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八章:決着 アダム視点
62.『石男』の闇
しおりを挟む「お前のような者がハーマインに生まれたことが私の人生における最大の汚点だ!」
「ごめんなさい、お父様」
「地に頭を擦り付ける暇があれば魔力を増やせ! この出来損ないが!」
「痛い、痛いよ……お父様……」
*
『石男』もまた魔力が少なく幼い頃から虐げられてきた。
『石男』の場合はロディほどではなく、魔力は190。貴族の平均が300で高位貴族では500を超える者がいることを考えると少ない。だが平民の平均150と比べれば底辺というわけではない。
ロディと同じように父親である前伯爵に罵倒され魔術の的にされてきたそうだ。
自分よりも更に魔力の少ない息子が生まれたことは、『石男』にとって幼き頃を思い起こさせた。
なんとかしなければと父親に息子が見つかる前に森の小屋に移し、他国から仕入れた魔力を増やす薬を与えてみた。しかし結果は思わしくなかった。続けて飲ませなければ効果がないと秘密裏に薬を仕入れてはロディに与えた。
森の小屋に住まわせたのはいいとして、森に置き去りにしたり、魔術の的にして罵倒したり、食事も最低限しか与えてこなかったことは事実で、虐げていたことを認めた。
「だ、だが、森に置き去りにはしたが、死ぬことがないよう見守ってはいたんだ……」
そうは言ったが、ロディが受けた恐怖や痛みは変えられない事実だ。幼い子どもにするようなことではない。
「父親にされて傷ついたことをローデリックにしてきたのは、私の弱さが原因だと思う」
家に帰ると後悔したが、やっぱり魔力が少ないロディを見ると許せない思いが湧いた。父親にロディが見つかると、「お前の息子だから魔力が少ないんだ!」と罵られ、「死なせてやれ」とまで言われたそうだ。
それからも、父親が死ぬまでずっとロディのことで責められ、その憤りをロディに向けた。
「ロディの体は傷だらけだ。魔術の的にして治癒さえかけないなんて非道なことをしてきたくせに」
「アダム、俺の体の傷はナイフみたいな爪の怖い奴や、角が生えた奴にやられたんだ。あと、木から落ちた時のもある」
へ? そうなの? 僕はてっきりあの傷は『石男』がやったのだとばかり……
「ローデリックがロイター辺境伯の婿にと言われた時、魔術の実験にでも使われるんだろうと思った。憐れむ反面、もう面倒を見なくていいと安心もした。誰かと生きていくなど無理だと思っていたし、生活能力もないから、すぐに死んでしまうと思っていた。
だから新年の祝賀会でローデリックを見た時は驚いた。今までの私が間違いだったのだと分かった。
ローデリック、すまなかった」
最後には声を震わせながら『石男』がロディに頭を下げた。
僕は複雑な思いだ。『石男』がロディを虐げてきた事実は変わらない。しかし、これで貴族籍を抜かれていなかった理由が分かった気がする。全く愛情がないわけではなかったのかもしれない。
本当か?
「あの……」
「どうしたロディ。何か言いたいことがあるなら言うといい僕がついてる」
ロディは僕の手を握りしめて、『石男』を見た。『石男』もゴクリと喉を鳴らしてロディを見た。罵倒されるのを覚悟したのかもしれない。
「あなたは誰ですか? 名前も知らないし、私のことが嫌いなら会いに来なくてもいいのではないですか?」
えーー!? そこ? もしかして、ロディは『石男』が父親だということを理解していないのかもしれない。『石男』も貴族とは思えないような間抜けな顔を晒してしまっている。
「ゴホンッ、私はヨーゼフ・ハーマイン、ローデリックの父親なんだが……言っていなかったか?」
「父親……そうだったのか。私を産んだ人?」
「いや、私は男だから子は産めない。ローデリックの母親はずいぶん昔に亡くなっている」
「そうですか」
ロディは何かを考えている。難しい顔をして黙ってしまった。母親に会ってみたかったんだろうか? それとも、『石男』が父親と知ってショックを受けているんだろうか?
この場のみんながロディの次の言葉を待った。こんなに人がいるのに、一切の物音を立ててはいけないと暗黙の了解の中で成り立つ静寂。
「父親とはなんですか? 私とどういう繋がりがある?」
はい? ロディは閨教育を受けているんだよな? まさか眉毛のじいさんは、肝心なところを教えなかったのか?
男と結婚するんだから子を成す行為であるという説明を省いたのか?
「やはり教育が不十分だったようだ。私はローデリックの父親で、子どもは父親と母親がいないとできない。ローデリックには父親である私の血が半分流れているということだ。容姿や性格、体質などが引き継がれている」
ロディはなぜかこの世の終わりという顔をして頭を抱えて顔を伏せてしまった。『石男』の血を引くことがそんなにショックだったのか? 『石男』もロディの様子にショックを受けているように見える。
「ごめんアダム……」
「どうした?」
ロディが謝ってきたが、僕にはその理由が分からなかった。
「俺は悪魔だ。いつかアダムを傷つけてしまう。そばにいない方がいい」
僕はロディが何を言っているのか分からなかった。
頭を鈍器で殴られたみたいに、思考が全部止まって、ロディの震える肩をずっと眺めていた。
両親や『石男』が何かを言っていたけど、何も聞き取れなくて、何も理解できなかった。
そのまま何時間経ったのか分からないが、ふと気付くと、僕は応接室のソファに横になっていて、両親が心配そうに僕を見ていた。目だけでロディを探したけど、そこにはロディも『石男』の姿もなかった。
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