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三章:純真 アダム視点
30.『モジャ』の正体
しおりを挟むロディと会場の隅で『毛玉』料理を堪能していると、冒険者たちが寄ってきてロディを囲んだ。
僕は先に屋敷に帰ろうと思ったんだけど、ロディが繋いだ手を放してくれなかった。
「ローデリック様はやっぱり、あの巨体を魔術で見つけて魔術で倒したのか?」
「すごい魔術を使うのか?」
僕の夫だからか、みんな魔術で倒したと思ってるらしい。
「俺は魔術は使わない。可愛くて格好よくて愛しいアダムに買ってもらったこの剣で倒した」
僕はロディのその言い方にギョッとした。惚気? こんなみんながいる前で恥ずかしいよ。
「へぇ、俺も討伐に魔術は使わねぇ。同じだな」
「剣で戦う貴族もいるんだな」
冒険者たちは僕のことはスルーしてくれた。相手が『破壊神』だから触れてはいけないと思ったのかもしれない。
「『毛玉』のでかいやつは警戒心が強いだろ? どうやって近付いたんだ?」
「だよな。でかくなるほど逃げられる」
周りの冒険者たちもうんうんと頷いている。
そうなのか。知らなかった。『毛玉』はいつでも真っ直ぐ人に向かってくるものだと思っていた。大きい個体は警戒心が強く人に向かってこないから、討伐されることなく大きく育ったのかもしれない。
「『モジャ』を持っているといい」
でた! 『モジャ』
何かの時に一度その名を聞いた気がするが、何なのか聞くのを忘れていた。
「ん? なんだそれは? お前聞いたことあるか?」
「俺は知らねぇな」
「高価な魔道具か?」
魔道具なんかロディは持っていないと思うが、僕もその正体が気になっている。冒険者たちでも正体を知らないらしい。
「これが『モジャ』だ。アダムにあげようと思って森で摘んできた」
ロディが出したのは草だった。これが『モジャ』なのか?
今のところ『モジャ』は『毛玉』を狩るのに有効という情報しかない。僕はこれを持って森に行って『毛玉』を狩ってくればいいのか?
「この草が『モジャ』か。それでどんな効果があるんだ?」
「『毛玉』が寄ってくるのか?」
「魔物寄せの草か?」
効果は僕も気になる。この草、まさか魔物寄せの効果があるのか? そんなものを僕に渡すのはなぜだ?
「いい匂いがするから、アダムにあげようと思って摘んできた」
「あ、うん。ありがとう」
僕は『モジャ』を受け取ると、いい匂いがするというので匂いを嗅いでみた。ん? んん? これはイケメンの匂い?
「『モジャ』はいい匂いがするんだ。『毛玉』が住んでいる場所によく生えている。だからこれを持っていると、人の匂いが薄れて近付けるんだと思う」
なるほど。そういうことか。
ロディは『モジャ』を日頃から持ち歩いているのかもしれない。
僕の中では『モジャ』=イケメンの匂いなんだが、冒険者は『モジャ』に興味津々だ。
これ、香水にしたら売れるんじゃないか?
「『モジャ』はどこに生えてるんだ?」
「やはりなかなか見つけられない希少な草か?」
そこは重要だな。香水を作るにしても、材料が希少なら高くなってしまう。
「その辺に生えている。そこにも小さいのが生えている」
「うぇ? どこだ?」
「あ、今踏んだ」
「ええー?」
冒険者たちが慌てて足を退けると、小さいが、確かに僕の手の中にあるのと同じ草が生えていた。
冒険者たちがそっと摘んで、みんなで囲んで匂いを嗅いでいる。
この絵面だけ見るとシュールだな。
「『モジャ』なら南東の森にも生えてるし、兵舎の裏やその辺の道端にも生えてるっす」
そこに来たのはロディと一緒に今日一番の巨体を狩ったカミーユだった。
兵たちは『モジャ』の存在を知っているのか。
そういえば、僕が『モジャ』という言葉を聞いたのはロディと兵の会話だった気がする。
「兵も知ってるってことは有名な草なんだな」
「有名かは知らないけど、ロディに教えてもらって兵の間で流行ってるっす。そのせいで兵舎の裏の『モジャ』はもう殆ど刈り尽くされてしまったっす」
ほう? もしかして兵舎の裏の草が綺麗に刈り取られていたのは、草引きをしたのではなく兵が『モジャ』を少しずつ摘んでいたのか。
え? ってことは兵たちもイケメンの匂いがするのか? 臭いよりはいいが、イケメンロディだけの香りじゃないと分かってしまったのは、少し残念だ。
何はともあれ、みんな楽しそうだし、狩りに参加していない街の人たちも『毛玉』を美味しそうに食べているし、開催してよかった。
ロディにぶつかってオレンジジュースを溢した子どもは、後で母親と一緒に震えながら謝りにきたが、ロディは「大丈夫だよ」と優しい顔でその子の頭を撫でていた。また一人ロディの虜になった。
そしてロディが僕の手をずっと握っていたから、部屋に戻れなかった。そういえば僕がいるのに冒険者たちは普通に近寄ってきた。自分の腕に自信があり、普段から魔物を相手にしている冒険者だからだろうか。僕は魔物ではないけど、『破壊神』はみんなからしたら魔物みたいなものかもしれない。そう自分で解釈して少し凹んだ。
「アダム、お祭りって楽しいな」
また不意打ちで輝くようなイケメンスマイルが向けられて、ドキドキしてしまった。さっきまでの沈んだ気持ちが一気に吹き飛ぶ。
「そうだな」
そうだった。ロディは森や牢にいたんだ。祭りはこれが初めてだったんだろう。開催してよかった。また来年もやろう。
ロディが楽しそうにしていることが何よりも嬉しかった。
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