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四章:進展 アダム視点

33.新年の祝賀会

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 僕たちが会場に足を踏み入れると、やはり僕を避けるように人が割れていく。珍しく『破壊神』が出てきたことにも驚いているんだろうが、その隣にはイケメンがいる。
「あれは誰だ?」
「ロイター辺境伯の親戚か?」
「『破壊神』と手を繋いでないか?」
「あの美しい男の情報は無いのか?」
 色んな声が聞こえる。僕が参加したことよりもロディは誰なのかという声の方が多いな。

「アダム、嫌な視線が多い」
「そうだね。ここには悪い奴がたくさんいる」
 魔物のように身体に直接攻撃をしてくる者はほとんどいないが、精神攻撃は息をするようにそこら中で行われている。

「夜会とは出会いの場だと聞いていた。友人や仲間や恋人を見つけると。俺の想像とは違った。冒険者ギルドの方が好きだ」
 冒険者か。そうだな、僕もそう思う。彼らは丁寧な言葉を知らないが、集団で精神攻撃を仕掛けてきたり、姑息なことはしない。手は出るかもしれないが、そっちの方が表裏がなく分かりやすくていい。

 一瞬、本当に一瞬、ロディの手に力が入った。何かと思ってロディの視線の先を辿ってみると、ある男がいた。もしかしてあれが『石男』か?

「ロディ、あの男を知っているのか? もしかしてあいつがロディに魔術を当てたのか?」
「はい」
 ロディの「はい」は緊張と少しの怯えを含んでいた。
 あの年齢なら父親だろうな。
 そこには確かに『キラキラした石がついた服を着た男』がいた。襟やボタンの部分に宝石らしきものが嵌め込まれている。遠目からではその石が本物の宝石かどうかは判別できなかった。

 宝石がついた指輪やペンダントをする者は多いが、石がついた服はあまり見たことがない。羽振りの良さをアピールしているんだろうか?
 男はこちらを見ることはなかった。あえて見ないようにしている感じもある。僕のことが怖いせいかもしれない。

 ドリンクを取りに行きたいが、僕が行くとウェイターは逃げてしまう。
「ロディ、ウェイターからドリンクをもらってきてくれないか? 僕とロディの分を」
「分かった」
 こうなることは予想していたため、ロディにはあらかじめ話してあった。ロディは硬い表情のまま、すぐに僕から離れてウェイターの元へ向かった。

 まだ素性が分からないイケメンのことは、様子見している者ばかりだ。スルスルと人波を掻き分けて、ロディは飲み物を持ってきてくれた。
「アダム、これ王都の近くで採れたフルーツが絞ってあるからお勧めだって言われたよ」
「ありがとう」
 ロディはウェイターと話までしたのか。
 グラスを受け取ると、間も無く王家の者たちが入場してきた。
 陛下は僕とロディをチラッと見ると、満足そうに頷いた。ちゃんと頂いたタイもしていますからね。

 陛下の新年の挨拶が終わると音楽が流れる。中央にはダンスのために二人組が多数集まってきている。
「アダム、踊る?」
「踊るか。せっかくロディが練習してきたんだ」
 僕たちも手を繋いだまま中央から少し離れた場所へ進んでいく。
 向き合うと、ロディは僕に優しく微笑んだ。
 イケメンは森に佇んでいてもイケメンだが、華やかな場所も似合う。毎日見ている顔なのに、まだ僕はロディの微笑み一つでドキドキしてしまう。

 僕たちは控えめに踊った。大きくステップを踏んで中央に出ていくことも可能だが、僕が近付くとみんなが避けるからだ。他人のダンスの邪魔はしたくない。
 僕もダンスは久しぶりだった。ロディとは何度も練習に付き合ったけど、人前で踊るのは本当に久しぶり。
 音楽が鳴り止むと、ロディは楽しかったと言った。ロディが楽しいなら来た甲斐がある。連れてきてよかった。

 僕が隣にいるせいで、ロディに視線を送るも近付けない男女が大勢いる。僕は少し離れるか。恋人を見つけられたら困るが、友達や仲間を見つけるのは悪いことじゃない。
「ロディ、僕はちょっと夜風に当たってくるね」
「俺も行く」
「一人で行くから、ロディは会場にいて」
「分かった」
 そんな寂しそうな顔をされると、僕がロディを虐めているみたいに思えてくる。僕はただ、ロディに貴族との関わりを持つ機会を与えたかった。
 僕が知り合いを紹介してあげられたらよかったんだけど、僕に近付く者はいないから……

 僕が一人離れていくと、ロディの周りには人が集まった。『石男』の動きだけは注意しておこう。接近するようなら助けに行かなければいけないから。

 テラスに一歩出て会場を見渡す。ん? 失敗したかもしれない。嫌な魔力の流れを感じる。『石男』ではない。あいつはずっと観察しているが、ロディから距離をとってチラリとも見ないからな。
 嫌な魔力の流れはロディがいる付近に集まっている。
 魔道具があるとはいえ、やはり心配になり、僕はロディの元へ向かうことにした。
 ごめん。友達を見つける機会を奪ってしまって……

 ロディはベタベタと周りの男女に触られていた。絡みつくような魔力は魅了か。しかも複数人から発せられて、ロディに絡みついている。魔道具があるから魅了の効果は無さそうだが、絡みつく魔力にロディは動きを封じられて、身動きが取れなくなっていた。魔力が少ないからだろうか?

「僕の夫を返してもらえる?」
 その言葉に、ロディを囲んでいた奴らが一斉に僕の方を向いた。僕は喧嘩するつもりはない。何もされなければ。だからにこやかに言ってみたんだ。
 もちろんロディに絡みつく魅了や怪しい魔力は強制的に剥ぎ取ったけど。

 ロディから離れた奴らがコソコソと、悪口を言っている。
「『破壊神』に目をつけられた彼が可哀想だ」
「彼を救い出せる者はいないか?」
「『破壊神』は恐怖で美しい男を支配しているのか? とんでもないな」
 そうか、そういう話になってくるのか……

「アダム! 愛してるよ」
「へ?」
 囲んでいた奴らが距離をとると、ロディは僕に駆け寄り抱き上げて、イケメンスマイルを発動した。
 こ、こんなところで何を……

「アダムは可愛くて、格好良くて、優しい。私の自慢の夫だ。みなさん、申し訳ないが私は夫以外と踊る気はありません」
 うん。それは分かったけど、なぜ僕を抱き上げたままでいるんだ?

 辺りはザワザワしている。当たり前だ。『破壊神』と呼ばれる僕の夫を名乗るイケメンが現れたんだから。近づいたら爆破されると言われる僕を抱き上げているんだから。


  
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