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42.エリオのために
しおりを挟む>>>母たち
「このままではエリオットの心が壊れてしまうわ。」
「私ですら坊ちゃまのお部屋に入れてもらえません。こんなことは初めてです。」
心配そうに侍女のリーナが言う。
「確かに見合いは上手くいっていなかったが、ワシには急にエリオットが心を閉ざしたように見える。何があった?」
「分かりません。騎士団でも半年前から始めた部下の育成を急に止めたと、ずっと参加されていた訓練も今は参加していないそうです。」
「エリオットは仕事を放棄したのか?」
「書類仕事などはきちんとこなしているようです。」
「そうか。部屋に引きこもっても仕事には行っているし、社会との関係を絶ったわけではないんだな。」
「それが・・・あの夜会以来、誰もエリオット様の姿を見ていないようです。」
「・・・ノア殿に頼もう。ピエール、コックス子爵邸に連絡を頼む。」
「畏まりました。」
「私も行くわ。」
「エリオットがノア殿を迎えたいのは明らかだった。見合いなど無理にせずとも彼だけでよかったんだ。」
「そうですわね。」
こうして両親は揃って子爵邸に向かうことになった。
>>>ノア視点
「急遽帰ってきてもらってすまない、お前たち。」
「父上、それで何があったのですか?」
ここ、王都のコックス子爵邸にはノアの両親が領地から駆けつけ、僕だけでなく兄2人も呼ばれていた。父上の顔色は非常に悪い。
「ホワイト公爵夫妻が揃って来訪されると。大切な話があると書かれていた。」
「そうですか。」
「ノア、何か心当たりは?」
「僕は特にない。」
エリオからはその後特に何も連絡はないし、僕に用事というわけではないと思う。
それより兄貴たちがまた何かエリオに失礼なことをしたんじゃないか?
「ではお前らか?何か心当たりは?」
「兄貴たちはエリオに何度も失礼なことをしてるよね。僕から見ても目に余るようなことを何度も。数ヶ月前のあの日は特に酷かった。公爵家令息で副団長のエリオを呼び出した挙句、嘘つき呼ばわりしたし。侮辱もしたよね。騎士団でも余計なこと吹聴したりしたんじゃないの?」
エリオの両親が揃って来訪するなど、とんでもないことをしでかしたのだと思った。
あれ以来僕は兄貴たちと口を聞いていないし、何があったのかは知らないけど余計なことをしてそうな気はする。
「はー、私の首で足りるだろうか。コックス子爵家も終わりということか。私が育て方を間違えたんだな。」
「父上・・・そんなつもりでは・・・」
「お前たちは何が不満でそんなことをしたのか知らんが、今更もうどうにもならん。お前たちも覚悟を決めておけ。」
「「・・・はい。」」
父上の首か・・・。
そうだよな。エリオは公爵家の後継。通常であれば僕たちが簡単に口を聞いてもらえるような人物ではないんだ。
「コックス殿、急に押しかけて申し訳ない。」
「いえ、うちの愚息がホワイト様のご子息に何か失礼をしたようで・・・誠に申し訳ございません。」
血の気の引いた真っ白な顔で父上は頭を下げた。
「はて?そのような話は聞いていないが、それより今日はお願いがあって参ったのだ。」
「・・・はい。」
「そちらの三男であるノア殿を我が家に貰い受けたい。」
「下男として、ということでしょうか。」
ん?もしやエリオの正室が決まったのか?それで正式に僕のところに婚約の打診?
だとするとなぜエリオから連絡がないのかが不思議だ。下男、父上がそう思うのも無理はないよな。
「いや、ノアさんさえ良ければエリオットの結婚相手としてなんだが、どうだろうか?」
「そ、その、ノアを差し出せば許してもらえるのでしょうか。」
「その許すというのはなんだろうか、こちらは怒っているわけではないのだが。
それでノアさん、どうだろうか?」
「エリオは、あ、エリオット様のご意志は?」
エリオから連絡が無いのに僕の意思だけで決めていいのか迷った。
「うん・・・お恥ずかしい話ですがエリオットは人付き合いが苦手でね、ノアさんと結婚できるならと形だけの正室を探そうと頑張っていたんだが、無理が祟ったようでね。心を閉ざしたというか、人との関わりを絶って姿を見せなくなってしまったんだ。」
「え?」
心を閉ざした?姿を見せなくなった?それは家ではということだろうか。
仕事から帰って、机の陰で膝を抱えるエリオの姿が想像できる。
そう簡単にはいかないと思っていたが、やはり落ち込んでいるんだろうか。
「君たちも騎士団で最近エリオットの姿を見ていないんじゃないか?」
「そういえば・・・」
「以前は剣士部隊にも頻繁にいらして訓練を一緒にしたり魔法の指導をしたりしていましたが、最近は見ていない気がします。」
「ちょっと待って、兄貴たちそれ本当?」
「そうだな。」
家だけじゃないってこと?
「ここ最近は誰にも姿を見せていないようなんだ。騎士団でも。書類仕事はやっているようなんだが。侍女や使用人さえ部屋に入れることがなくてね。」
まさか、僕がエリオを追い詰めたのか?
エリオ・・・
「話を、エリオと話をさせてください。」
「うん。ぜひそうしてやってほしい。ノアさんなら話してくれるかもしれない。」
「僕行ってくる!」
「ノア!待ち・・・」
僕は父上の制止を振り切って部屋を出て玄関を出ると、ホワイト公爵家の馬車が停まっており「ノア様どうぞ」と言われ馬車に乗せられて行くことになった。
ノアが出ていった屋敷では
「あの、なぜノアを?」
「ん?コックス殿は聞いておられないのか?エリオットとノアさんは恋人同士だったんですよ。
エリオットが唯一心を開いているのがノアさんだ。」
「そ、そうですか。その、うちは子爵で、ノアは三男ですが・・・」
「そうだね。それをノアさんは気にしていたんだろう。エリオットに、正室を持ち子ができたら結婚してもいいと言ったそうだ。」
「なるほど。エリオット様のご正室なら成り手はいくらでもいそうですが。」
「そう思うだろう?でもあの子には無理なんだ。」
「あの、発言をしてもよろしいでしょうか?」
恐る恐るといった様子でノアの兄は尋ねた。
「いいよ」
「エリオット様には他に恋人や婚約者がいたりは?」
「ん?無いね。全く無い。ノアさんと仲良くなる前なんて外出すらしなかったからね。だからノアさんには感謝しています。」
「そ、そうですか・・・」
「なので、ノアさんの了承があればノアさんをエリオットの正室に迎えたい。」
兄たちは顔を見合わせ、気まずそうに俯いた。
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