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二章
26.大胆ですか? (※)
しおりを挟む野盗に遭遇するという恐ろしい雪遊びからしばらく、シルは夜に怖がって泣いて家族三人で寝ていた。
野盗なんて僕も見たことなかったし、怒号みたいなのは僕も怖かった。
しばらく花屋の仕事を休んでシルと一緒にいたんだけど、ようやく落ち着いて僕は花屋の仕事に復帰した。
「やあマティ」
「また護衛もつけずにこんなところに来て、奥方様に怒られますよ」
いつもの日常に戻り、やっと落ち着いた頃にエドワード王子が花屋に来た。
「マティも野盗討伐したんだって? マティはこう見えて強いんだね」
「僕は討伐なんてしていませんよ。ただ守られるだけの弱い存在です」
僕に対する嫌味だろうか?
「問題になってて、なかなか捕まえられなかった野盗組織だったからさ、討伐報酬を出すって話になったんだよね。で、ラルフが息子とマティのプレートアーマーが欲しいって言ってるんだけど、止めてくれない?」
「はい?」
ラルフ様はまだプレートアーマーを諦めていなかったのか……
僕が金銭的理由で反対していると思ってるから、金がかからなければ大丈夫だと判断したのだろうか? この前僕が呼び出されたのに、陛下に用途を説明さえすれば作っても大丈夫だと思ったの?
いや、用途ってなんだ。僕とシルにプレートアーマーの用途なんか無い。
「それは僕からラルフ様に言っておきます。わざわざお手数をおかけしました」
「相変わらずマティは他人行儀だね。寂しいな~」
他人行儀だと言われても、他人なんだから仕方ない。僕は王子様と仲良くするような身分ではないんです。寂しいなら早く帰って奥方様に慰めてもらって下さい。
「ラルフ様、プレートアーマーなんて買ったらベッドを分けると言いましたよね?」
「買わない。あれは結構高いからな」
そういう問題じゃないんです。
「ラルフ様、お金の問題ではありません。僕もシルもプレートアーマーなんて着ませんし、買わなくても発注したことが分かったらベッドを分けます。僕は本気ですからね」
「ごめん。そんなに嫌だったのか。確かにチェーンメイルでも重いと言っていたんだから、プレートアーマーなど着たら動けないか……」
そういう問題でもないんですけどね。
「ラルフ様が僕たちのことを守りたいのは分かっていますし、嬉しいんです。でももう十分ですから。王都は安全なんです」
「分かった」
本当に分かったんだろうか? ラルフ様が僕の手にそっと触れた。
ラルフ様の目が熱を帯びている。僕は何か言ってしまったのだろうか?
「マティアスの手が冷たい」
「そうですね。冬はどうしても指先が冷えてしまいます。ラルフ様の手は温かいですね」
「温めたい。マティアスを温めるのは俺の役目だ。マティアスの全部が欲しい。キスはしてもいいか聞かなくてもいいんだったな」
「いいですよ」
ラルフ様は相変わらず体温が高くて温かい。
そっと唇に触れて、ヌルリと舌が入ってきたけど慌てて出ていった。
なに?
「ずっと同じベッドで寝たい。背を向けられたくない」
ベッドを分けると言ったから寂しくなったのか……ラルフ様が傷ついてしまうって分かってたのに、僕は酷い奴だ。もう脅し文句のようにそんなことを言うのはやめようと思った。
「ずっと同じベッドで寝ましょう。お爺ちゃんになってもずっと。もっとキスして? ラルフ様とキスしたいです」
「そんなこと言われたら、キスだけじゃ終われなくなる」
「いいですよ。でもプレートアーマーは諦めてくださいね」
それだけは言っておかなければならない。
ラルフ様は強いのに、たまに弱くて、でもそれを知っているのは僕だけな気がする。
「分かった。プレートアーマーなどなくても、俺がその分強くなればいい」
もう十分ラルフ様は強いですよ。そう言おうとしたけど、それはキスに阻まれて、そしてラルフ様の熱で溶けて消えていってしまった。
「マティアス、必ず守るから」
ラルフ様は本当に僕を温めるみたいに、僕の手を握ったり、足先をそっと包み込んだり、ピッタリと抱きしめていてくれた。
「乳首が冷たい」
「え? あっ……」
乳首が熱いのも変だけど、冷たくなるところなの? そんなの確認したことなかったから分からないけど、後ろから抱きしめられている時に、ラルフ様が触れたら冷たかったらしい。
そっと包み込まれることはなく、そこだけは弄り倒されて、僕は散々啼かされた。そのせいで声が掠れてきた。
「ラ……ざま……」
「大変だ、マティアスの声が枯れている!」
慌てたラルフ様は、僕の中から出ていくと、全裸のまま僕を置き去りにして走り出した。
途中でどこ行ったの?
すぐに戻ってくると、僕をそっと包み込んで、口に蜂蜜をトロリと垂らした。
声が枯れたから、キッチンに蜂蜜をとりに行ってくれたらしい。優しいけど、せめてガウンを羽織っていってほしかったな。
それと、これは風邪とかじゃなくてラルフ様が攻めすぎるからだよ。
「マティアス、俺に移せ。そうすればきっと治る!」
「んん……」
僕は風邪じゃないですから。って言う間も与えられずにラルフ様に口を塞がれた。
僕の唾液を全部飲んでしまうんじゃないかってくらい口内の至る所を舐められて、舌をジュッと吸われた。
どうしよう、このキス気持ちいい。
唇が離れるときにツーっと糸が引いて、それがキャンドルの火に照らされて、欲情を煽る。
アロマキャンドルの火がゆらゆら揺れていて、火はもうすぐ消えそうだ。
「ラルフ様、欲しい。僕の中にきて」
「マティアス……しかし一気には」
「焦らさないで。早く」
「そうか、分かった」
蜂蜜がトロリと僕の口に垂らされた。
そっちじゃない。欲しいのは蜂蜜じゃなくてラルフ様なのに。
「ラルフ様が欲しいんです」
そう言うと、ラルフ様は「しかしな……」と迷っている。
満たされない欲求に、お腹の中がグズグズと疼く。ラルフ様はやっぱり僕のこと全然分かってない。
「声が枯れたのはラルフ様が僕のこと攻めすぎるからだ。バカ、バカバカもっとしてほしいのになんで分かってくれないの?」
「ごめん」
「きて。したくないの?」
「そんなことあるわけない。でも、いいのか?」
そんな困った顔させたかったわけじゃないのに。謝らせたいわけじゃないのに、なんでうまく伝わらないんだろう?
「僕はラルフ様のこと愛してるから、いっぱい愛し合いたい」
「マティアス……俺もだ」
そう言ったラルフ様はもう困った顔じゃなかった。目がギラリと光って、僕の心をグッと掴んだ。
「ああっ……」
ラルフ様もきっと我慢してたんだ。途中で止めたから、心の中では心配していても、体は僕を求めてた。
一気に穿たれると、強すぎる快感にビクビクと震える。ラルフ様はそんな僕をギュッと抱き締めて、「マティアスはやはり大胆だな」なんて耳元で囁いた。
「僕はラルフ様を愛してるだけですよ」
「俺もマティアスを愛してる」
加減……
ラルフ様を煽った自覚はある。リーブに緑色の酷い匂いの湿布を貼って貰いながら、僕は大胆なんだろうか? と考えた。
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