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二章:ロディ視点
16.護衛と『モジャ』
しおりを挟む俺の側に二人の男が付き纏うようになった。護衛なのだとか。護衛はたまに交代するが、ほとんど同じ人だ。付き纏っているが、俺に魔術を当てたり怒鳴ったりはしない。魔力が少ないことを怒ったりもしない。
なぜ付き纏うのかと聞いたら、「守るため」と言った。護衛とは、俺のことを守ってくれる人たちのことだった。
髪がオレンジ色で細身のカミーユ、この男は他の人より短い剣を両手に持って使っている。俺の剣の先生だ。色んな話をするお喋りな人だ。
青い髪がクルクルして背中まであるアストロ、この男はとても髪が綺麗で細い剣を使っている。名前はレイピアと言っていた気がする。
黒髪で短髪の筋肉の塊みたいな大男のトミー、この男は大きな剣を使うんだが格闘も得意だ。握った拳が俺よりかなり大きい。岩のような手の持ち主だ。
大抵この三人が交代で、たまに違う人が来ることがある。
アダムのことが大好きで守りたいのだと話したら、驚いているような哀れむような変な顔をされた。怒鳴られなくてよかった。
俺のことを守る護衛がつくということは、やはり俺は弱いと思わている。だから午後になると戦いの練習をするところで教えてもらっている。
初めは大きな声で怒鳴るように何かを言われるのが怖くてたまらなかったんだが、それは俺が魔力が少ないから怒っているわけではなかった。魔術をバンバン当てられて的にされることもなかった。
「途中で『モジャ』を摘んでもいいですか?」
訓練場に行く途中で、『モジャ』の群生地の横を通ったから聞いてみた。
「は? 何と言った?」
「『モジャ』を摘んでもいいですか?」
今日の護衛のカミーユとアストロは、『モジャ』が分からず『モジャ』って何だ? と首を傾げていた。
「これです」
走って『モジャ』を摘んで戻ると、二人に見せた。
「この草っすか? 薬草? 何に使うんすか?」
カミーユはじっくりと『モジャ』を見て、興味がありそうだったけど、アストロは興味なさそうに「へ~」と言った。
「いい匂いがするんです」
「おおー、いい匂いだ!」
カミーユが喜んで『モジャ』の匂いを嗅ぐと、アストロも「ふむ」と匂いを嗅いでいた。
「なるほど、こんな雑草みたいなものでもいい匂いがするんだな」
アストロも気に入ってくれたみたいだ。
「部屋に置いておくといい匂いで、胸ポケットに入れたら、いつでもいい匂いで幸せですよ」
そう教えてあげたら、兵の間で『モジャ』が流行った。
みんなが摘んだら無くなってしまうと思ったんだが、訓練場の裏には信じられないくらいたくさん生えていたから、みんなで摘んでも大丈夫だった。
カミーユはよく俺に剣を教えてくれる。『キラキラした石がついた服を着た男』にもらった重い剣はほとんど使わず、木でできた剣の形をしたもので戦う。これの方が軽くて扱いやすい。ナイフよりは重いんだが、長さがある利点というのを知った。
ナイフのように懐に潜り込まなくても、逃げることができる間合いで戦えるのが便利だと思った。
みんな最初は俺のことを『ローデリック様』と呼んでいたんだが気持ち悪いからロディと呼ぶようにしてもらった。
「ロディ、カウンター技をもう覚えたんすか?」
「カウンター? なんだそれは」
剣を使うのにも、色々技の名前があることを知った。相手の動きを見て、そんな戦い方があるのかと参考にして、どうにか真似できないかと練習していたら、できるようになっただけだ。
兵のみんなは強い。さすが国を守る人たちだけある。体もしっかりと鍛えていて格好いい。
俺は勉強と剣の訓練が終わると、アダムの側にいく。
本当はいつでもずっと側にいたいんだけど、それでは何の役にも立たない置き物になってしまう。それではダメだ。俺はアダムに必要とされたいし好かれたいんだ。
アダムが読んでいる紙を読んでみたけど、読み方は分かっても書いてある内容の意味が分からない。もっと勉強しなければいけない。
色んなことを知って、色んなことを覚えて、魔術のことも勉強した。俺は魔力が少ないと散々怒られて、魔術を当てられてきたから怖かったけど、俺にも使えることが分かった。
コップに水を入れられるんだ。これで喉が渇いても水が飲めると喜んだ。たくさん出すとフラフラしてしまうが、コップ一杯なら平気だ。絶対に使えないと思っていた魔術が使えることが分かって先生に感謝した。
「俺は魔術が使えないと思っていた。先生、ありがとう」
「いいえ、ローデリック様が頑張ったから使えるようになったんですよ」
先生にとっては大したことない魔術なのに、俺が使えるようになったら一緒に喜んでくれた。
この地に住んでいる人はなぜこんなにいい人ばかりなんだろう? そういえば、ここにきてから一度も魔術を当てられていない。硬いパンも投げられていない。
勉強やマナーを教えてくれる先生にも「ロディ」と呼んでほしいと言ったんだが、それはどの先生からも断られた。「ロディ」はアダムがつけてくれた呼び名だから「ロディ」と呼ばれる方が好きだ。
いつも勉強や訓練がない時にアダムの側に立っていたら、隣に机と椅子を用意してくれた。
だからアダムの側にいても俺は勉強をすることになった。アダムが隣にいると思うと集中できなくて、アダムの横顔をじっと眺めてしまうことが多いけど、アダムの役に立てるように頑張ることにした。
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