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四章:進展 アダム視点
32.王都へ
しおりを挟む「ロディ、雪が本格的に積もる前に出掛けるぞ」
「街か? それとも森か?」
外はもうかなり寒い。あと半月もすれば雪に埋もれて交通網が麻痺する。その前に王都へ出発する。
そう、新年の祝賀会に参加するんだ。正装も仕立てたし、タイは陛下がくれたものを着ける。タイピンはお互いの目の色の宝石で作った。
僕はサファイア、ロディはアメジストのタイピンを着ける。
そんなことだけで嬉しくなってしまうんだから、僕はロディにメロメロなんだろう。
「箱に乗って行くんだな」
「ん? ああ、馬車のことか。そうだな。途中で街に立ち寄りながら行くんだ」
「アダムと色々な場所に行けるなんて楽しみだ」
僕も楽しみだ。馬車での移動なんて楽しいと思ったことはなかったんだが、ロディと一緒なら絶対楽しい。
ロディは夜会に参加するというと、俺が行ってもいいのかと不安そうにしていたが、僕は春からずっとロディが真面目に勉強してきたことを知っている。何の心配もない。
心配があるとすれば、『石男』のことと、僕のことだ。『石男』は近付いてこないんじゃないかと思っている。『石男』だけでなく、僕に近付く人なんかいないんだけど。
王都に到着したのは年末のギリギリだった。途中の街で雪が降って足止めされたせいだ。積もった雪を魔術で溶かすことはできるけど、天候を操作することはできないから吹雪の時は移動できない。
僕が王都に来て一番最初にしたことは、魔道具屋に行くことだった。
イケメンのロディをものにしようと、幻惑や魅了という怪しい魔術を使う者が出るかもしれない。それを阻むため、魔道具で精神操作系の魔術や呪いを阻む結界を仕込んだ魔道具を買うことにした。
僕が四六時中ついていればいいんだけど、誰も近寄ってこないからロディも楽しめない。
魔道具はペンダント型にした。一応お揃いだ。
僕のは青色の石、ロディのは紫の石。それぞれ互いの目の色の石を選んだ。タイピンと同じだ。違うのは宝石ではないというところか。僕のは魔道具ではなくただのペンダントだ。何かの魔術を込めようと思えば込めることができるけど、今回は何も込めなかった。
ロディはペンダントを大切そうに両手で包んで、嬉しいと微笑んだ。
あぁ、また不意打ちだ。僕はドキドキしながら、自分の胸にかかった青色のペンダントに視線を落とした。
「アダム、俺の格好はこれで大丈夫か?」
夜会に参加するということでロディが緊張した様子で聞いてきた。
「うん。格好いいからたくさんの人に囲まれちゃうかもね」
そう言ったら、ロディは困った顔をした。
ロディを着飾りすぎたかもしれない。本当にこんなに見目麗しい男が僕のお婿さんで、僕を一途に愛してくれるなんて信じられない。
いつもと違うロディに見つめられるだけでドキドキしてしまう。これは注目を集めそうだ。
王都に来たのは、学園を退学して王都を去る時以来だ、懐かしいというよりは嫌な思い出しかない。
だから僕は魔道具屋に行く以外には外出しなかった。それでも当時のことを思い出すと少し怖かった。
今日はロディの晴れ舞台。いつまでも怖気付いていられないと僕は気合を入れた。
正装に身を包んだ僕たちが向かう先は王城だ。学園の横を馬車が通ると、ズキリとこめかみが痛んだ。嫌な思い出のせいかもしれない。何年も経ったのに、もうロディがいて幸せだから大丈夫だと思っていたのに、まだまだ弱い自分が情けない。
「アダム、怖いか?」
「え?」
「俺が付いているから大丈夫だ」
「うん、ありがとう」
ロディには分かってしまったようだ。僕の手をそっととって、その甲に軽く口付けをしてくれた。
いつの間にそんなことを覚えたのか。兵たちだろうか? まさか眉毛のじいさんじゃないよな?
ロディがそんなことをするから、心の奥底にドロドロと絡みついたあの頃の嫌な気持ちは一気に吹き飛んだ。僕のお婿さんはこんなところでもイケメンだ。
王城ではまず控え室に通される。
最後に来た時は、部屋には僕一人だった。城の使用人もこの部屋には入らなかったし、僕も使用人や護衛を入れなかった。
今日はロディがいて、王都の屋敷から執事のハドリットと、護衛としてアストロとトミーを連れてきている。
王都に到着したとき、屋敷の者たちはロディを見て驚いていた。イケメンだからということもあるが、僕との距離感が近いからだ。
寮にいたくなくて、屋敷に度々戻っていたのをハドリットは知っているし、事件の前は今みたいに控え室に付いてきていた。そこには両親もいたな……
遠い昔のことだ。
誰もが僕と距離を取るのを知っているから、常に隣にべったりと張り付いて、うっとりと僕を眺めているイケメンにびっくりしたんだろう。
しかもそのイケメンは時々僕を抱えて移動している。まあ、その、それは主に夜の格闘が激しかった翌日なんだが。それ以外も常に手を繋いで歩いているし、人目も憚らず抱きしめたりもしている。これが僕たちの日常だから王都の屋敷の使用人たちも早く慣れてほしい。
そんなことを考えながらボーッとハドリットが荷物を整理しているのを眺めていると、呼び出しがかかった。
「アダムヘルム様、ローデリック様、会場へ」
「分かった」
呼びにきた人に僕がそう答えると、ロディはキリッと引き締まった表情をして僕の手を取った。
髪をオイルで撫でつけて、パリッと正装を着こなす。今日のロディはいつもに増して格好いい。
でもその胸ポケットには、『モジャ』をこっそり入れてるんだ。ロディ曰く、慣れた香りで癒されるんだとか。可愛いな。
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