僕の過保護な旦那様

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二章

49.怪しい人

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「ラルフ様、街を巡回する騎士が増えていませんか?」
「よく分かったな。隣国から使者か何かが来ているらしい。西の方の国だと言っていた気がする」
 それで王都の中の警備が厳しくなっているのか。
 まあ僕には関係ないけど。他国からの使者なんて、お城で王族や国の上層部と話をするだけだよね。

「街を視察すると聞いた気がする」
「そうなんですね。ラルフ様も同行したりするんですか?」
 馬車で街を眺めながら通り過ぎるくらいなんだろう。

「使者には近衛騎士たちがつくから、俺はいつも通り街の巡回と、騎士団での訓練だ」
 じゃあ僕もラルフ様も、いつも通り過ごせばいいんだね。
 王都にいると、他国の人が来ることもあるのか。僕は国外に出たことがないから、色んな国に行くであろう使者という人が羨ましいと思った。


「タルク、休憩に入っていいよ」
「分かりました。奥にいるので、お店が混んだら呼んでください」
「うん、ありがとう」
 もうすっかり花屋の仕事に慣れたタルクは、今日も爽やかな笑顔を振り撒いている。
 爽やかな好青年がいるから、お店の売り上げも伸びてる気がするんだけど、気のせいだろうか?

「ほう、カラフルなコスモスだな」
 常連さんではない結構身なりのいい二十代半ばくらいの男性客がコスモスを眺めていた。

「いらっしゃいませ、コスモスは今の時期、色んな色を取り揃えてますよ。花束にするなら二色を組み合わせるのがお勧めです」
「二色を組み合わせる。なるほど」
「周りにグリーンをあしらってもいいですし、カスミソウみたいな小さな花を合わせても可愛いですよ」

 そう言うと、その男性はジッと僕のことを見てきた。何? なんか変? 髪が乱れてるとか?
「君の名前は?」
「僕はマティアスです」
「そうか。マティアス、白とオレンジのコスモスの花束を作ってもらえるか? 可愛らしい感じで、あとは任せる」
「畏まりました」

 恋人か奥さんに渡すんだろうか?
 お花をプレゼントするって素敵だな。
 僕がラルフ様にプレゼントされたのって、短剣とかチェーンメイルとか、鉄板が入ったベストとか、爪先に鉄板が仕込んである重いブーツとか、袖の内側に付けられる小型ナイフとか、そんなものばかりだ。
 お菓子やお茶やキャンドルはプレゼントされたこともあったかな。

 お花はお店で売れなくなったものをもらって帰ることが多いから、遠慮してるのかもしれない。もしラルフ様が僕に花をくれるとしたら、どんな花を選んでくれるんだろう?
 そんなことを考えながら花を組み合わせて、白いふわふわしたリボンで結んであげた。

「素晴らしいね。マティアスはとてもセンスがいい」
「ありがとうございます」
 初対面で親しくもない人に呼び捨てで呼ばれるのはなんだか不思議な感じだ。
 そう思いながら彼を見送った。

 その男性は次の日も来た。
「マティアス、昨日ぶりだね」
「そうですね。いらっしゃいませ」
 その日は濃いピンクと薄いピンクのコスモスの花束を買って行った。

「マティアスさん、あの人知り合いですか?」
 タルクに聞かれたけど、知り合いってほどじゃない。会うのは二度目だし。

「全然。昨日初めてお店に来て、僕はあの人の名前も知らない」
「そうなんですか? 午前中マティアスさんが配達に行っている時にも一度来て、マティアスさんはいないと言ったら帰っていったんです」
「そうなんだ。昨日の花束がよほど気に入ったのかな?」
「マティアスさん、気をつけてください」
 気をつける?
 僕はタルクが何でそんなことを言ったのか分からなかった。

 次の日は僕とニコラのお休みが重なったから、ニコラとシルと一緒にクッキーの型抜きをしていた。

「これはお星様ですか?」
「そう思うでしょ? 僕もそう思ったんだけど、モーニングスターだって」
「……なるほど」
 分かる。そんな反応になるよね。

「これは何ですか? 柵? 櫛?」
「これはわなだよ」
「マティアスさん、罠って……落とし穴とかに入れておいてグサッとなるやつですか?」
「僕もそんな気がしてる。先っぽ尖ってるし……」
 何とも言えない表情をしているニコラ。分かってもらえて嬉しいよ。でもこの武器や防具のクッキー、子どもには大人気だったんだよ。不思議だよね。

 今日はナッツを細かく砕いたものを乗せて、チェルソにオーブンで焼いてもらった。
 今日のおやつはクッキーだね。

 庭に置いたテーブルにお茶を用意してもらって、秋の虫の声を聞きながらのティータイムは優雅だった。

「すっかり秋ですね」
「だね。公園の木もちょっと色付いてきたよね」

 次の日はニコラが仕事だったから僕とシルとメイド三人で、室内で遊んでいた。
 板に絵が書いてあって、同じ絵の板を探す遊び。これはアマデオの手作りではなく、シュテルター家からもらったものだ。
 午後になると、タルクが家を訪ねてきた。

「どうしたの? タルクが家に来るなんて珍しいね」
「お休みなのにすみません。一昨日のお客さんがまた来ていて、昨日も来たんですが、マティアスさんを呼んで欲しいって……」
「え? 花束だったら僕よりマチルダさんの方が上手じゃない?」
 僕は花の種類は分かるけど、花束を作るのは得意ってほどじゃない。ずっと長年作ってきたマチルダさんの方が上手いし、マチルダさんが作る花束はいつもため息が出るくらい綺麗なんだ。

 うちまで僕を呼びに来るなんて、面倒なお客さんなのかもしれない。僕はリーブにちょっとだけ行ってくると言うと、護衛はつけずにタルクと二人で花屋に向かった。

「ああ、やっとマティアスに会えた」
「僕になにか用ですか? 花束であればオーナーのマチルダさんの方が上手ですよ」
「花束もいいけど、私はマティアスに会いにきたんだ」
 僕に会いに? 意味が分からない。

「私は明日、国へ帰るんだ」
「そうですか。お気をつけてお帰り下さい」
 まさかそのお別れを言うために、わざわざ僕を呼び出したんだろうか?

「一緒に来ないか?」
「はい? 一緒に? なぜです?」
「マティアスが気に入ったからだよ」
「せっかくお誘いいただきましたが、僕は結婚しているので無理です」
 なぜ名前も知らない人と一緒にどこかに行かなければならないのか。この人なに考えてるの?

「結婚しているのか。それなら問題ない」
 何が問題ないのか分からない。目的はなんだ?

 男が僕に向かって手を伸ばしてきたら、タルクが僕の前に出てくれた。
「マティアスさんは愛する旦那さんとお子さんもいますからお引き取り下さい」
「問題ない。その旦那と子どもが余裕を持って暮らせるだけの金を与える。そいつとは離縁してくれ」
 何言ってんの? この人怖すぎるんだけど。

「マティアスいいだろ? 私のものになれ。さあ、私の手を取るんだ」
 そう言って手を伸ばしてきたけど、本当にこの人、頭おかしいんじゃないの?

 しまった。リーブかバルドを連れてくればよかった。じゃないと僕はタルクが帰る時間になるまで店にいないといけない。こんな変な人がいるのに一人で帰るのは正直怖い。
 タルクが帰る時間になれば、ラルフ様の部下が来るから、ラルフ様を呼んでもらえるけど、それまで耐えられるだろうか?

「マティアス!」
 僕のピンチに颯爽と現れる人は一人しかいない。ねえ、僕がピンチって何で分かったの? お店の誰かか、巡回してる騎士の誰かが呼んでくれたのかな?
 一番頼れる人の声が聞こえて、僕はようやく安心できた。

 
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