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四章:進展 アダム視点
41.閑話:暗躍する影
しおりを挟む「『破壊神』は領地に戻ったようだな」
「学園に行くこともありませんでしたね」
「ということは奴らは気付いていないのでは?」
ここに集まる三つの影。
窓の無い狭い部屋で膝を突き合わせ、何か良からぬことを企んでいるようだ。
「油断はできませんよ。未だにこそこそ嗅ぎ回っている奴らがいるようですし」
「なぜ『破壊神』が突然、社交界に出てきたんだ? あの美しい男は夫だと言っていたが誰なんだ?」
「誰に聞いても分からないと言われております。他国から見つけてきたのでは?」
「見目麗しい冒険者でも攫って必死にマナーを叩き込んだのかもしれませんね」
「それを見せびらかしに来たと?」
「だとしたら王命での結婚という噂はどう説明する?」
「いずれにせよ『破壊神』自体は動いていないと見ていいでしょう」
「それにしても『破壊神』とはよく考えられた名前ですな。名前のせいでかなり噂にも尾鰭がついたとか」
「呼びやすい名だろ? エアガイツ公の次男が付けたらしい。彼はよく動いてくれた。さすがエアガイツ公の子息だ」
「ふっ、思ってもないことを」
「互いにな。あの狸め」
「まあ、我々もおこぼれをいただいているのですから悪口はいけませんよ」
「エリスレーベンとかいう教師はしっかり口止めしてあるんだろうな?」
「それは抜かり無く。そろそろ不慮の事故が起こるかもしれませんね」
「例の魔術師はどうしているんだ? 術が解けることはないんだろうな?」
「あぁ、術が解ける心配はないと聞いていますが、彼は素行が悪くてですね、不慮の事故で亡くなられたそうですよ」
「不慮の事故……」
「まぁ、よくある話だ」
「それでどこに拠点を移すんだ? もう五年も経ったんだからそろそろ動き出したい」
「ハーマイン伯爵領を予定しております」
「ハーマインか。あの趣味の悪い石が好きな奴だろ?」
「あいつは金になる話なら簡単に乗ってきますよ。いざとなったら全てハーマインになすり付けて我らは知らんふりです」
「学園は隠れ蓑に最適だったんだがな……」
「あれは無理があっただろ」
「学園の地下でまさか違法な薬草を育てているなど誰も考えんからな」
「おい、誰が聞いているか分からん。迂闊なことを口にするな」
「こんなところに誰も近付きやしませんよ。ここは防音もしっかりしていますしね」
「気にしすぎですよ」
「そうならいいんだ」
「『破壊神』が出てきて警戒されるのも分かりますが、ここは大丈夫でしょう」
やはりアダムの学園破壊事件には裏があったようだ。
そしてこの小さな部屋に魔道具を仕掛けている夫婦がいることを彼らは知らない。
*
「旦那様、とうとう尻尾を見せましたね。しかしこの音声だけでは証拠として足りません。決定的な証拠を見つけないと」
「まさか薬物か、学園の地下にでも金の帳簿を隠していたのだと思っていたが大事になったな。とにかくこのまま私たちで調査を進めよう」
「私は研究施設に戻るわ。例のものがやっと完成しそうなの」
「分かった、私は薬物の流れを追ってみる」
二人の影は夜の闇にそれぞれ消えていった。
*
ロイター領に戻るとアダムヘルムが兵舎を眺めて首を傾げている。
「アダム、どうかした?」
「いや、昔は兵舎が八棟あった気がするんだ」
「一、二、三、……ん? 七棟だな。俺が数を数え間違ったか?」
「いや、今は何度数えても七棟だ」
よく分からなくなってアダムとロディは二人して首を傾げた。
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