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七章:帝都 ロディ視点
53.イケメン帝都を観光する
しおりを挟む「アダム、帝都にも冒険者ギルドはある?」
「あると思うぞ。行きたいのか?」
「依頼は受けないが少し見てみたい」
「じゃあ行こう」
アダムと手を繋ぎ、カミーユとフライツを連れて街を歩く。
「アダムヘルム様、監視がいますね」
フライツがボソッと周りには聞こえないような小さな声で言った。
「構わない。何もおかしなことはしないし、僕たちは観光するだけだ。堂々としていればいい」
アダムは強くて格好いい。
監視というのは、俺たちの行動を見ている人がいるということだ。他国から来て何か企んでいると思われているのかもしれない。
美味しいものを食べて、きれいな景色を見る。冒険者ギルドには行くけど、変なことはしないから、アダムの言うように堂々としていればいいんだ。
食事の時にジッと見られると、俺は失敗して豆が転がったりスープを溢したりしてしまうけど、まさか食事の時もじっくりと見られるんじゃないよな?
「お! イケメンだな、今夜どうだ?」
冒険者風の男が俺の前に立ちはだかってそんなことを言った。
「おい、僕の夫に近づくな」
「なんだ男連れかよ」
「あら、イケメンね。あたしと遊ばな~い?」
今度は酔っ払って唇を真っ赤に塗った女が声をかけてきた。
「僕の夫だ。手を出したら命はないと思え」
アダムの怖い声に女は無言で立ち去った。
やたらと人が声を掛けてくるんだが、俺が戸惑っている間にアダムが全部対処してくれる。俺は知らない人に話しかけられてもどうしたらいいのか分からない。アダムはきっと慣れてるんだ。
アダムは魔術だけでなく、人との関わり方も上手い。俺はアダムに学ぶところが多すぎる。
よし、俺もアダムに頼ってばかりじゃダメだ。ちゃんと対処できるようにならなければ。
「あら、お兄さんイケメンね。この後あたしと二人でどう?」
今度は布面積の少ない服を着た女が腕を絡めてきた。香水の匂いが臭くてたまらない。
「近寄らないでくれるか? 臭くて息ができない」
「何よ! ちょっと顔がいいからって!」
なぜか女は怒ってどこかへ行った。
間違えたんだろうか? アダムのように上手くはできない。俺は相手を怒らせてしまった。
「ぶはっ、あはははは」
カミーユが吹き出して大きな声で笑い始めた。一体なんなんだ?
「ロディの断り方は面白いですね」
フライツが言った。俺の断り方が面白いからカミーユは笑ったのか。そのまま思ったことを言ったんだが、ダメだったのかもしれない。
「ロディ、想定以上だ。ローブでも買って街では顔を隠して歩いた方がいいかもしれない」
「顔を隠す? この国ではアダムのことを変な風に呼ぶ人はいないように感じるが、何か嫌なことでも言われたか?」
俺が気付かないうちにアダムが傷ついていたのかもしれない。守ると決めたのに……
「僕じゃなくてロディだよ。ロディがイケメンすぎるんだ」
「俺? 俺は悪口を言われても平気だ」
ずっと言われてきたから俺は慣れている。
「悪口ではない。ロディ、もしかして分かってない?」
アダムに言われて、俺は本当に分かっていないのかもしれないと思った。
「何がだ? 分かっていないかもしれない。教えてほしい」
アダム曰く、俺は顔が格好いいのだとか。だから色んな人に狙われるのだと言われた。『イケメン』というのは格好いい男のことを指す言葉なのだと説明された。
「俺の顔は普通だと思う。アダムみたいに可愛くはない。アダムの勘違いではないか?」
「やっぱり無自覚か。僕の手、放さないでね」
「分かった。絶対に放さない」
言われなくても放したりしないが、放さないでと言われると、アダムが俺のことを望んでくれているようで嬉しい。
「カミーユ、イケメンって知っているか?」
「ロディみたいな男のことっすね」
そうなのか。
「フライツ、俺の顔は格好いいのか?」
「はい? 自慢ですか? それとも嫌味ですか?」
「どちらも違う。質問です」
何だか怒られそうな雰囲気で、思わず丁寧な言葉が出てしまった。
「ロディは格好いい。美しいですよ。誰が見てもイケメンです。突然どうしたんですか? 見目麗しい貴方は攫われたりしないよう、私たちから離れないよう気をつけてくださいね」
俺が攫われた時にも赤い髪の男は俺のことをイケメンと言っていた気がする。イケメンとはアダムがつけた俺の呼び名の一つで、それを他の人も知っているのかと思っていた。
その後アダムが白いローブを買ってくれた。この国の服は色とりどりの刺繍が入っている。俺のローブも裾に青と紫の糸で植物の刺繍が入ったものだ。
「これ、逆効果じゃないっすか~? ロディのイケメンはローブのフードくらいじゃ隠し切れないっす」
カミーユが頭の後ろで手を組んで歩きながら言った。
フードを目深に被って顔が半分隠れるようにしていたんだが、また人が寄ってきたんだ。カミーユが言った通りになった。
そして、その次に寄ってきたのは、俺たちを監視してる帝国の兵たちだった。
「護衛させていただきます。貴殿らに無作法に近づく輩が多すぎる。万が一があってはいけません」
こうして俺たちはこの国の兵に囲まれて歩くことになった。帝都は不便だ。
結局、冒険者ギルドには行けなかった。
しかし、小さい店で売っている甘辛いのがかかった肉が美味しかった。ピリッと辛かったんだが、そんな刺激的なものを食べたのは初めてで、感動していると、帝国の兵の一人がもう一本買ってくれた。
「ありがとう。これはとても美味しい」
感謝を伝えたんだが、なぜか彼は顔を真っ赤にして俯いてしまった。体調が悪いなら無理をしなくてもいいのに。
その後、大きな時計台に登って帝都を見たり、闘技場も見せてもらった。年に二十回、闘技大会が開催されるそうだ。
「アダム、あっちの建物はとても小さいな。あの人たちはなぜ家のベッドでなく道で寝ているんだ? 酔っ払いにしては多くないか?」
「あぁ、あっちはスラムだろうな。シュトラールの王都の端にもスラムはあるぞ」
その後アダムにスラムというものを教えてもらった。仕事も金もなく、家もない人たちや、貧困の人が住んでいるそうだ。
「俺も金も仕事もない」
「ロディは僕の夫という仕事がある」
「冒険者もやってるじゃないっすか」
アダムとカミーユに言われて、俺にも仕事があることを知った。そうか。俺は仕事があるんだ。
道で寝ている人たちを横目に見ながら進んでいると、アダムが急に足を止めた。
「どうした?」
「見つけた……」
何を見つけたのかと不思議に思っていると、周りに何かおかしな揺らめきがあった。次の瞬間、アダムが寝ている人のうちの一人を魔術で拘束していた。
「ロディ、観光は終わりだ。帰るぞ。
帝国兵、あの女は僕の事件の重要参考人というか犯人の一人だ。僕が引き取って構わないよな?」
「え、えぇ、もし尋問の際に帝国でも犯罪を犯していることが判明した場合には、連絡いただければと」
兵たちもいきなりのことで戸惑っている。
観光は終わりか。事件の犯人を見つけたのなら帰るのも仕方ない。
「カミーユ、フライツ、僕たちは先に帰る。もう日も暮れるからお前らは帝都で一泊して明日帰ってこい」
アダムは二人に少しお金を渡して、すぐに飛び立った。
犯人と言われた人は魔術でできた網のようなものに入れられて吊るされている。眠っているのかとても大人しく、暴れたり声をあげたりもしなかった。
「ロディ、帝都には改めて観光に来よう。その時は冒険者ギルドにも行こう」
「分かった」
アダムはそれっきり難しい顔をして考え込んでいる。
空を飛んでいると、山に日が沈んでいくのが見えた。燃えるように真っ赤なお日様が、ゆっくりと空を染めながら下りていく。その景色がとても綺麗だと思った。
「綺麗だ。アダムとこんなに綺麗な景色が見られるなんて幸せだ」
「ロディ、僕はいつもロディに救われる。ありがとう」
アダムは真っ赤に染められた空を見ながらそう言った。
アダムがなぜ俺にありがとうと言ったのか分からない。ありがとうを言うのは俺の方だ。こんなに綺麗な景色を見られるのは、アダムが俺を連れて空を飛んでくれたからだ。
「アダム、ありがとう。この景色を見られたのはアダムのおかげだ」
そっと抱きしめて、どうしてもキスしたくなって、アダムの額と頬にキスをした。
下に網の中に入った人がいるから、口にするのはやめておいた。家に帰ったらたくさんキスしよう。
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