52 / 75
七章:帝都 ロディ視点
52.悪い奴らの顛末
しおりを挟む帝都は王都みたいにとても賑わっていた。王都を含めシュトラール王国では黒や灰色の石で作られた建物が多いが、帝都では茶色の石で作られた建物が多い。だから少し街の景色が違って見えた。
大きな城の門の近くに降り立つと、カミーユとフライツもすぐに馬でやってきた。
「さぁ行くぞ」
「冒険者か? ここはお前らが来るところではない」
門のところに立つ兵は俺たちに向かってそう言った。
「アダムヘルム・ロイターだ。行くと手紙は出した。先日の戦争で僕の顔を見た者は多い。戦争に参加した者を連れてきて確認してもいいぞ」
アダムがそう伝えると、兵の一人が慌てて城に走っていった。
「少しお待ちください。すぐに確認します」
兵はさっきの睨みつけるような態度ではなく、少し緊張した様子で丁寧な言葉を使った。
少し待っていると、遠くから男が何人か走ってきた。
「ロイター辺境伯、お待たせして申し訳ございません。そちらが貴方様の最愛の旦那様ですか。話には聞いていましたが、大変見目麗しいお方で」
「大将が自ら迎えに来るのはいいが、僕の夫に色目を使うな」
アダムはとても機嫌が悪い。俺はアダムと繋いだ手に少し力を込めた。そしたらアダムは俺に向き直るとニコッと微笑んで、ギュッと握り返してくれた。
「ロイター辺境伯ご一行をすぐに案内しろ!」
アダムが『大将』と呼んだ大男が指示を出すと、俺たちは門の中に入ることができた。
周りを囲む帝国の兵たちから変な視線を感じる。アダムを恐れているからだろうか?
しばらく歩くと訓練場がいくつか見えた。だけど訓練場には行かず、その手前にある建物に入っていった。
部屋に通されると、毛皮がかけてあるソファに俺とアダムが座って、その後ろにカミーユとフライツが立った。向かいのソファには『大将』と呼ばれた男と、細身の眼鏡をかけた男が座って、その後ろに三人の兵が立っている。
『大将』は大男で普通の人より幅がある。もう片方は細身だから二人でちょうどいいが、大男が二人だったら二人がけのソファには座れなさそうだ。
アダムは小さくて細くて可愛いし、俺も筋肉の塊ような大男ではないからこっちは余裕だ。
「ロイター辺境伯の旦那様を攫った奴らの顛末でしたか」
「そうだ。それと六年前の夏の戦争についても聞かせてほしい」
「六年前? なんでしたっけ?」
『大将』と呼ばれた男は太い腕を胸の前で組んで首を傾げた。隣の細身の男はその腕を邪魔そうに見ている。
「私は覚えておりますよ」
口を出したのは『大将』の隣に座っている細身の男だった。
「なんだったか?」
『大将』が言うと、ふぅーっと一度息を吐き出してから細身の男は話し始めた。
「フェイルとかいう男が第二皇女のラスタ様を攫って、我々はまんまと茶番に踊らされた。あの時のことですよ」
「あぁ、ラスタ様が変な男の遊びに付き合って城内が混乱したあれか。それなら俺も覚えている」
『大将』は六年前の戦争の話をしてくれた。
ラスタ様という皇女が、フェイルというシュトラール王国の男と一緒に森に入って何日も狩りをしたらしい。
その間に皇帝に『ラスタ様をロイター辺境伯で預かる、無事だといいな』という手紙が届いた。皇帝が皇女が攫われたと怒って、すぐにラスタ様を取り返すために軍を率いてロイター領に向かった。準備も不十分な状態で進軍したそうだ。
戦争の準備は俺も見ていた。みんな忙しそうに働いていた。俺は邪魔をしないように見ていることしかできなかったが、なかなか時間がかかっていた。
そして進軍して戦闘が開始された頃、ラスタ様は狩りを終えて普通に城に帰ってきた。元気な人で、楽しかったとそれはご機嫌な様子で帰ってきて、攫われたという事実もなく、慌てて撤退したのだとか。
「なるほど。フェイル・クライバーが僕の両親をロイター領に足止めするために起こした茶番だったわけか」
「足止め?」
「あぁ、六年前、帝国はフェイルに利用されたということだ」
俺には何のことだか分からなかった。だけどアダムが少し怖い顔をしているから、よくないことなんだろう。
「ほう、我らを利用ですか」
「好きにするがいい。僕はそこには目を瞑ろう」
目を瞑る? なぜ? アダムは眠くなったのか? 遠いところまで飛んだから疲れたんだろうか?
ジッとアダムを見ていたが、目を瞑ると言ったのにずっと目を開けていた。不思議だ。
「それで僕の夫を攫った奴らはどうなった?」
「見に行きますか? 帝都におりますよ」
「牢に入れただけということはないだろうな?」
アダムの発する声が低く背筋が凍るように冷たい。俺はただじっとみんなの話を聞いていた。
「彼らに相応しい場所で働いてもらっている」
「ほう、どこだ?」
「娼館だ。憂さ晴らしに一発やっていくか?」
「おい!」
『大将』がなんとも卑猥な腰の動き付きで嫌な笑みを浮かべた。アダムが怒っている。
娼館というのはアダムが治める街にもある。その存在は兵に教えてもらった。相手がおらず、けれど性欲が抑えられない時や、癒されたい時に行くのだと。
俺には信じられないことだったが、「ロディのように運命の相手に簡単に出会える者は少ない」と言われると、そうかもしれないと納得した。
眉毛のおじいちゃん先生が言っていた。閨というのは別名『秘め事』と言って二人だけの秘密にするのが美徳とされていた時代もあるんだと。俺は話を聞いた時はその考えがよく分からなかったけど、アダムがキスは二人だけの秘密の時間にしたいと言ってくれたことで分かったんだ。
キスも二人だけの時間だけど格闘も二人だけの秘密の時間だ。それはとても美しく尊い時間で、誰かと共有するようなものではない。
結婚している俺やアダムに、娼館を勧めるなど失礼だ。それにアダムの前で変な動きをするのはやめてもらいたい。
「俺はアダムを愛しているから他の者とはしない。愛していない者の肌に触れるなど気持ち悪い」
「まぁ、そういう考えもあるが、憤りを発散したり、欲望を発散させたい者はいるんだ。そういう場所を作らないと、一般人を襲ったり攫ったりする奴が出てくる」
なるほど、アダムが言っていた『変態』というやつだな。俺にはその考えが理解できなくてよかった。その考えに賛同できるようなら、アダムに嫌われていたかもしれない。
愛していないものに触れられるのはとても苦しい罰だと思った。魔術の石を当てられるより嫌かもしれない。
俺はそんなことをされなくてよかった。
296
お気に入りに追加
484
あなたにおすすめの小説


身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる