僕の過保護な旦那様

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二章

23.惚れ直しました(※)

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「シルは俺とマティアスの息子だ。文句がある奴は出ていけ!」

 ラルフ様がそう言うと、みんなを囲んでいたラルフ様の部下五人が剣に手を添えた。それはやりすぎ……

「いや、文句があるわけではない」
「そ、そうだ」
「文句は、ない」

 押し潰されそうに重い空気だ……


 俯いたままのシルをラルフ様が抱き上げた。

「大丈夫だからな。もう部屋に戻ろう。何者からも俺が守ってやる」
 ラルフ様はそのまま部屋を出て行った。

 ラルフ様、格好良かったです。惚れ直しましたよ。僕もシルを守りたいのです。次は僕が頑張る番ですね。

「僕は先ほど『心の傷が癒えていない』と言ったはずです。皆さんの発言が僕たちの子をどれだけ傷つけたのかお分かりですか? 分別のある大人の対応だったのかよくお考え下さい」
「そうだな。マティアスの言うとおりだ。あの子を傷つけるつもりはなかったんだ。すまない」
「マティアス殿、すまなかった」

「僕に謝ってどうするんですか。全然分かってないですね」
 ラルフ様の部下の皆さんも厳しい顔をしている。

 そこに割って入ったのは、兄上の息子クリスピーノだった。シルより少しお兄さんだろうか?
「ねえ、父上、あの子は僕の従兄弟なんでしょ? なんでいじめるの? 僕は従兄弟に会えるって楽しみだったのに、なんで?」
「僕も従兄弟に会えるって聞いていた。母上も父上もみんなシルヴィオに謝るべき」
 ラルフ様の甥フィルミーノもそう言ってくれた。まだ十歳に満たないほどの年齢なのに、子どもたちの方が大人だった。

「そうだな。彼に謝らなければ……」
「マティアス、私たちは文句があるわけではないのよ。あなたたちが決めたことなのだし。私たちも親としてあなたたちが心配なだけなのよ」
 母上にそう言われて、理解はできた。
 分かってた。

 使用人たちが運び込んだシル宛てのプレゼントの山を見ているから。
 説明してあげるのも僕の役目だろうか?
 敵ではないとラルフ様にも説明しなければならない。

 呼びに行こうと立ちあがろうとしたが、崩れ落ちかけてハリオに支えてもらった。
 そうだった……腰。
 ハリオとアマデオに両方から支えられながら部屋を出ると、リーブとメアリーに、みんなにお茶とお菓子をお出しするようお願いした。


 シルの部屋に行くと、シルは意外にも元気そうだった。しかしチェーンメイルを着ている。ラルフ様もだ。
 なんで?
「なぜチェーンメイルを着ているのですか?」
「周りは敵ばかりだからな。身を守るために必要だ」
「ママもきて。まもるの」
 僕の分までちゃんと用意されている。

「僕は腰が……」
「ママ、きたら、こわくないよ」
 困ってラルフ様を見たら、ラルフ様も期待に満ちたような目を僕に向けていた。僕は助けを求める相手を間違えたようだ。
 ハリオ……ラルフ様の部下ですからね。チラッと視線を送ったが、なんの疑いも持たず平然と立っていた。
 アマデオ……それがいいとでも言うようにうんうんと頷かれた。
 ここに僕の味方はいないようだ。

「マティアス、あそこへ戻るのだろう?」
「ええ。皆さんシルのことを歓迎しているのです。ただ、少し心配だっただけで、シルに謝りたいと言っています」
「マティアスも着るといい。お揃いだ」
 とてもいい笑顔ですね。ラルフ様からのとどめの笑顔で、僕は完全に退路を断たれた。
 僕の顔は引き攣っていないだろうか?

 一家で揃いのタイや、リボンをつけているのは見ていて可愛いと思ったよ。一家で揃いのチェーンメイルは見たことない。今後も見ることはないだろう。僕たちを除いて……

 僕は感情を殺して、チェーンメイルを着た。というかハリオに着せてもらったんだけど。重いから一人では着れないんだ。

「お揃いのチェーンメイルか。いいですね。俺も家族ができたら作ります」
 ハリオがそんなことを言ったけど、やめた方がいいと思う。アマデオも頷かないで。
 今後お揃いのチェーンメイルが流行ったり……
 いや、それはない。断言できる。それはない。

「アマデオ、シルを頼む。俺はマティアスを抱えていく。ハリオは周囲の警戒だ」
 アマデオにシルを頼んだのは分かる。チェーンメイルは重く動きづらいから、抱っこしてあげてほしいということだろう。
 周囲の警戒ってのはなんだ? ここは家の中で前線基地から戦場に出るわけではない。
 まるで敵の偵察に行くみたいな発言ですね。チェーンメイルも着てますし……

 上にはちゃんとジャケットを羽織ったんだ。でも、隙間から明らかに見える。そして動く度に音がするんだ……ジャラジャラと。


 部屋に入ると、大人たちにはギョッとされた。
 それは一家揃ってチェーンメイルを着ていることか、それとも僕がラルフ様に抱えられていることか。
 しかし、誰も何も言わなかった。ある意味それが一番辛い。

 みんなしっかり謝ってくれて、シルはチェーンメイルで防御力を高めたせいか、挨拶がちゃんとできた。
「シルヴィオです。よろしくおねがいします」
 偉いぞうちの子。

 シルの従兄弟に当たるクリスピーノとフィルミーノがシルに寄ってきて、話しかけてくれた。
「俺はフィルミーノ、フィルと呼んでいい。それ騎士が着るやつだろ? 格好いいな」
「僕はクリスピーノ、クリスって呼んで。僕もそれほしい」
 子どもは無邪気だ。チェーンメイルを褒められて、シルは嬉しそうにしている。
 うちに来る前の孤児院では、誰とも話さなかったと聞いていたから心配だったけど、楽しそうにしているのを見て安心した。

 大人たちとも、近況報告や子どもの話などをすることができたのはよかったと思う。紅茶のカップを手に取る度にジャラッと音が鳴って、チェーンメイルにみんなの視線が向かうのを除けば、有意義な時間だった。

 たくさんの人に囲まれたり、重いチェーンメイルを着て遊んだから疲れたんだろう。シルは夕飯も食べず早めに寝てしまった。



 今日のキャンドルはシダーウッド、森の香りだ。爽やかで温かみのある香りが部屋に広がる。

「今日のラルフ様、格好良かったですよ」
「そうか。ではいつもチェーンメイルを着ていよう」
 そうじゃない。

「それはやめてください。格好良かったのは『何者からも俺が守ってやる』とシルを連れ出した時です。惚れ直しました」
「惚れ……」
 おや? ラルフ様が照れている?
 珍しいラルフ様を見てしまった。

「ラルフ様、惚れ直しました」
 僕は可愛いラルフ様をもっと見たいと思って、もう一度言ったんだけど、失敗だった。今日も僕は自業自得というやつだ。
 ラルフ様に熱の籠った目で見つめられて、しまったと思った時にはもう遅かった。

「マティアス、ごめん。耐えられそうにない」
 そう言って重なった唇。ごめんなんて言わなくていいんですよ。

 いつも通り早技で脱がされると、いつもはそんなことしないのに、ラルフ様が僕の股間に移動して、僕のものを咥えたんだ。
「あっ、そんなとこ……」

 ジュルッと吸われて、いつもとは違う刺激に、それだけでイきそうになった。
 温かくて柔らかい舌がヌルリと絡みついてきて、どんどん高みへといざなわれる。
 すごかった。口でされるのって、こんなに気持ちいいんだ……
 僕も今度してあげよう。

「俺はマティアスにいつでも好かれていたい」
「はい。いつでも好きですよ。ああっ……」

 僕の腰を気遣ってか、その夜のラルフ様は優しかった。腰に響くような突き上げる動きはせず、浅いところを行ったり来たりで、しかし明け方まで離してくれなかった。


 翌日、僕はまだ腰が痛かったんだけど、肩も凝っていた。なぜだろうと考えて、チェーンメイルのせいだと思い至った時の何とも言えない感情……
 もう二度と着るもんかと決意を固めた。


 
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