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46.兄貴たちとエリオ(ノア視点)

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 エリオから飲みに行こうと連絡が来て、そんな時に限って少し仕事が終わるのが遅くなった。
 待たせてしまって悪いな。そんな思いで急ぎ店に向かった。

「おつかれ~、って兄たちもいたのか。エリオと2人だと思ったのに。」
「悪かったな俺らがいて。」
「エリオが誘ってくれたんだ。」

「エリオが?へぇー、エリオがね。」

 エリオが誘った?兄貴たちを?
 それはかなり勇気を出したんだろう。
 エリオも頑張って兄貴たちと仲良くなろうとしてくれているのが分かって嬉しかった。

「ノア・・・会いたかった。」

 頬を染めてふにゃりと柔らかい笑みを浮かべたエリオが立ち上がって僕に抱きついてきた。
 え!?兄貴たちの前で?

 可愛いけど、嬉しいけど、普通じゃないエリオに戸惑った。この感じ、もしかして酔ってる?
 兄貴たちもエリオの様子に目を見開いている。

「ノア、怖かった。」
「うん。もう大丈夫だよ。僕がいるから。
 兄貴たちまたエリオに何か言ったの?」

 兄貴たちは席を立ってあわあわと慌てている。

「いや、今日はそんなこと言ってないはずだ。そうだよな?」
「あぁ、言っていない。と思う。」
「今まで失礼な態度とか取ってたし、怪しい。」

 エリオはこんなに可愛いんだ。冷酷などあり得ない。兄貴たちも早く分かってよ。

 それにしても酔ったエリオは久しぶりだな。
 兄貴たちが怖くて緊張して酒が進んでしまったのかもしれない。

 背中をヨシヨシと撫でていると、エリオは急に僕から離れて、何か覚悟を決めたように見えた。

「リキ兄さん、カイ兄さん、嫌かもしれないが、これからは家族として仲良くしてほしい。」

 2人の前に立ってエリオはそう言いながら兄貴たちを交互に見上げた。
 やっぱり緊張してるのか、手はモジモジと動いているけど、勇気出したんだろうな。
 いつもなら緊張で鋭くなる目つきも、酒のせいで柔らかい微笑みへと変化しいる。頬を染めながら上目遣いにそんなこと言われたら、僕ならギュッて抱きしめる。

 やっぱり落ちたのは兄貴たちだった。
 2人一緒にエリオのこと抱きしめるから、エリオが間に挟まれて押しつぶされた。

「グェッ」

 可哀想に。筋肉の塊に押しつぶされて、エリオは苦しそうな声を出した。

「ちょっと、兄貴たちエリオが苦しそう。放してよ。」
「あぁ、すまん。」
「思わず。」

 エリオはやっぱり怖かったみたいで、僕のところに逃げるように帰ってきて、僕の後ろに隠れた。
 そしてエリオを眺める兄貴たちはデレデレとだらしない。

「エリオって本当はそんなんなんだな。」
「んー、これはたぶん酔ってるからじゃない?兄貴たちが怖くて緊張してたんだと思う。」

 ようやくみんな落ち着いて席に座ると、エリオは僕の左手をギュッと握って離してはくれなかった。たぶんまだ不安なんだろうな。

「副団長の時のイメージと違いすぎる。」
「あー、たぶんそれ緊張して顔が強張ってるだけだと思う。」
「緊張?」

「ノア・・・なぜ私の情けないところを話す?私が嫌われてもいいのか?」
「大丈夫。もう兄貴たちエリオの虜だし。」
「そんなわけない。最初から嫌われていたけど、もっと嫌われたかもしれない。認めてもらえても、それは好き嫌いとは別の問題だ。」

「大丈夫だよ。兄貴たちの顔見てみてよ。デレデレとだらしない顔しちゃってさ。」
「ノア、最近のお前は俺たちに対する態度が酷くないか?」
「そうだぞ。」

 兄貴たちは抗議してきたが、その顔も目尻が下がってだらしないんだよ。

「まぁ何にせよ俺たちは兄弟になる。末っ子だからと甘やかしてきたが、もう末っ子はノアじゃない。俺らはエリオを末っ子として大切にする。」
「ふーん、別にいいけど?僕にはエリオがいるし。」

 エリオをチラリと見てみると、もう眠ってしまいそうに体が揺れて目も半分くらいしか開いてなかった。

「兄貴たち、エリオのこと少しは分かったでしょ?」
「そうだな。可愛らしいことは分かった。」

「そのこともそうだけど、冷酷っての嘘だから。エリオが冷酷だったことなんて一度もない。
 僕なんて下位貴族で三男だよ?初対面で敬語苦手だって言ったらいつも通りの話し方でいいって言ってくれた。全く驕った部分が無いんだ。」
「そうなのか。」

「エリオって公爵家も背負って、副団長の地位も背負ってるから、威厳って意味で冷酷と評されるのは悪くないかもしれない。助けてあげてほしいとまでは言わないけど、本当は優しいってこと知っておいて。」
「分かった。」

「ノア・・・側にいて。」

 エリオの寝言、可愛すぎる。

「可愛い弟ができたな。」
「俺らは本当に誤解ばかりしていたんだな。領地の異変に気付いてすぐに動いてくれたのもエリオだったな。あの時にノアに対して優しいのは分かっていたが、友達というなら理解できても、ノアと恋人になったと言われた時は信じられなかった。だって公爵家だぞ?」
「兄貴たちの気持ちも分からなくはないけど、なんの根拠もなく嘘だなんて言われてエリオは傷付いたと思うよ。」

「それは本当に、すまないと思ってる。」
「あの後、たまに騎士団の中で微笑むこともあったんだ。嫌がることなく剣士に魔法を教えてくれたり、魔法騎士のレベルもかなり上がったと聞いている。」
「やっぱりそうなんだ。」

「エリオ、みんなに力が付いてきた時なんて言ったと思う?」
「やっと周りが追いついてきた。とか?」
「あんなのはレベルが上がったうちに入らない。とかか?」

「違うよ。私は大したことはしていない。私でも役に立てることがあるなら嬉しい。って。」
「・・・そうか。罪悪感しかない。俺らの態度、本当に酷かったんだな。」
「反省してます。」

 ようやく兄貴たちもエリオのこと少しは理解できたみたいだ。
 それってもしかして僕がちゃんと説明しておいたらよかったのかな?
 そしたらエリオが兄貴たちを怖いと恐れることもなかったのかもしれない。
 結局エリオを傷つける結果を作り出していたのは僕かもしれない。

「僕も反省してる。エリオの優しさに甘えてた。負担ばかりかけてた。」
「なんでエリオはノアを選んだんだろうな?不思議だ。」
「だよな。ノアなんかなんの気遣いもできないし、礼儀作法もな・・・。
 ノア、公爵家に行くならマナーはちゃんと学び直せよ。エリオに迷惑がかかる。」

「あー、そこだけはちょっと憂鬱。」
「ノア、贅沢だぞ。」
「ちゃんとやれよ。」

 僕に新たな問題が発生した。
 でも、エリオが僕と結婚するために精神をすり減らして頑張ってたことを考えると、僕だけ無理だなんて言えない。
 僕も覚悟を決めなきゃ。


  
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