらってるって聞いてびっくりしたよ」
「師匠に鍛えてもらってます!」
 師匠……なんかちょっと不安になってきた。よく考えたらルーベンって普通じゃないところしかなくない? いつも登場は空からだし、この前なんて髪に枯葉が絡まったのが許せないとかで坊主にしてたし。枯葉のせいにして木を伐採しなかっただけマシだろうか? まさか自分の髪を刈り取るとはね……
 ラルフ様、本当に無理させないように厳しく言っておいて下さいね。

 
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