僕の過保護な旦那様

cyan

文字の大きさ
上 下
27 / 189
二章

26.大胆ですか? (※)

しおりを挟む
 
 野盗に遭遇するという恐ろしい雪遊びからしばらく、シルは夜に怖がって泣いて家族三人で寝ていた。
 野盗なんて僕も見たことなかったし、怒号みたいなのは僕も怖かった。
 しばらく花屋の仕事を休んでシルと一緒にいたんだけど、ようやく落ち着いて僕は花屋の仕事に復帰した。

「やあマティ」
「また護衛もつけずにこんなところに来て、奥方様に怒られますよ」
 いつもの日常に戻り、やっと落ち着いた頃にエドワード王子が花屋に来た。

「マティも野盗討伐したんだって? マティはこう見えて強いんだね」
「僕は討伐なんてしていませんよ。ただ守られるだけの弱い存在です」
 僕に対する嫌味だろうか?

「問題になってて、なかなか捕まえられなかった野盗組織だったからさ、討伐報酬を出すって話になったんだよね。で、ラルフが息子とマティのプレートアーマーが欲しいって言ってるんだけど、止めてくれない?」
「はい?」
 ラルフ様はまだプレートアーマーを諦めていなかったのか……
 僕が金銭的理由で反対していると思ってるから、金がかからなければ大丈夫だと判断したのだろうか? この前僕が呼び出されたのに、陛下に用途を説明さえすれば作っても大丈夫だと思ったの?
 いや、用途ってなんだ。僕とシルにプレートアーマーの用途なんか無い。

「それは僕からラルフ様に言っておきます。わざわざお手数をおかけしました」
「相変わらずマティは他人行儀だね。寂しいな~」
 他人行儀だと言われても、他人なんだから仕方ない。僕は王子様と仲良くするような身分ではないんです。寂しいなら早く帰って奥方様に慰めてもらって下さい。


「ラルフ様、プレートアーマーなんて買ったらベッドを分けると言いましたよね?」
「買わない。あれは結構高いからな」
 そういう問題じゃないんです。

「ラルフ様、お金の問題ではありません。僕もシルもプレートアーマーなんて着ませんし、買わなくても発注したことが分かったらベッドを分けます。僕は本気ですからね」
「ごめん。そんなに嫌だったのか。確かにチェーンメイルでも重いと言っていたんだから、プレートアーマーなど着たら動けないか……」
 そういう問題でもないんですけどね。

「ラルフ様が僕たちのことを守りたいのは分かっていますし、嬉しいんです。でももう十分ですから。王都は安全なんです」
「分かった」
 本当に分かったんだろうか? ラルフ様が僕の手にそっと触れた。

 ラルフ様の目が熱を帯びている。僕は何か言ってしまったのだろうか? 
「マティアスの手が冷たい」
「そうですね。冬はどうしても指先が冷えてしまいます。ラルフ様の手は温かいですね」
「温めたい。マティアスを温めるのは俺の役目だ。マティアスの全部が欲しい。キスはしてもいいか聞かなくてもいいんだったな」
「いいですよ」
 ラルフ様は相変わらず体温が高くて温かい。
 そっと唇に触れて、ヌルリと舌が入ってきたけど慌てて出ていった。
 なに?

「ずっと同じベッドで寝たい。背を向けられたくない」

 ベッドを分けると言ったから寂しくなったのか……ラルフ様が傷ついてしまうって分かってたのに、僕は酷い奴だ。もう脅し文句のようにそんなことを言うのはやめようと思った。

「ずっと同じベッドで寝ましょう。お爺ちゃんになってもずっと。もっとキスして? ラルフ様とキスしたいです」
「そんなこと言われたら、キスだけじゃ終われなくなる」
「いいですよ。でもプレートアーマーは諦めてくださいね」

 それだけは言っておかなければならない。
 ラルフ様は強いのに、たまに弱くて、でもそれを知っているのは僕だけな気がする。

「分かった。プレートアーマーなどなくても、俺がその分強くなればいい」
 もう十分ラルフ様は強いですよ。そう言おうとしたけど、それはキスに阻まれて、そしてラルフ様の熱で溶けて消えていってしまった。

「マティアス、必ず守るから」
 ラルフ様は本当に僕を温めるみたいに、僕の手を握ったり、足先をそっと包み込んだり、ピッタリと抱きしめていてくれた。

「乳首が冷たい」
「え? あっ……」
 乳首が熱いのも変だけど、冷たくなるところなの? そんなの確認したことなかったから分からないけど、後ろから抱きしめられている時に、ラルフ様が触れたら冷たかったらしい。

 そっと包み込まれることはなく、そこだけは弄り倒されて、僕は散々啼かされた。そのせいで声が掠れてきた。

「ラ……ざま……」
「大変だ、マティアスの声が枯れている!」
 慌てたラルフ様は、僕の中から出ていくと、全裸のまま僕を置き去りにして走り出した。
 途中でどこ行ったの?

 すぐに戻ってくると、僕をそっと包み込んで、口に蜂蜜をトロリと垂らした。
 声が枯れたから、キッチンに蜂蜜をとりに行ってくれたらしい。優しいけど、せめてガウンを羽織っていってほしかったな。
 それと、これは風邪とかじゃなくてラルフ様が攻めすぎるからだよ。

「マティアス、俺に移せ。そうすればきっと治る!」
「んん……」
 僕は風邪じゃないですから。って言う間も与えられずにラルフ様に口を塞がれた。
 僕の唾液を全部飲んでしまうんじゃないかってくらい口内の至る所を舐められて、舌をジュッと吸われた。
 どうしよう、このキス気持ちいい。

 唇が離れるときにツーっと糸が引いて、それがキャンドルの火に照らされて、欲情を煽る。
 アロマキャンドルの火がゆらゆら揺れていて、火はもうすぐ消えそうだ。

「ラルフ様、欲しい。僕の中にきて」
「マティアス……しかし一気には」
らさないで。早く」
「そうか、分かった」

 蜂蜜がトロリと僕の口に垂らされた。
 そっちじゃない。欲しいのは蜂蜜じゃなくてラルフ様なのに。

「ラルフ様が欲しいんです」
 そう言うと、ラルフ様は「しかしな……」と迷っている。
 満たされない欲求に、お腹の中がグズグズと疼く。ラルフ様はやっぱり僕のこと全然分かってない。

「声が枯れたのはラルフ様が僕のこと攻めすぎるからだ。バカ、バカバカもっとしてほしいのになんで分かってくれないの?」
「ごめん」
「きて。したくないの?」
「そんなことあるわけない。でも、いいのか?」
 そんな困った顔させたかったわけじゃないのに。謝らせたいわけじゃないのに、なんでうまく伝わらないんだろう?

「僕はラルフ様のこと愛してるから、いっぱい愛し合いたい」
「マティアス……俺もだ」
 そう言ったラルフ様はもう困った顔じゃなかった。目がギラリと光って、僕の心をグッと掴んだ。

「ああっ……」
 ラルフ様もきっと我慢してたんだ。途中で止めたから、心の中では心配していても、体は僕を求めてた。
 一気に穿たれると、強すぎる快感にビクビクと震える。ラルフ様はそんな僕をギュッと抱き締めて、「マティアスはやはり大胆だな」なんて耳元で囁いた。

「僕はラルフ様を愛してるだけですよ」
「俺もマティアスを愛してる」

 加減……

 ラルフ様を煽った自覚はある。リーブに緑色の酷い匂いの湿布を貼って貰いながら、僕は大胆なんだろうか? と考えた。

 
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形宰相x不遇な異能持ち王子】ヒースダイン国の王子カシュアは、触れた人の痛みを感じられるが、自分の痛みは感じられない不思議な体質のせいで、幼いころから周囲に忌み嫌われてきた。それは側室として嫁いだウェストリン国でも変わらず虐げられる日々。しかしある日クーデターが起こり、結婚相手の国王が排除され、新国王の弟殿下・第二王子バージルと再婚すると状況が一変する……不幸な生い立ちの王子が、再婚によって少しずつ己を取り戻し、幸せになる話です

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...