【完結】うちの子は可愛い弱虫

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45.ノアの兄たちの変化

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 ノアの両親が座るソファーの後ろに直立不動の兄たちの圧がとても怖い。
 私をやる隙を窺っているのではないよな?

「ホワイト副団長、」
「な、なんだ?」

 来たか。罵倒されるのか、それとも剣を抜かれるか、それほど広くない室内だから素手で拳が飛んでくるか?それとも短剣だろうか?
 緊張して背中を冷たい汗がツーッと伝った。

「「申し訳ありませんでした!」」
「は?」

 兄たちは私に深々と頭を下げた。何のことだ?何に対しての謝罪だ?
 まさかこれから殺すことに対して、先に謝っておこうということじゃないよな?

「俺たちは副団長に失礼なことばかりしてしまった。副団長のことを理解しようとしなかった。ノアのことをよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」

「わ、分かった。」

 これは、ノアとのことを認めてくれたのだと思っていいのか?それとも、油断させて隙をつくための演技か?
 緊張しながら、みんなに見送られて私は屋敷に帰ることになったのだが、背を向けても大丈夫なのか最後まで不安だった。

 しかし、何もなかった。
 認めてくれたのだと思っていいんだろうか。
 しばらくは警戒を解くことなく注意しておこう。


 翌日、私は出勤すると久しぶりに魔法騎士たちの訓練場に向かった。
 まだ夢を見ているのではないかとフワフワとした気持ちで、いつもより足取りも軽い気がする。

「副団長、おはようございます!」
「「「おはようございます!」」」

「あぁ、おはよう。」

 みんなの距離は少し遠く、私の様子を伺うような視線を感じる。
 居心地の悪さを感じてすぐに訓練場を後にし、剣士の訓練場へ向かった。

「副団長、おはようございます!」
「「「おはようございます!」」」

「あぁ、おはよう。」

 魔法騎士たちとの違いは、私を見つけたノアの兄たちがこちらに向かって身体強化まで使って駆けてきたことだろうか。
 そのままの勢いで私に剣を向ける気かと思いこっそり障壁の準備をした。

 しかし彼らは私の前に来ると「おはようございます!」と朝の挨拶をしただけだった。

「副団長、これから走るのですか?ご一緒していいですか?」
「あ、あぁ。」

 相変わらず圧は強いが、私に危害を加えようとしているわけではないらしい。
 よく考えてみると、この2人はノアの兄だ。ノアの兄ということは結婚すれば私の義理の兄となるわけで、私も兄として接した方がいいのだろうか?
 今すぐには無理だが、兄か。憧れたことはあった。兄という存在に。

 そんなことを考えながら、私は剣士たちと共に久しぶりに走った。
 その後は以前のように身体強化の練習を見たり、上手く使えない者にはアドバイスを送ったりして過ごした。

 穏やかな日々と、私の心にも平穏が戻ってきた。


「ホワイト副団長!」

 食堂へ向かうため廊下を歩いていると、後ろから声をかけられ振り向くと、ノアの兄たちがいた。

「どうかしたのか?」
「昼食をご一緒してもいいですか?」
「あぁ、構わない。」

 結婚の了承をもらった日から、兄たちは私に構ってくることが増えた。
 これは歩み寄ろうとしてくれているということでいいんだろうか?
 それなら、私も歩み寄る努力をしなければならない。

 緊張しながらも、私は兄たちを飲みに誘ってみることにした。
 誰かを飲みに誘うなど初めてで、断られたら暫く立ち直れないかもしれないが、ノアの兄たちをずっと怖がったままでいてはいけないと思い、勇気を出した。

「その、今夜ノアも含めて飲みに行くか?」
「「ぜひ!」」

 相変わらず圧は強いし声も大きいが、これは好意だと思っていいんだよな?
 大きい声で被せ気味に返事をされたせいでまだ心臓はドキドキしているが、無事誘えてよかった。

 個室の店に入ると、ノアはまだ来ていなくて、部屋には私と兄たちというとても気まずい空気が流れる。

「副団長、今日は誘っていただきありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
「いや、いいんだ。・・・騎士団を出たら、副団長はなく名前で呼んでくれていい。」

 いきなり距離を詰めすぎたか?
 しかし、義理の兄から騎士団の外でも役職で呼ばれるのは違うと思った。

「じゃあ俺のこともリキでいい。」
「俺はカイで。呼び捨てで構わない。俺らの方が立場は下だしな。」
「分かった。」

 了承してくれてよかった。立場が下だと言っていたから、逆らえなかっただけかもしれないが。

 そして訪れる沈黙。勇気を振り絞って飲みに誘ってみたものの、何を話せばいいのか分からない。やはり怖い気持ちが強く、なぜ私とノアの結婚を受け入れてくれたのか分からない。
 なぜ急に歩み寄ってくれるようになったのかも分からない。

 ノア早く来て。

 気まずい空気と、手持ち無沙汰と兄たちの視線に耐えられず、酒が進んだ。

「なぜ・・・」
「え?」
「どうかしましたか?ふく、あ、エリオット様。」

「弟、だからエリオでいい。様など付けなくても。敬語もいらない。」
「分かりました。」

 私のような弟は嫌だろうが、私は歩み寄ると決めたんだ。ノアの家族だから。

「あんなに反対していたのに、私はノアと結婚していいのか?」
「ノアのこと本気なんだろ?大切にしてくれてるんだろ?」

「本気だ。何より誰よりも大切だ。」
「それが嘘じゃないと分かった。だから俺たちは2人の結婚を認めることにしたんだ。」
「色々と失礼なことを言って申し訳なかった。」

 そうなのか。いつから信じてくれたのかは分からないが、認めてくれているのは本当のようだ。
 ホッとしたら少し気が抜けて、急に酔いが回ってきた。
 フワフワする。

「おつかれ~、って兄たちもいたのか。エリオと2人だと思ったのに。」
「悪かったな俺らがいて。」
「エリオが誘ってくれたんだ。」

「エリオが?へぇー、エリオがね。」

 ノアが来てくれた。会いたかった。やっと会えた。

「ノア・・・会いたかった。」

 ノアに触れたくて、私は席を立ってノアにギュッと抱きついた。
 その後は兄たちとも会話ができて、少しは仲を深められたのだと思う。
 よかった。

  
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