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40.ノアの兄たち

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 キーノとカルムの剣士たちへの指導の期間を過ぎても、私は剣士たちの様子を頻繁に見に行った。そのついでに走ったり、筋力トレーニングをしたりもする。

「副団長のおかげで身体強化を使えるようになりました。まだ実戦できちんと使えるか分かりませんが、必ずものにしてみせます。」
「そうだな。」

 最初に教えて欲しいと言ってきた者は20名程だったが、彼らができるようになると、自分も自分もと増えていったので、習得した者たちに指導を任せた。
 そして、どうしても上手くいかない者たちには私が様子を見てアドバイスをするということをしていたのだが、その中にノアの兄たちがいたんだ。

 嫌というわけではない。ただ、緊張するんだ。私はあまり好かれていないからな。


「副団長、ノアと仲良くしていただいているようで。」
「あ、あぁ。・・・そうだな。」

 緊張で喉が渇くし、思ったより低い声が出てしまった。

「ちょっと今日の夜に時間をもらえますか?」
「分かった。」

 何だろうか?とても恐ろしい。もしかして私がノアの恋人になったことを知って、それで殺してやろうとかそういうことだろうか?
 もしくは先日の部下を抱いたとかいう噂を信じてノアにも手を出していないだろうな?という確認だったり・・・
 いずれにせよ咎められそうな気がする。


 私は仕事が終わると兄たちと合流して個室の料理屋にいった。

「ノアもそのうち来るが、それまでに聞いておきたいことがある。」
「最近ノアがどこかに泊まって朝帰りすることがある。副団長と一緒にいると思っていいのか?」
「そうだな。」
「やっぱりそうか。」

 こうなったら隠さず言うべきだろう。別に後ろめたいことをしているわけではないのだから。

「ノアと私は恋人になった。」
「やはり恋人か・・・何人目の恋人なんだ?」

 何人目?恋人というのはそんなに複数作ったりできるものなのか?初めて知った。

「1人だ。ノアしかいない。」

「そんなわけないだろ!そうか、恋人はノアだけだが婚約者は何人もいるということか?」
「婚約者は1人もいない。」

 声は震えていなかっただろうか?やはりこの兄たちは圧が強くてとても怖い。

「別に俺たちに詳しく話す必要はないが、ノアにはきちんと話せ。ノアは恐らく本気だ。」
「俺たちの前でしっかりノアに説明しろ。」
「分かった。」

 分かったと言ったものの、説明とは何だ?ノアに本気だと説明すればいいんだろうか?
 ノアは私の気持ちを嘘だと思っていたりするんだろうか?



「お疲れー
 で、なんでエリオが兄貴たちと一緒にいるの?」

 ノア・・・
 ずっしりと重い空気を切り裂いて入ってきたのはノアだった。

「ノア、私はノアのこと本気だから。」
「え?いきなり何?」

 ノアが私の言葉に首を傾げ、兄たちに睨みを利かせた。

「兄貴たち、エリオに何したの?」

 冷えた指先をギュッと握りしめて、私は緊張していた。

「ノア、副団長はやめておけ。きっと本気じゃない。遊ばれて捨てられて傷つくのはノアだぞ。」
「エリオのこと何も知らないくせに追い詰めないでくれる?」
「は?追い詰める?」

「副団長は恋人はノアだけだと、婚約者もいないと言って俺たちに嘘をついた。」

 なぜノアの兄がそんなことを言うのか分からない。まさかあの噂のせいか?

「嘘ではない。ノア、本当だ。ノア以外に恋人はいないし、婚約者なんていない。」

 嘘ではないのに、ノアにも信じてもらえなかったらどうしよう。私はこんな真実ではないことでノアに嫌われるのか?
 こんなことでノアを失うのか?

「エリオ、大丈夫だよ。僕はエリオが嘘なんて言ってないことを知ってる。帰ろう。」
「あぁ、でもいいのか?」

 小刻みに震える私の手をノアが握って立たせてくれた。

「兄貴たち、本当にどうかと思うよ。
 副団長であり公爵家のエリオがわざわざ末端の兄貴たちの呼び出しに応じてくれてるの分かってる?」
「しかしノア、将来のことはどうする?結婚は無理だろ?副団長の愛人にでもなるつもりか?」

「私はノアと結婚したい。ノアがいいなら。」

 こんなところで結婚を申し込むなど間違っているかもしれない。両親にもそこまでのことは話していないし。
 ノアの親も許してくれるかは分からない。

 私が結婚したいと発言したことで、兄たちは固まってしまった。

 静まり返った個室で、最初に口を開いたのはノアだった。

「エリオ、嬉しいよ。でもエリオは公爵家の後継で、魔法の才能もある。子を残した方がいいと思うんだ。
 だから、正室を娶った後に側室ってことならいいよ。正室と子を成してそれでも僕が必要なら迎えに来て。」

 私は動けなかった。
 ノアが側室?子を成したら?
 どうしてこんなことになった?
 でも、形だけの正室を娶り子を成せばノアと結婚できるのか?それは私と結婚してくれるということか?

「分かった。」

 とにかく母上に相談してみよう。きっと母上なら形だけの正室を見つけてきてくれると思う。ノアを見つけてきてくれたんだから。

 条件さえクリアすればノアと結婚できる。
 私はノアとの未来が繋がったことが嬉しかった。

 
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