僕の過保護な旦那様

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二章

34.旦那様の帰宅と恋仲

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「ラルおかえり」
「ラルフ様、おかえりなさい」
「ああ」

 ラルフ様は野営が続いたからか、ちょっと髭が伸びて、髪もボサボサで帰ってきた。ズボンの裾もドロドロだ。そしてまた素っ気ない返事をすると、お風呂に直行してしまった。
 急いで帰ってくるのって、もしかして、僕に早く会いたくて飛ばして帰ってくるから? 自惚れかな?


「雪崩は大丈夫でしたか?」
 また髪がビショビショのまま僕の部屋に来たラルフ様を、椅子に座らせて髪を拭いてあげる。ラルフ様は変わらないな。髭もちゃんと剃られてツルツルだ。

「ああ、大丈夫だ。今年は雪が多かったらしい。それなのに一気に暖かくなったから崩れた。一部で地震があったと言う者もいたが、それが本当に地震なのか、雪崩による地響きなのかは分からん」
「そうですか。シュテルター伯爵も、僕の父も、アマデオが侵入しやすい場所を教えてくれたり、子どもに逃げ方を教えてくれたから助かったと、改めてお礼を言われましたよ」
「そうか。彼らは緊張感が無いな。うちはしっかり対策しているから安心してほしい」
 そんな気はしていたけど、ちゃんと対策されてるんだ。全然知らなかった。あの分厚い塀があれば大丈夫だと思うけど。

「マティアス、寂しかったか?」
「え?」
 髪を拭いていた手を掴まれて、次の瞬間にはラルフ様の腕の中だった。包み込むように対面で抱きしめられて、少し離れると唇が重なった。「寂しかったか?」なんて聞いてきたけど、寂しかったのはきっとラルフ様なんだろう。寂しかったと言うように僕の唇をチュッチュッと啄んで、片手で髪を撫でている。
 このキス、ラルフ様好きだよね。

 ラルフ様が王都を不在にしている二十日ほどの間に、領地持ちの貴族たちはみんな領地へ戻っていったから、王都が少し静かになった気がする。貴族が集まっていると、花や菓子などがよく売れる。種や苗も今は時期的にあまり出ない。

 バターン!
「ラルー!」
 勢いよくシルが扉を開けて入ってきて、僕たちは慌ててキスを中断した。見られてないよね? キスくらいなら見られても問題ないんだけど、シルに見られるのはちょっと恥ずかしい。

「ど、どうしたの?」
「ラルかえってきた」
 そうだよね。シルもラルフ様に会いたかったんだよね。僕はまだちょっと焦ってドキドキしていた。

「ラルぼくもだっこ~」
 シルが飛びつくと、ラルフ様は片手でしっかりシルを受け止めた。さすがラルフ様だ。今は僕とシル二人を抱えている。

「ラルフ様、重くないですか?」
「軽い」
「そうですか」
 シルにキスを見られたかもしれないと思うと、何を話していいのか分からなかったんだけど、シルは見ていなかったのか、さっきバルドがもう今年最後という苺をくれたのだと嬉しそうに話していた。ホッ

「ロッドがバルドとなかよしなの」
「ロッドが来てたの?」
「うん。さっきキスしてたの」
 ん? それは僕とラルフ様ではなく、ロッドがバルドとキスしてるところを見たってこと?

「ロッドとバルドが?」
「うん」
 僕はラルフ様を見上げた。もしかしてラルフ様は知ってたの?
 どうなの? と圧をかけて見ると、ラルフ様はふぅ~っと息を吐いた。

「報告は受けている」
 なんだ。知らないのは僕だけじゃないか。なんだか仲間外れにされたみたいだ。それにしてもいつの間に……
 全然気付かなかった。

「他にも?」
「他はグラートが王都に彼女がいるから早く帰りたいと言っていたが、どこの誰かは知らん。ハリオとルーベンとアマデオはいないんじゃないか?」
「そうなんだ」

 本当はラルフ様に、戦争に行くのと僕との結婚のことを聞きたかったんだけど、ロッドとバルドのことが衝撃的で頭から吹き飛んてしまった。

「しばらく休みになるからみんなでピクニックにでも行くか?」
「ぴくにっく?」
「そうだ。森に行って肉を焼いたりして食べるんだ」
「もりやだ。こわい……」
 そうだよね。前に森に行った時、野盗と遭ったもんね。そりゃあ怖いよね。シルにとって森は怖い場所になってしまったようだ。怯えたような表情のシルの背中をよしよしと撫で、もう少し大きくなったら、街道の辺りは安全なのだと教えてあげようと思った。森は行かなくてもいい。

「庭でお花見しましょう。春のお花が満開で綺麗ですよ。お肉なら庭で焼けばいいですし」
「そうだな。シル、庭ならいいか?」
「うん」

 思い出してしまったのか、シルはその後しばらく元気がなかったけど、夜に一緒に寝るか聞いたら、メアリーがいるから大丈夫だと言った。

 レモンの香りのキャンドルに火を灯し、ラルフ様の隣に寝そべった。
「ラルフ様、聞きたいことがあるんですが……」
「なんだ? なんでも聞いていいぞ」
「お義兄さんたちを見送るときに、戦争に行ってまで僕との結婚を望んだと聞きました。どういうことですか?」
「大したことじゃない。マティアス以外と結婚したくなかっただけだ」
 ん? ますます分からない。僕以外と結婚? もしかしてそんな話が出ていたんだろうか?

「僕以外との結婚の話が出ていたんですか?」
「俺を金がある貴族か商家に婿入りさせるという話はあった。うちの領地が自然災害で困窮したことがあって、金のためだ」
 戦争か好きでもない人との結婚と選択を迫られたラルフ様は、戦争を選んだ。僕と結婚するために。命の危険がある方を選んだんだ……
 何も知らず、僕は安全なところにいたんだ。婚約者なのに。

「ラルフ様……それで戦争に?」
「そうだ。だが強要されたわけじゃない。そんな話が出たこともあっただけだ。俺は三男だし、成績も普通だったから、仕事を探す必要があった。家を助けることができ、戻ったらそのまま騎士団所属だ。そしてマティアスと結婚できる。それで戦争に行くことを決めた。自分で決めたんだ」
 ラルフ様は僕の目をしっかり見て、自分で決めたのだと誇らしげに言った。その力強い目に僕は釘付けになった。優しく微笑んでくれるラルフ様も素敵だけど、今日のラルフ様もとても素敵だ。僕の旦那様は格好いい。

 シュテルター伯爵がラルフ様に、お金のための結婚か戦争かの二択を迫ったわけじゃなかったことに安心した。あの優しそうなシュテルター伯爵がそんなことするわけないか。
 ラルフ様が生きて戻ってきてくれてよかった。前からそう思っていたけど、ラルフ様の思いを聞いた今日は、心から神様に感謝した。

「ラルフ様、僕はラルフ様のために何ができますか?」
「マティアスのことを守らせてほしい」
「いつも守ってもらってますよ」
「これからもずっとだ」
「はい。よろしくお願いします」

 
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