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七章:帝都 ロディ視点

52.悪い奴らの顛末

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 帝都は王都みたいにとても賑わっていた。王都を含めシュトラール王国では黒や灰色の石で作られた建物が多いが、帝都では茶色の石で作られた建物が多い。だから少し街の景色が違って見えた。
 大きな城の門の近くに降り立つと、カミーユとフライツもすぐに馬でやってきた。
「さぁ行くぞ」

「冒険者か? ここはお前らが来るところではない」
 門のところに立つ兵は俺たちに向かってそう言った。
「アダムヘルム・ロイターだ。行くと手紙は出した。先日の戦争で僕の顔を見た者は多い。戦争に参加した者を連れてきて確認してもいいぞ」
 アダムがそう伝えると、兵の一人が慌てて城に走っていった。

「少しお待ちください。すぐに確認します」
 兵はさっきの睨みつけるような態度ではなく、少し緊張した様子で丁寧な言葉を使った。

 少し待っていると、遠くから男が何人か走ってきた。
「ロイター辺境伯、お待たせして申し訳ございません。そちらが貴方様の最愛の旦那様ですか。話には聞いていましたが、大変見目麗しいお方で」
「大将が自ら迎えに来るのはいいが、僕の夫に色目を使うな」
 アダムはとても機嫌が悪い。俺はアダムと繋いだ手に少し力を込めた。そしたらアダムは俺に向き直るとニコッと微笑んで、ギュッと握り返してくれた。

「ロイター辺境伯ご一行をすぐに案内しろ!」
 アダムが『大将』と呼んだ大男が指示を出すと、俺たちは門の中に入ることができた。

 周りを囲む帝国の兵たちから変な視線を感じる。アダムを恐れているからだろうか?
 しばらく歩くと訓練場がいくつか見えた。だけど訓練場には行かず、その手前にある建物に入っていった。

 部屋に通されると、毛皮がかけてあるソファに俺とアダムが座って、その後ろにカミーユとフライツが立った。向かいのソファには『大将』と呼ばれた男と、細身の眼鏡をかけた男が座って、その後ろに三人の兵が立っている。
『大将』は大男で普通の人より幅がある。もう片方は細身だから二人でちょうどいいが、大男が二人だったら二人がけのソファには座れなさそうだ。
 アダムは小さくて細くて可愛いし、俺も筋肉の塊ような大男ではないからこっちは余裕だ。

「ロイター辺境伯の旦那様を攫った奴らの顛末でしたか」
「そうだ。それと六年前の夏の戦争についても聞かせてほしい」
「六年前? なんでしたっけ?」
『大将』と呼ばれた男は太い腕を胸の前で組んで首を傾げた。隣の細身の男はその腕を邪魔そうに見ている。

「私は覚えておりますよ」
 口を出したのは『大将』の隣に座っている細身の男だった。
「なんだったか?」
『大将』が言うと、ふぅーっと一度息を吐き出してから細身の男は話し始めた。
「フェイルとかいう男が第二皇女のラスタ様を攫って、我々はまんまと茶番に踊らされた。あの時のことですよ」
「あぁ、ラスタ様が変な男の遊びに付き合って城内が混乱したあれか。それなら俺も覚えている」

『大将』は六年前の戦争の話をしてくれた。
 ラスタ様という皇女が、フェイルというシュトラール王国の男と一緒に森に入って何日も狩りをしたらしい。
 その間に皇帝に『ラスタ様をロイター辺境伯で預かる、無事だといいな』という手紙が届いた。皇帝が皇女が攫われたと怒って、すぐにラスタ様を取り返すために軍を率いてロイター領に向かった。準備も不十分な状態で進軍したそうだ。

 戦争の準備は俺も見ていた。みんな忙しそうに働いていた。俺は邪魔をしないように見ていることしかできなかったが、なかなか時間がかかっていた。
 そして進軍して戦闘が開始された頃、ラスタ様は狩りを終えて普通に城に帰ってきた。元気な人で、楽しかったとそれはご機嫌な様子で帰ってきて、攫われたという事実もなく、慌てて撤退したのだとか。

「なるほど。フェイル・クライバーが僕の両親をロイター領に足止めするために起こした茶番だったわけか」
「足止め?」
「あぁ、六年前、帝国はフェイルに利用されたということだ」
 俺には何のことだか分からなかった。だけどアダムが少し怖い顔をしているから、よくないことなんだろう。

「ほう、我らを利用ですか」
「好きにするがいい。僕はそこには目を瞑ろう」
 目を瞑る? なぜ? アダムは眠くなったのか? 遠いところまで飛んだから疲れたんだろうか?
 ジッとアダムを見ていたが、目を瞑ると言ったのにずっと目を開けていた。不思議だ。

「それで僕の夫を攫った奴らはどうなった?」
「見に行きますか? 帝都におりますよ」
「牢に入れただけということはないだろうな?」
 アダムの発する声が低く背筋が凍るように冷たい。俺はただじっとみんなの話を聞いていた。
「彼らに相応しい場所で働いてもらっている」
「ほう、どこだ?」

「娼館だ。憂さ晴らしに一発やっていくか?」
「おい!」
『大将』がなんとも卑猥な腰の動き付きで嫌な笑みを浮かべた。アダムが怒っている。

 娼館というのはアダムが治める街にもある。その存在は兵に教えてもらった。相手がおらず、けれど性欲が抑えられない時や、癒されたい時に行くのだと。
 俺には信じられないことだったが、「ロディのように運命の相手に簡単に出会える者は少ない」と言われると、そうかもしれないと納得した。

 眉毛のおじいちゃん先生が言っていた。閨というのは別名『秘め事』と言って二人だけの秘密にするのが美徳とされていた時代もあるんだと。俺は話を聞いた時はその考えがよく分からなかったけど、アダムがキスは二人だけの秘密の時間にしたいと言ってくれたことで分かったんだ。

 キスも二人だけの時間だけど格闘も二人だけの秘密の時間だ。それはとても美しく尊い時間で、誰かと共有するようなものではない。
 結婚している俺やアダムに、娼館を勧めるなど失礼だ。それにアダムの前で変な動きをするのはやめてもらいたい。

「俺はアダムを愛しているから他の者とはしない。愛していない者の肌に触れるなど気持ち悪い」
「まぁ、そういう考えもあるが、憤りを発散したり、欲望を発散させたい者はいるんだ。そういう場所を作らないと、一般人を襲ったり攫ったりする奴が出てくる」
 なるほど、アダムが言っていた『変態』というやつだな。俺にはその考えが理解できなくてよかった。その考えに賛同できるようなら、アダムに嫌われていたかもしれない。

 愛していないものに触れられるのはとても苦しい罰だと思った。魔術の石を当てられるより嫌かもしれない。
 俺はそんなことをされなくてよかった。


  
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