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一章
4.街へお出かけ
しおりを挟む「ラルフ様、朝食を食べたら、街を歩いてみませんか?」
「そうだな。一緒に行こう」
僕はラルフ様からの手紙を受け取って、慌てて家を出て王都に来た。使用人のみんなと、この屋敷を整えて、間も無くラルフ様が帰ってきたから、僕は王都の街を見てない。
馬車の中からチラッと見たけど、その時は緊張していて、全然覚えてない。
15になった年、社交界デビューとして一度夜会に参加したけど、知らない人と踊るのが嫌で、体調不良を理由に毎年欠席していた。
男爵家の三男なんて、みんな興味はない。病弱なんだと思われているか、存在さえ認識されていないかのどちらかだと思う。
ってことで僕は王都の街を歩いたことはない。楽しみだな。
朝食をとると、使用人のみんなに、ラルフ様が戦場から戻られたばかりで気を張っていることを伝えた。さすがに殺されかけたとは言えないから、警戒する体勢を取られたと伝えた。
ビックリさせたり、背後から話しかけたりしないようにと伝えた。大丈夫だよね? 屋敷の中で殺傷事件とか嫌だよ?
ラルフ様を玄関で待つ。
「待たせたな」
「……ラルフ様、どこへ行かれるんですか?」
そこに現れたラルフ様は完全武装されていた。金属のプレートアーマーでないだけマシなのか? 革鎧の隙間からチェーンメイルが見えているし、ロングソードを背負って、腰には片手剣が。
「マティアスを守らなければいけないからな」
僕を戦場か野盗討伐にでも連れて行く気ですか?
メアリーにラルフ様の普段着は無いのかと聞いてみたら、体型が変わったから、家から持ってきたものが着れなかったのだと言われた。
早く手配してあげて。こんな格好で街に行くなんてどうかしてるよ。
とにかく剣は下ろしてもらった。チェーンメイルも革鎧もだ。
正装も仕立てないといけないし、家令のリーブにすぐに仕立て屋を手配するよう指示した。
普段着はオーダーメイドでなくてもいいだろう。今日の目的は決まった。ラルフ様の服を買いに行く。
「せめてこれだけは。マティアスのことは俺が盾になってでも守るが、丸腰では不安だ」
王都を歩くのに、そんなに危険があるとは思えないけど、どうしてもと言うからナイフだけは持って行くことを許可した。
やっぱり護衛を雇った方がいいんだろうか? 伯爵が、ラルフ様が護衛は必要ないと言ったから募集はやめたと教えてくれたけど、いたほうがよくない? そうすればラルフ様も安心して普通の格好で出歩いてくれるのでは?
一応、うちの使用人のみんなは、賊が紛れ込んだ場合に無力化したり、主人を守ることができる程度の力を持っているらしい。戦場のような場所での、本格的な戦闘となると厳しいと思うけど。
伯爵はしばらく王都に滞在すると言っていたし、護衛のことを相談してみよう。
ようやく用意が整って馬車に乗ったんだけど、ラルフ様は落ち着きがない。鋭い目線で外を観察して、ナイフの持ち手から手を離さない。
そんなにずっと警戒していたら、精神が擦り切れちゃうよ。
「ラルフ様、ここは治安がいいと言われている王都です。戦場じゃないのでそんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」
「そうだな」
街に連れてくるのは早かったかもしれない。明日からはしばらく、屋敷でゆったりと過ごしてもらおう。
服屋に行っても警戒しっぱなしのラルフ様が、なんだか可哀想になってしまって、サイズを合わせて店主に服を何着か見繕ってもらうと、服を買ってすぐに屋敷へ戻った。
ラルフ様は僕の隣ではなく、一歩下がった位置に立って、護衛の人みたいにずっと辺りを真剣に観察していた。これって戦場に何年もいたからだよね?
家に帰ると、少しは落ち着いた様子を見せてくれた。
庭のガゼボでお茶をしたけど、もうかなり寒いから、これからは暖かいお部屋から庭を眺めることにしよう。
「寒いですね」
そう言ったら、ラルフ様は僕をサッと抱えてすぐに屋敷の中に入った。
何その早技。僕はまたビックリして声も出せなかったよ。
「風邪を引いたら大変だ。暖炉に火を入れるか? 温かい風呂か? 毛皮を持ってくるか?」
「大丈夫ですよ。落ち着いてください」
僕を心配してくれているのが分かるから、嬉しい気持ちもある。大袈裟だけど。
そんなこともありつつ、僕たちは屋敷の中でゆったりと過ごした。
寝室は明るいランプにしてもらって、僕が待ってても敵に間違われないようにした。
リラックスする香りのキャンドルもたくさん買った。街に出るとまた警戒しちゃうから、買い物は行商を呼んで、ラルフ様と一緒に選んだ。
ラルフ様の正装も何着か仕立てている。僕のは毎年着ないのに作ってたから、それを家から持ってきたし必要ない。それなのに、ラルフ様は僕の正装まで仕立ててくれた。
半月もすると、ラルフ様はやっとこの屋敷の生活にも少し慣れてきたみたい。家の中では片手剣を帯剣しなくなった。朝起きて、僕を見つけて反射的に距離を取るってことも減った。完全に無くなったわけじゃないけど、毎朝だったのが、二日に一回になって三日に一回になった。
夜中に寝返りをうって、ラルフ様に触れてしまった時は焦った。一瞬にして僕に馬乗りになって首に手を掛けられたから。
でもすぐにラルフ様は僕だと気付いて「すまない」と退いてくれた。その夜は、何度言ってもベッドに上がってくれなくて、ベッドの横の床でずっと平伏していたから、僕の方が申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
一緒に寝るのは間違いなんだろうか? ラルフ様は僕に全然手を出してこないし、僕ではダメなのかな?
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