42 / 49
42.エリオのために
しおりを挟む>>>母たち
「このままではエリオットの心が壊れてしまうわ。」
「私ですら坊ちゃまのお部屋に入れてもらえません。こんなことは初めてです。」
心配そうに侍女のリーナが言う。
「確かに見合いは上手くいっていなかったが、ワシには急にエリオットが心を閉ざしたように見える。何があった?」
「分かりません。騎士団でも半年前から始めた部下の育成を急に止めたと、ずっと参加されていた訓練も今は参加していないそうです。」
「エリオットは仕事を放棄したのか?」
「書類仕事などはきちんとこなしているようです。」
「そうか。部屋に引きこもっても仕事には行っているし、社会との関係を絶ったわけではないんだな。」
「それが・・・あの夜会以来、誰もエリオット様の姿を見ていないようです。」
「・・・ノア殿に頼もう。ピエール、コックス子爵邸に連絡を頼む。」
「畏まりました。」
「私も行くわ。」
「エリオットがノア殿を迎えたいのは明らかだった。見合いなど無理にせずとも彼だけでよかったんだ。」
「そうですわね。」
こうして両親は揃って子爵邸に向かうことになった。
>>>ノア視点
「急遽帰ってきてもらってすまない、お前たち。」
「父上、それで何があったのですか?」
ここ、王都のコックス子爵邸にはノアの両親が領地から駆けつけ、僕だけでなく兄2人も呼ばれていた。父上の顔色は非常に悪い。
「ホワイト公爵夫妻が揃って来訪されると。大切な話があると書かれていた。」
「そうですか。」
「ノア、何か心当たりは?」
「僕は特にない。」
エリオからはその後特に何も連絡はないし、僕に用事というわけではないと思う。
それより兄貴たちがまた何かエリオに失礼なことをしたんじゃないか?
「ではお前らか?何か心当たりは?」
「兄貴たちはエリオに何度も失礼なことをしてるよね。僕から見ても目に余るようなことを何度も。数ヶ月前のあの日は特に酷かった。公爵家令息で副団長のエリオを呼び出した挙句、嘘つき呼ばわりしたし。侮辱もしたよね。騎士団でも余計なこと吹聴したりしたんじゃないの?」
エリオの両親が揃って来訪するなど、とんでもないことをしでかしたのだと思った。
あれ以来僕は兄貴たちと口を聞いていないし、何があったのかは知らないけど余計なことをしてそうな気はする。
「はー、私の首で足りるだろうか。コックス子爵家も終わりということか。私が育て方を間違えたんだな。」
「父上・・・そんなつもりでは・・・」
「お前たちは何が不満でそんなことをしたのか知らんが、今更もうどうにもならん。お前たちも覚悟を決めておけ。」
「「・・・はい。」」
父上の首か・・・。
そうだよな。エリオは公爵家の後継。通常であれば僕たちが簡単に口を聞いてもらえるような人物ではないんだ。
「コックス殿、急に押しかけて申し訳ない。」
「いえ、うちの愚息がホワイト様のご子息に何か失礼をしたようで・・・誠に申し訳ございません。」
血の気の引いた真っ白な顔で父上は頭を下げた。
「はて?そのような話は聞いていないが、それより今日はお願いがあって参ったのだ。」
「・・・はい。」
「そちらの三男であるノア殿を我が家に貰い受けたい。」
「下男として、ということでしょうか。」
ん?もしやエリオの正室が決まったのか?それで正式に僕のところに婚約の打診?
だとするとなぜエリオから連絡がないのかが不思議だ。下男、父上がそう思うのも無理はないよな。
「いや、ノアさんさえ良ければエリオットの結婚相手としてなんだが、どうだろうか?」
「そ、その、ノアを差し出せば許してもらえるのでしょうか。」
「その許すというのはなんだろうか、こちらは怒っているわけではないのだが。
それでノアさん、どうだろうか?」
「エリオは、あ、エリオット様のご意志は?」
エリオから連絡が無いのに僕の意思だけで決めていいのか迷った。
「うん・・・お恥ずかしい話ですがエリオットは人付き合いが苦手でね、ノアさんと結婚できるならと形だけの正室を探そうと頑張っていたんだが、無理が祟ったようでね。心を閉ざしたというか、人との関わりを絶って姿を見せなくなってしまったんだ。」
「え?」
心を閉ざした?姿を見せなくなった?それは家ではということだろうか。
仕事から帰って、机の陰で膝を抱えるエリオの姿が想像できる。
そう簡単にはいかないと思っていたが、やはり落ち込んでいるんだろうか。
「君たちも騎士団で最近エリオットの姿を見ていないんじゃないか?」
「そういえば・・・」
「以前は剣士部隊にも頻繁にいらして訓練を一緒にしたり魔法の指導をしたりしていましたが、最近は見ていない気がします。」
「ちょっと待って、兄貴たちそれ本当?」
「そうだな。」
家だけじゃないってこと?
「ここ最近は誰にも姿を見せていないようなんだ。騎士団でも。書類仕事はやっているようなんだが。侍女や使用人さえ部屋に入れることがなくてね。」
まさか、僕がエリオを追い詰めたのか?
エリオ・・・
「話を、エリオと話をさせてください。」
「うん。ぜひそうしてやってほしい。ノアさんなら話してくれるかもしれない。」
「僕行ってくる!」
「ノア!待ち・・・」
僕は父上の制止を振り切って部屋を出て玄関を出ると、ホワイト公爵家の馬車が停まっており「ノア様どうぞ」と言われ馬車に乗せられて行くことになった。
ノアが出ていった屋敷では
「あの、なぜノアを?」
「ん?コックス殿は聞いておられないのか?エリオットとノアさんは恋人同士だったんですよ。
エリオットが唯一心を開いているのがノアさんだ。」
「そ、そうですか。その、うちは子爵で、ノアは三男ですが・・・」
「そうだね。それをノアさんは気にしていたんだろう。エリオットに、正室を持ち子ができたら結婚してもいいと言ったそうだ。」
「なるほど。エリオット様のご正室なら成り手はいくらでもいそうですが。」
「そう思うだろう?でもあの子には無理なんだ。」
「あの、発言をしてもよろしいでしょうか?」
恐る恐るといった様子でノアの兄は尋ねた。
「いいよ」
「エリオット様には他に恋人や婚約者がいたりは?」
「ん?無いね。全く無い。ノアさんと仲良くなる前なんて外出すらしなかったからね。だからノアさんには感謝しています。」
「そ、そうですか・・・」
「なので、ノアさんの了承があればノアさんをエリオットの正室に迎えたい。」
兄たちは顔を見合わせ、気まずそうに俯いた。
59
お気に入りに追加
279
あなたにおすすめの小説
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる