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41.騎士団の底上げと上手くいかないお見合い
しおりを挟む私はノアに結婚を了承してもらえたのだと舞い上がって、魔法騎士たちの育成に励んだ。
中隊単位で見に行き、希望する者を並ばせて、魔力を干渉させて魔法の撃ち方を教えていく。
キーノとカルムは、私に迷惑をかけたと、その後の指導をかって出てくれたので、任せることにした。
キーノとカルムに指導されて上達した者たちが、更に他の者へ教えていくという好循環が生まれ、みるみるうちに底上げは進んでいった。
剣士たちの間でも身体強化が広がり、使える者も増えている。
両親にはノアと結婚したいことを伝えた。
そのためにノアから出された条件も伝え、そこをクリアできればノアと結婚できるのだから、何としてでも形だけの正室を娶り子を成したいのだと伝えた。
ここに集まっているのはエリオットの両親と家礼のピエール。
「ピエール・・・上手くいくかしら?」
「エリオット様がやる気に満ち溢れておられるので我らも協力したいと思います。」
「旦那様、どうかしら?」
「ワシはエリオットが幸せであればいい。エリオットの意思を尊重したいが、もし無理ならばノア殿を正室に迎えてもいいと思っている。」
「そうね。まずはエリオットの意思を尊重しましょうか。幸いエリオットの正室になりたい者は山ほどいるわ。」
「なるべく落ち着いた、穏やかな方を勧めてみましょうか。」
「そうね。できればお金に汚い野心家でない家がいいわね。形だけとはいえ正室ですから。」
「爵位は伯爵家以上でしょうか。」
「できることならね。無理そうならば子爵家でもいいわ。近隣の国も対象に広い範囲で探してみましょう。」
「畏まりました。」
「エリオット、さっそくお見合いをセッティングしたわよ。」
「母上、ありがとうございます。頑張ってきます。」
初めのお見合いはハルヴァ侯爵家の三女で私より3歳下らしい。
サロンにて待っていると、髪の上に花を大量に飾って、ゴテゴテと重そうな宝石を大量に身につけた女性が、これまた重そうな黄金のドレスでやってきた。
眩しくて目が潰れそうだ。
近づいてくると、素顔が分からないほどに化粧を塗りたくられた顔でゾッとした。
「エリオット・ホワイトと申します。」
名前は、名前だけは何とか言うことができた。
「ティーナ・ハルヴァでございます。」
酷い香りが目に染みる。この人は香水を頭から被ってきたんだろうか?
カラカラに乾いた喉に紅茶を少し流し込んだら、香水を飲んでいるようで戻しそうになった。
とてもこれ以上は無理だと思って、「失礼します。」と小声で言いながら退席した。
しかし、こんなところで挫けてはいけない。ノアと結婚するために何としても正室を娶らなければ。
「副団長、雰囲気が柔らかくなったよな。」
「たまに微笑んでいる姿を見る。」
「あんな顔することあるんだな。」
「結婚相手を探しているという噂を聞いた。」
「そうなのか。いくらでもいるよな。女か?男か?俺も今の副団長なら結婚したいな。」
「は?馬鹿か?お前如きが相手されるわけないだろ。」
「相手は女らしい。まぁそうだよな。世継ぎが必要だろうしな。」
そんな噂が騎士団の中に広まったことで、部下に手を出したという噂はいつの間にか消えていた。
きっと頭に花を大量に乗せるのも、宝石を大量に飾るのも、派手なドレスを着るのも、仮面のような化粧をするのも、令嬢の間で流行っているのだろう。
だから仕方ないのだと自分に言い聞かせた。
しかし、その仮面のような真っ白な顔を見ると一言も話せなくなる。
中には、席に座らず私の目の前まで来て腕を掴んだ者もいた。鳥肌が立ち、私は腕を解いて逃げた。
しかし、これをクリアしなければノアとの結婚は無い。ノアとの未来のために頑張るしかないと気合を入れる。
頑張ろうと思えば思うほどに言葉が出なくなり、相手の話にも「あぁ、」という素っ気ない返事しかできなくなる自分が情けない。
子を成すということは、子作りをしなければならないということで、そこが思った以上にハードルを上げた。
この人と裸で抱き合えるのか?そう考えると、相手も私なんかは嫌だろうが、私もそんなことができそうな人は誰1人いなかった。
私にとってノアは特別なのだと思い知らされただけだ。キスしたいのも、抱き合いたいのも、触れたいのも、私にとってはノアだけで、他の者と・・・そう考えるだけで酷く不快に思った。
こんな私との見合いの席に来てくれるだけでもありがたいと思わなければならないし、ノアを長く待たせるわけにはいかないと、今日こそはと気合を入れて挑むのだが、上手くいかない日々が続く。
「リーナ、私は本当に情けない。早くノアを迎えに行きたいのに、上手くできないんだ。ベタベタと触られると不快に感じてしまう。」
「それは大変でしたね。彼女たちも坊ちゃまと結婚したいと必死なのでしょう。」
「そんなわけないだろう?
逆なのではないか?私との見合いが嫌だからあのような化粧をしたり、目が潰れそうな眩しいドレスを着たり、嫌われようとしているのかもしれない。」
「そうではないと思いますよ。」
この難関を突破しなければノアとの未来は無い。分かっているんだ。そこで私は気づいてしまった。
ノアに結婚を了承してもらえたと思っていた。しかし、嫌だから私にこのような難題を与えたのかもしれない。
ノアなら分かっていたはずだ。私が女性と結婚などできる人間ではないことを。
浮かれていたのは私だけで、あれは私を傷つけないように言った断り文句なのでは?
そうか・・・。そうだったんだな。
結婚したいと言わなければ、まだノアとの関係は続いていたんだろうか?
お見合いなどしても意味がない。
今更気付くなんて。
誰にも会いたくない。ノア以外の誰かなんて要らない。
私は皆を遠ざけるようになった。
みんなも分かっていたんだろ?私がノアに遠回しに断られたのだと。なぜ言ってくれなかったんだ?馬鹿みたいに浮かれて本当に恥ずかしい。
ノアがいない人生なんて・・・
見合いの失敗が重なる度に折れそうな心を必死に鼓舞して続けてきた魔法騎士の底上げも、訓練メニューの改善も、続けられなくなった。
剣士部隊に行くのもやめた。
「副団長、最近機嫌悪いな。訓練にも来ないし。」
「お見合いが上手くいっていないんじゃないか?」
「きっと理想が高いんだろう。あの副団長の隣に立つ女性なんだからな。」
「気軽に話しかけるのも難しくなったな。」
「また昔の冷酷な副団長に戻ってしまった。」
「部屋から冷気が漏れているという話を聞いた。」
「それは俺も聞いた。隊長にも副団長の部屋に近づくなと言われた。」
魔法騎士団の中でそんな話をされていることをエリオは知らなかった。
母上に見合いはもういいと手紙で断り、食事も部屋で一人でとるようになった。
両親はもちろんリーナもピエールを含め使用人の誰も部屋に入れなかったし、第二王子のエディーの面会も断った。
王城で開かれる夜会には貴族の義務として出席したが、ノアの姿を見たら苦しくてその場にいることはできなかった。
ノアは元気そうだった。それを最後に見れただけでいい。
身体強化を使ってすぐに会場を出ると、中庭から飛翔魔法を使って飛び立ち屋敷に帰った。
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