僕の過保護な旦那様

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二章

50.ふざけた男

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「ラルフ様、来てくれてありがとうございます」
「大丈夫か?」
「はい。あの人が意味不明なことを言ってきて……」
「もう大丈夫だ」

 ラルフ様は僕を背に隠してくれた。タルクもラルフ様に下がるよう言われて後ろにいる。

「俺の夫に何の用だ」
 ラルフ様がめちゃくちゃ怒っている。
 クロッシー隊長に殺気を浴びせていた時とは比べ物にならないくらい……
 これは完全に敵に向けるものだと思った。

「き、君がマティアスの夫か? それなら話が早い。あなたと子どもが一生遊んで暮らせる額の金を出すから、マティアスと離婚してくれ」
「何を言っている?」
 ほんと、何を言っている? さすがのラルフ様も驚いているらしい。

「マティアスを国に連れて帰りたいんだ。彼も満更ではないようだし」
 はい? そんなこと一言も言ってない。
「マティアス、それは本当か? 俺よりこの男を選ぶのか?」
 驚愕の表情でラルフ様は僕を見た。ラルフ様なに真に受けてるの? 僕のこと信じてないの? 僕がそんな簡単に名前も知らない男に靡くと思ってるの?

「ラルフ様、僕のことなんだと思ってるんですか? 僕よりこんなどこの誰かも知らない男のことを信じるんですか?」
「そんなことはない。もし万が一と……」
 万が一にも無い。何で分からないかな? 愛してるって伝わってないの?

「僕がラルフ様とシルを置いて、こんな頭のおかしい男のところに行くと思ってるんですか?
 あなたも、休みの日に僕を呼び出して店の営業妨害をして、ちょっとくらいお金があるからって見下すのもいい加減にしてください。迷惑です。
 僕には愛する夫と子どもがいるので、金を積まれても、何をされても絶対にあなたとなんて一緒になりません!
 お帰り下さい」
 唖然として立ち尽くす男。

「ラルフ様、帰りますよ。タルクもありがとう。じゃあまたね」
「はい。お気をつけて!」
 僕はラルフ様の手を握って家に向かった。近くにいた街を巡回している騎士に、花屋に迷惑行為をする客がいることもちゃんと伝えた。

「僕があんな男に靡くと思うなんて、ラルフ様はどうかしてます」
「ごめん。そんなつもりではなかったんだ。俺はマティアスが幸せなのが一番嬉しいから、もしマティアスが望むならと……」
「バカ! ラルフのバカ! 僕の幸せはラルフとシルがいないと成り立たない!」
 なんで分かんないの?

「ごめん。マティアス……」
 人がいるのに、外なのに、ラルフ様は僕をギュッと抱きしめた。

「明日は休む。明後日も」
 急に何の話?
「そうですか。ゆっくり休んでください」
「ずっとマティアスの側にいる」
「分かりました」
 この時の僕は、ずっと側にいると言ったラルフ様の言葉を甘く見ていたんだ。

 夕方になると、エドワード王子が訪ねてきた。僕は部屋にいるよう言われたんだけど、王族が来ているのに挨拶しないのはダメだと説得して、ラルフ様の腕の中にいるという条件で一緒に迎えることになった。

「な……家まで来るなんてしつこいですね」
 エドワード王子の隣に立つのは件の男。

「マティ、ラルフ、ごめーん」
「私はフェンスタ王国から使者としてこの国を訪れている父の付き添いで来ました、ランバートと申します。謝罪に参りました。その、悪ふざけが過ぎました。エディーの悪戯に乗ってご迷惑をお掛けしました。申し訳ない」
 は? 悪戯? エドワード王子の? まさか何処かから僕とラルフ様の反応を見て楽しんでいたんだろうか?

「ラルフ様、王家に反旗を翻しましょう!」
「そうだな。よし、とりあえずエドワードの首を刈り取って王城に投げつけてくる!」
「それがいいと思います。これ、使いますか?」
 僕は袖の内側に隠していた小型ナイフを取り出した。

「待って、待って、ごめん。本当にごめん。マティ、謝るから。ラルフも謝るから、ごめんなさい!
 ほら、ランバートも頭下げて!」
「す、すみませんでした」
 エドワード王子とランバートという人は仲良く揃って頭を下げた。

「どうしますか?」
「マティアスが望むならエドワードの息の根を止めてもいいぞ」

「ごめん。本当にごめん。もうしないから。この通り、許してください」
 ラルフ様はナイフを持ったまま、いつでも戦闘に入れると僕を見た。きっと僕が合図すれば、ラルフ様は本当に一瞬で息の根を止めるんだろう。

「王家に抗議文は送りましょう。シルとの時間を邪魔されて、営業妨害もされましたし」

 本当に、こいつはふざけたことしかしない男だ。
 関係ない人まで巻き込んで。殺すまではいかなくても、ボコボコにして塀に逆さに吊るしておきたいくらいには腹がたった。

 エドワード王子は、ラルフ様が本気だと思ったのか、床に平伏してしまった。
 え? エドワード王子って王族だよね? もしかしてそこから間違ってる? こんなに簡単に僕たちに平伏していいの?
 やっと冷静になった僕は、ラルフ様からナイフを受け取って袖にしまった。

 ランバートと名乗る男は、エドワード王子が昔、フェンスタ王国に留学した時に仲良くしていた人らしい。
 今はフェンスタ王国で外交の仕事をしている父親に付き添って勉強しているのだとか。
 ちなみに買って行ったコスモスの花束は、エドワード王子の奥方様に渡っていたらしい。

 どうでもいいけど、僕は疲れた。もう帰ってくれ。
 色々説明されたけど、全部どうでもよかった。説明されたとしても、揶揄って遊んでいたことに変わりはない。
 しかも店にも迷惑をかけて、マチルダさんやタルクにも、ラルフ様も仕事を途中で抜けてきたんだから本当に様々なところに迷惑ばかりかけている。

 ラルフ様もずっと厳しい顔というかエドワード王子を睨みつけていた。

「お前らもう帰れ。いつまで居座る気だ?」
 全く二人を歓迎する気がないラルフ様が冷たい声で言い放つと、やっと二人は帰っていった。

 抗議文はすぐに王家に届けられた。優秀なリーブが緊急として捩じ込んだらしい。そんなことできるってリーブって何者?
 おかげなのか、翌日の早朝に陛下自ら謝罪にやってきた。

「シュテルター隊長、マティアスも、うちの愚息が申し訳なかった」
「こんな朝早くに先触れも出さずに来るとは、奇襲みたいなものだな」
 ラルフ様がそんなことを言うから、陛下は軽く頭まで下げた。

「もういいですから。エドワード様を許したわけではありませんが、陛下の謝罪は受け取ります」
「マティアスがそう言うなら、俺から言うことはない」

 エドワード王子には謹慎が言い渡され、近衛から昼夜問わず監視役がつくことになった。
 きっと僕が「反旗を翻す」なんて言ったからだろう。
 ランバートという人もすぐに国へ帰っていった。なんかお詫びとかで、フェンスタ王国の品が届いたけど、ラルフ様がすぐに庭で燃やしてしまったから、僕は中身を知らない。

 
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