僕の過保護な旦那様

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一章

11.お話をしましょう

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「ラルフ様、お話しできますか?」
「分かった」
 観念したって様子でラルフ様は剣をしまうと、後退るのをやめた。
 騎士の一人が中隊長室に案内してくれると言うので、お言葉に甘えて使わせてもらうことにした。

 僕がソファに座ると、その向かいにラルフ様が座った。なぜかピシッと背筋を伸ばして、手は膝の上にきっちりと置いている。それでもまだ目は逸らしたままだ。案内してくれた騎士が紅茶を入れてテーブルに置くと、部屋を後にした。
 リーブは馬車のところで待っているから、二人きりだ。会うのも久しぶりだな。

「ラルフ様、僕と目を合わせないのは、まさか浮気でもしましたか?」
「しない! それはしてない! 本当だ!」
 違ったらしい。僕を抱いてすぐに浮気していたら、僕はきっとショックで寝込んだだろう。

「じゃあなぜ家に帰ってこないのですか?」
 これは僕が一番聞きたかったことだ。不安もあった。僕の体が気に入らなかったんじゃないか、嫌われたんじゃないかって少なからず思っていた。
 初めは仕事が忙しいのだと思ったけど、事件も災害もないと聞いてからは不安だった。原因が僕だったらどうしようって。
 ラルフ様は僕の質問に答えようとせず、まだ目を逸らしたまま黙りを決め込んでいる。

「僕のこと、嫌いになりましたか?」
「そんなことはない。そんなことは有り得ない!」
 ラルフ様は立ち上がって拳を握りしめている。やっと目が合いましたね。
 断言してくれるのは素直に嬉しい。だったらなぜ?
 気持ち的には好きだけど、体は嫌いとか? それはそれでショックだ。

 目をじっと見つめると、ラルフ様はゆっくりと僕の前まで来て、平伏した。
「ごめん」
「それは何に対しての謝罪ですか? 理由を教えて下さい」
 察しろなんて無理ですからね。僕は言われないと、言葉にしてもらわないとか分からないんです。
 そういえば、あの夜も「ごめん」と言っていた。ずっと忘れていたのに、今になって思い出した。
 あの時の「ごめん」の理由は何だったんだろう?

「マティアスをどうしても自分のものにしたくて、媚薬のキャンドルを使って抱いた」
 なんだ媚薬のキャンドルはラルフ様が用意したものだったのか。
「それと……」
「なんですか?」
 まだあるの? 帰ってこなかった理由?

「自分を止められなくて、マティアスに無理をさせた」
「え?」
 無理をさせた? 別に僕は無理なんてしてないけど。
 王城に行った日に熱を出したことか? そんなのもう随分前の話じゃないか。

「何度も抱いて、マティアスを疲れさせ、腰も痛めたと思う」
 ええー? ベッドから落ちて腰を打ったんじゃなく、あの腰の痛みはラルフ様のせいだったのか。
 止められなかったのは、媚薬なんか使ったからだと思うよ。
 うわ~、なんか恥ずかしくなってきた。リーブにラルフ様が無茶をしたと言われたのも、治療院で何だか温かい微笑みを向けられたのも、みんなには分かってたってこと?

「マティアスを求めすぎて嫌われたらどうしようと思って、帰れなかった。己の欲に打ち勝つために、ひたすら剣を振るっていたんだ」
 そうだったんだ……
 言ってくれればよかったのに。
 そう僕は思うけど、ラルフ様は言えなかった。陛下にすら物怖じせず意見を言うような、あのラルフ様が言えなかったんだ。
 言いにくい環境を作った僕にも責任はあるのだと思った。僕が気持ちをちゃんと伝えていればよかったのかな?

「マティアス、怒っているよな?」
「少し怒っています」
「ごめん。もうしない。もう決して触れないから。どうか許してほしい」
 僕はラルフ様の目の前にしゃがんだ。「もう触れない?」何それ、そんなの許さない。そんなこと僕は望んでない。僕はラルフ様に触れたいし、触れてほしい。

「ラルフ様、顔を上げて下さい」
「分かった」
 顔を上げたラルフ様は、眉尻が下がってなんだか情けない顔をしていて、そんな顔は初めて見た。今すぐ触れたい。こんなに愛しいあなたに触れたい。

「ラルフ様、抱きしめてほしいです」
「いいのか?」
 両手を広げると、ラルフ様は僕を子どもでも持ち上げるように、軽々と持ち上げ、膝の上に乗せて抱きしめてくれた。久しぶりのラルフ様の感触だ。しかし、とても汗臭い。むわ~っと生暖かい湿気も襲いかかってきた。

「僕もラルフ様のこと愛してます。媚薬のせいで、せっかくラルフ様と愛し合ったのによく覚えていません。それがとても残念です。
 それと、帰ってきてくれなくて、寂しかったです。
 僕も悩んだんですよ。僕の体がイマイチだったのかもしれないとか、それで嫌われたのかもしれないとか、怖かったんです」
「ごめん。もう寂しい思いはさせない。媚薬も使わない。毎日ちゃんと帰る。
 それと、マティアスの体は最高だった」
 最高だったのか。それならいいんだ。ラルフ様が行為を思い出して噛み締めるかのように言うから、すごく恥ずかしいけど、最低じゃなくてよかった。

「ラルフ様、もうそろそろ放してもらえますか?」
「嫌だ」
「汗臭くて窒息しそうです」
 そう言ったら僕を残して、一瞬で部屋の隅まで距離を取った。なんですかその早技。相変わらず恐ろしい身体能力ですね。
 傷つける気はなかったんだけど、ちょっと臭かった。ラルフ様、ごめんね。

「すまない。ここ五日ほどは風呂にも入っていなかった……」
「今すぐに入って下さい!」

 ずっと剣を振るっていたんですよね? 夏ですし、毎日汗だくになってたんですよね? 五日も風呂に入らなかったって何故ですか? だから髭が伸びているんですか?

  
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