【完結】うちの子は可愛い弱虫

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47.婚約披露パーティー

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「エリオット、婚約披露パーティーのための衣装を仕立てましょう。」
「え?そのパーティーは必ず開かなければならないのですか?」
「当たり前でしょ。」
「分かりました。」

 ノアと結婚できると、ノアの兄たちともそれなりに良好な関係を築けていると、嬉しい気持ちで過ごしていたんだが、母上からまたしても難題を突きつけられた。

 婚約披露パーティーということは、私とノアが主役のパーティーだ。
 王城で開かれる王家主催の夜会のように、私には関係ないと壁際で時間を潰し、頃合いを見計らって退散することができないということだ。
 客を出迎えるところから、挨拶をし見送る時までずっと会場にいなければならない。
 憂鬱でしかない。

 衣装を母上に見立ててもらう。ノアにもうちに来てもらい同じように衣装を見立ててもらった。


 緊張しながら過ごす日々だった。
 当日、客を迎えるのは私の両親がやってくれた。
 貴族の階級格差があるということでノアの両親と兄たちは会場入り口ではなく会場で待つことになったが、あまり居心地がよくない様子が感じられた。
 今まで気付かなかったが、格差という問題はなかなか厄介なものに思える。

「公爵家と子爵家が縁を結ぶというのは前例がないのか?」
「あるんだけど、それは何番目かの側室として娶る場合で正室としては無いと思う。」
「そうなのか。」

 続々と訪れる客と会場の様子を裏から眺めながらノアと話をしていると、エディー夫妻もやってきた。
 もうそろそろ出て行かなければならないのか・・・

 なんだかド派手な衣装の子息子女が多い気がする。主役である私たちより目立つ金ピカの衣装の子息子女に、父上や母上は笑顔を崩してはいないが目が怒っている。
 あのような者たちは呼んだだろうか?

 会場にノアと共に出ていくと、来場者に向けて感謝の言葉を延べ、ダンスを一曲踊った。ダンスを人前で踊ったのは初めてだったが、ノアとなら楽しいと思えた。

 ダンスが終わると、ノアが押し退けられて、私の周りを派手な衣装の子息子女が取り囲んだ。
 無数の腕に左右に引っ張られ、揉みくちゃにされる。仮面のような化粧の女性も不気味だし、香水が入り混じった香りがなんとも不快でたまらない。

 ノアは兄たちに救出されたから怪我などは無いみたいでホッとしたが、私の方はそうもいかなかった。
 令嬢が持っている扇子や、大きな宝飾品が当たって、痛いと声を上げる者がいる。

「私は伯爵家です。あんな子爵の三男なんかより私を。」
「あんな子爵の男では子を産めません。お考え直しを。私はどうです?」
「側室でいいので私とも婚姻を。」

 みんな好き勝手言っている。
 周りを取り囲む子息子女だけでなく、遠くからも子爵家の三男など相応しくないだの、ノアを傷つけるような言葉も聞こえてくる。
 心がどんどん冷えていく。今日は私とノアの婚約を発表する場であって、私はノアの側にいられると思っていたし、側にいたかった。

 冷えていく心と一緒に、殺気も溢れていくと、私を取り囲んでいた子息子女が距離を取り始めた。
 するとノアの兄たちが私を守るように子息子女との間に入ってくれて、やっと普通に息ができた。

 私はノアと結婚するんだ。ノアを守り、そしてノアを幸せにしなければならない。ノアの相手に相応しい自分でありたい。
 震えそうな手を握りしめてノアを見る。

「私エリオット・ホワイトは、ノア・コックスと婚約した。本日はその発表の場であり、私たちを祝う気のない者は退場していただきたい。
 私はノア以外の者を娶る気はない。生涯私が愛するのはノアだけだ。」

 そう宣言すると、会場はシンと静まり返った。

 するとエディーが私の横に歩いてきて口を開く。

「ここは公爵家の婚約発表の会場であるのに、主役である2人より目立つ衣装を着てくるとは不敬な者が多いな。」

「そうだな。ホワイト公爵家を軽んじている者たちの名は控えている。後ほど抗議させてもらうこととしよう。」

 そこに父上もそう発言を加えた。

「その辺りの見苦しい方達はすぐに会場の外に連れ出してちょうだい。不愉快だわ。」

 母上の声に、うちの私兵たちが私を取り囲んでいた子息子女や野次を飛ばした者を次々と退場させていった。
 その様子をボーっと見ていると、彼らの退場が終わった頃に現れた人物を見て私は一気に血の気が引いた。

 キャス・・・なぜここに?

 すると私の様子がおかしいことに気付いたノアが私の隣に立って震える手をギュッと握った。
 そうだ。私にはノアがいる。もう私は大丈夫だ。しっかりと目の前に立ったキャスの目を見た。

「エリ、いい人を見つけたのね、安心したわ。幸せになるのよ。」

 そう声をかけられ、その場では「分かった」と一言言うのが精一杯だった。
 あの頃の人を見下すような目ではなく、怒った顔でもなく、微笑んだキャスを初めて見た気がする。
 ずっと怖くて彼女の顔など見れなかった。だから微笑むことがあるなんて知らなかった。


「仕切り直してパーティーを進めましょう。」

 母上の言葉にハッと我に返る。

 ノアと共に、会場に残った人たちに挨拶をして回る。
 時々キャスを横目で見ると、怒っている様子はなく、ずっと笑顔だった。

 最後に少し緊張しながらキャスの元に向かう。

「本日は私たちの婚約披露パーティーにお越しいただきありがとうございます。」
「エディーにエリが結婚するって聞いて心配で来ちゃった。」
「心配?」
「そうよ。でもさっきのエリの堂々とした宣言を聞いて安心したわ。ノアさんエリのことよろしくね。」
「はい。」

 そう言うと、キャスは会場を後にした。
 ノアと繋いだ手は震えていないし、私は俯いていない。ちゃんと前を向いて見送ることができた。

 ノアのおかげだ。
 そして、私を守るために間に入ってくれたカイ兄さんとリキ兄さん、エディーと父上と母上。
 応援してくれるみんなの期待に応えるためにも、私は必ずノアを幸せにします。

  
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