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二章:ロディ視点
9.ロディの生い立ち
しおりを挟む俺は物心ついた時には森の中の家に住んでいた。どこの森かは分からない。とても小さい頃は女が一緒に住んでいた気がするが、いつの間にかいなくなっていた。
いつも来るのは、パンと野菜を持ってくる老婆。それとたまに『キラキラした石がついた服を着た男』が来る。
男には小さなナイフを渡されて森の奥に連れて行かれる。
「ここから家に帰ることができたら肉を食わせてやる」
そう言って、男は物凄い速さで去っていく。まばたきしたら見えなくなっていて、小さい頃はあんなに速く走れるなんて凄いと思った。
肉はご馳走だ。いつもは野菜をそのまま齧って、硬いパンを水に浸して食べるから、肉を食べられるのが楽しみで頑張った。
森には怖い生き物がたくさんいる。人じゃない変な色の尖った牙が生えたやつや、爪がナイフみたいで真っ赤な目が光ってるやつ。毛むくじゃらで角と牙が尖っているやつは、俺を見つけると突進してくるし、小動物や小鳥以外の生きものは、俺を見ると襲いかかってくる。
だから必死に走って、木に登ったり、草や蔓で罠を仕掛けたり、たまにナイフで戦ったりもした。
吹っ飛ばされて木にぶつかったり、ザクっと爪や牙で腕が切れて、たくさん血が出たこともあった。転んだり、木から落ちたり、痛いことも苦しいこともたくさんあった。でも森の家に戻ると、『キラキラした石がついた服を着た男』は肉をくれる。
体が大きくなると、肉は自分で調達できるようになった。
毛むくじゃらで角と牙がある生きもの(俺は『毛玉』と呼んでいる)をナイフで切り裂いた時、『キラキラした石がついた服を着た男』が焼いている肉みたいなものが見えた。皮を剥いで、肉みたいなところを切り取って、雨水を溜めている場所で洗ったら肉になった。
『キラキラした石がついた服を着た男』が肉を焼く時に使っていた石が置いてあったから、見様見真似でカチカチ叩きつけてみたら火が出た。それを使って火を起こして焼いてみたら、『毛玉』は肉としてちゃんと食べられることが分かったんだ。
そのまま焼かずに食べてみたら、翌日腹が痛くて死ぬかと思った。だから焼いて食べなければならないのだと知った。
『キラキラした石がついた服を着た男』は、俺が大きくなると、森に置き去りにはしなくなったけど、風や石を俺に当ててくるようになった。それが魔術だということ、男が速く走っていたのも魔術を使っているのだと知ったのはパンと野菜を持ってくる老婆が教えてくれたんだったか。不味い飲み物もたまに飲まされた。
何度聞いても魔術の使い方だけは教えてもらえなかった。
逃げ惑う俺を男は追いかけて、魔術を撃ちつけてくる。理由は分からない。ただ痛くて苦しくて、涙が出た。
男が俺に攻撃をする度に「なぜお前みたいな魔力が無い奴が我が家に生まれたんだ!」「何度戻ってきても、魔力が最低でも200を超えない限り、我が家には入れん!」「魔力無しの能無しめ!」そんなことを言っていた。だからそこで俺は、自分には『魔力』がないってことを知ったんだ。
実際には俺は魔力が無いのではなく、とても少ないらしい。そしてそれが理由で、この森の中に隠れるように住まわされていた。それを知ったのは、もっと後のことだ。
パンや野菜を持ってくる老婆に聞いてみた。俺は何者なのかと。
それまでは自分が何者であるかなんて疑問に思ったことはなかった。生きているだけで精一杯だったのが、成長すると色々なことを考えるようになって、疑問が湧いた。
そこで初めて、俺は貴族の息子なのだと知った。貴族が何なのかも教えてもらったけど、ちゃんと理解したわけではなかった。通常貴族の子は『魔力』が多いらしい。だが俺はその辺の平民の平均にも満たない。だから恥ずべき存在なのだと言われた。
たまに飲まされた不味い飲み物は、魔力が増えると言われる薬だったそうだ。効果があったのかは分からない。
自分でどうにかできるものなのかと聞いたけど、老婆は静かに首を振った。
老婆はパンや野菜を届けてくれる度に少しずつ世の中のことを教えてくれた。
十五で成人という大人になること、貴族であれば成人を迎えたら社交界という華やかな世界に行って、縁を結ぶのだとか。友人や仕事の仲間、恋人、結婚相手などを見つけたりするらしい。俺にもそんな人ができるんだろうか?
俺も行けるのかと聞いたら、たぶん無理だと言われた。
マナーも知らない、ダンスもできない、言葉遣いも、勉強や知識も不足していると。
自分ではどうしようもない事実に悲しくなる。俺はずっと一人なんだろうか?
たまに来る『キラキラした石がついた服を着た男』は、いつも俺を怒鳴って攻撃してくるし、そんなに嫌いなら、会いにこなければいいのにと思った。
街というところがあって、美味しい食べ物や服や、柔らかいパンが売っているのだとか。
お金というもので買い物ができると教えてもらった。
だから俺も何か売ればいいと思った。森の中で狩った『毛玉』や怖い生き物の肉が売れそうだと話の中で気づいたから、俺は森で狩った怖い生き物を街で売ることにしたんだ。
血抜きをして、そのまま丸ごと背負って街に向かった。街の入り口で強そうな人に止められたが、「冒険者なら仕方がないが、せめて解体してきてくれよ」と言われ、荷車を貸してくれて冒険者ギルドというところに一緒に運んでくれた。
世の中にはこんなに優しい人がいるんだとちょっと感動したんだが、肉を売って金をもらうと、手間賃をくれと言われて、どの硬貨を渡せばいいのか分からずにいたら、一番大きな硬貨を取っていった。
後にそれは怖い生き物の買取の大半だったことを知ったんだが、その時は知らなかった。
こうして何度か森で狩ったものを街で売って、柔らかい白いパンや甘辛いのがかかった肉などの美味しい食べ物を買って食べることを覚えたんだが、『キラキラした石がついた服を着た男』に見つかって、大きな家に連行された。
森の家には帰してもらえず、それからは地下室で柵と鍵がついた出られない冷たい部屋に閉じ込められた。
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