僕の過保護な旦那様

cyan

文字の大きさ
上 下
48 / 180
二章

47.ハートのクッキー型

しおりを挟む
 
 
 ラルフ様はいつもより早く帰ってきた。騎士数名とクロッシー隊長も連れている。リーブがニコラを助けた時に話していた巡回の騎士から話がいったのかもしれない。

「マティアスに近づくな」
 ラルフ様は「お久しぶりです」と僕に言ってくれたクロッシー隊長と僕の間に立ちはだかった。
 まさかまだクロッシー隊長が僕のことを狙っていると思ってるの? ありえないでしょ。それに上官に対して威圧するのはやめて下さい。

「シュテルター隊長。あなたの夫に近づいたりしませんから、その殺気は引っ込めてもらえますか?」
 殺気なんて出してたのか……
「ラルフ様、いい加減にして下さい。僕がラルフ様以外に簡単に靡くと思ってるんですか? 話が進まないので邪魔をするならアマデオと同じ部屋に入ってもらいますよ?」
 そう言うとやっとラルフ様は僕の手を握って僕の横に立った。心配しなくても僕はラルフ様だけです。そう思いを込めて手を握り返したら、ラルフ様の纏う空気が柔らかくなった。

「中隊長殿、大変失礼致しました。本日のご用件はアマデオもしくはニコラですか? 両方ですか?」
「できればそれぞれ個別に話を聞いてみたい」
「分かりました。連れてまいりますので応接室でお待ちください」

 アマデオは部屋から出したらすぐにニコラに向かってしまいそうだから、先にニコラを連れて行くことにした。
 ニコラは騎士たちに囲まれて恐縮していたが、クロッシー隊長や質問してくる騎士に対して答えている内容は、僕が聞いた内容とほぼ同じだった。アマデオが仕事中は音を立てないよう部屋で静かにしていたけど、いつか見つかると思っていたし、やっぱり寮に行くなんて反対するべきだったと、アマデオが騎士をクビになったら自分のせいだと泣いていた。
 大丈夫だよ。アマデオは優秀だから騎士団も簡単に手放したりしない。きっとそんなのラルフ様が許さないと思う。

 ニコラを連れて行こうとしていた二人組の男は、人攫いではなく私服に着替えた騎士だった。事情を聞くために騎士団に連れて行くつもりだったけど、それを説明するために邪魔にならない場所に移動しようとしたところを僕とリーブに見つかった。
 ちょっと強引だったみたいで、怖がらせてすまなかったとクロッシー隊長自ら謝っていた。
 よかった、人攫いじゃなくて。王都でも人攫いがいるのかと思って怖かったんだ。

 ニコラの存在はラルフ様の部下みんなが知っていたし、彼に騎士団をどうにかしようなんて気は全くない。危険人物を寮に入れたというアマデオの疑いは晴れた。

 アマデオを連れて行く時はちょっと大変だった。地下の部屋を開けた瞬間にニコラの元へ行こうとするアマデオを、ルーベンとハリオが捕まえて、両脇を固められたままクロッシー隊長のところへ連れていった。
 アマデオもニコラが心配で仕方なかっただけで、他意はない。いつか家を買ってニコラを迎えに行こうと思っていたのに、ニコラが自ら来てくれたから嬉しくて、離れたくなかったらしい。
 純愛だ。
 僕が口を出すことではないけど、二人が一緒にいられるようにしてあげてほしいと思った。

「アマデオ、気持ちは分かるがいかなる理由があっても寮のルールを破ったことに変わりはない。あと三日は謹慎だ。その後は五日間、シュテルター隊長から君の有休申請が出ているがそれでいいか?」
 ラルフ様はアマデオとニコラが一緒にいられるよう休みを申請してくれていたらしい。きっとあの部屋に閉じ込めたのも、外に出てしまえば謹慎が長くなったり、それ以上の罰があるかもしれないからなんだ。

「……分かりました」
「アマデオ、三日は我慢しろ。そうしたら恋人と一緒に過ごせる」
 アマデオはせっかくニコラに会えると思ったのに、地下の部屋に戻されることになって、ガックリと肩を落としていた。今暴れたらもっと会えない期間が長くなると悟ったようで、大人しく連れていかれた。
 謹慎中の三日間はニコラも、あの部屋に近づくことは禁止されている。

 騎士が恋人を寮に連れ込むということはたまにあるらしく、クロッシー隊長に同行した騎士は、その事情聴取をする人たちだった。何度も連れ込むようなら問題だけど、一回や二回ならこうして謹慎とか厳重注意で終わるらしい。


「ラルフ様、アマデオのことちゃんと考えてくれていたんですね。僕はちょっと感動しました。部下思いのラルフ様は素敵です」
「そうか。仕事を褒められると恥ずかしい」
「素敵ですよ」

 僕が素敵だと連呼したら、僕はいつの間にかラルフ様の下で裸だった。
 いいか? とラルフ様の目が訴えてくる。
「僕も今日はラルフ様に愛されたい気分です」
「マティアス、いつでも愛している」
 知ってます。ラルフ様は僕のこと、いつでも大好きだって。

 次の日、僕はアマデオに会いに行った。会いに行ったと言っても、ドア越しで顔は見ていない。
「アマデオ、なんでラルフ様に相談しなかったの?」
「ニコラに再会して、離れたくなかった。そのせいで近くにいるのに会えなくなってしまった……」
 そうだよね。聞いてる限り、二人は相思相愛だったんだから、再会したら燃えあがっちゃうよね。そのせいで冷静な判断ができなかったのか。

「これからはラルフ様に相談して下さい。きっと力になってくれます。今回だってラルフ様に相談していれば、ニコラをうちで預かることもできたんですよ。今こうして預かっていますし。一人で宿に泊まらせるのは不安でも、うちなら大丈夫でしょ?」
「そうだな、しかしそれでは休みの日にしか会えない」
「なんで? アマデオもうちに泊まれば二人でいられる。アマデオだってうちに泊まったことあるでしょ? 送ってくれた時は夕飯だって一緒に食べているし、長期泊まるなら外泊届けを出さないといけないとしても、上司の家に泊まるなら許可も降りると思う。ロッドなんて結構頻繁に泊まりに来ていますよ」
「そうか……そこまで考えが至らなかった。これからは相談する。ありがとう」

 僕からアマデオに言いたいことはそれだけだ。ラルフ様は口数は少ないし、好き勝手動いてるように見えるけど、ちゃんと部下のみんなのこと大切にしてる。だからラルフ様を頼ってほしいって思ったんだ。

 アマデオが地下の部屋にいると知ったシルは、頻繁にアマデオに会いに行ってる。久しぶりにチェルソたちとクッキーを焼いたシルは、アマデオに作ってもらったクッキー型を使って、出来上がったクッキーをアマデオにあげたんだとか。うちの子優しい。


 三日経って部屋から出してもらったアマデオは、ラルフ様に勝手なことをしたと謝罪した。そして、しばらくニコラをうちに置いてほしいとお願いした。
 冬に野盗を討伐した時の報酬で、家を買おうと思っていると相談していたけど、ラルフ様は反対だったようだ。
「焦って買うことはない。ちゃんとニコラと相談してよく考えてから買え。うちなら部屋は余っているからいつまででもいたらいい。アマデオがいればシルも喜ぶし戦力が増えるのはありがたい」
「ありがとう。マティアス様の言う通りだ。隊長に相談すれば力になってもらえる。あの人は凄いな」
「そうだろう? マティアスは凄いんだ」

 そんな話をしていたと、仕事から帰ってきた僕にリーブがこっそり教えてくれた。
 今回リーブが教えてくれたのは、僕だけ知らなかったと愚痴ったからだろう。リーブはいつものように微笑を浮かべている。

「そうそう、これは今日シルヴィオ様が焼いたクッキーです。ニコラさんとアマデオさんと一緒に作っていました」
「あれ? これは新作のクッキー型?」
「ええ」
 今日のクッキーはハート型だった。アマデオが愛に目覚めたってことだろう。二人でハートのクッキーを食べているのを想像して嬉しくなった。
 アマデオがニコラと喧嘩したら、また武器の型が増えるんだろうか? そうだとしたら面白い。

 
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...